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第4次FATF対日相互審査を踏まえて

2019/10/28

執筆者:渡邉雅之
本日(2019年10月28日)からいよいよ、FATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)による、マネー・ローンダリングおよびテロ資金供与対策(「マネロン・テロ資金供与対策」)に関する第4次対日相互審査が開始します(11月15日までの3週間)。

※私がDIAMOND ONLINEにおいてコメントした『マネロン国際審査団が日本上陸、金融業界が恐れる二つの質問』もご覧ください。

第1週(10月28日〜11月1日)は当局へのヒアリング、第2週(11月5日)以降に、事業者(銀行等の預金取扱金融機関、金融商品取引業者、保険会社、資金移動業者、仮想通貨交換業者などの金融機関や、クレジットカード会社、ファイナンスリース会社、宝石・貴金属業者、郵便物受取サービス業者、弁護士・公認会計士・税理士・司法書士・行政書士等の職業専門家)に対するヒアリングを行うようです。ヒアリングを受ける事業者はすでに財務省から指定されているようです。
前回、2008年の第3次対日相互審査においては、日本は、当時のマネー・ローンダリング対策に関する「40の勧告」およびテロ資金供与対策に関する「9の特別勧告」に関して、それぞれの遵守状況を4段階で評価することになっていますが、日本については合計49項目中10項目について「NC:Non-Compliant(不履行)」、15項目について「PC:PartiallyCompliant(一部履行)」と厳しい評価を受けました。
その後、2013年4月1日施行の「犯罪による収益の移転の防止に関する法律」(「犯収法」)の改正がなされましたが、2014年6月のFATFの総会において、「FATFは日本に対してマネー・ローンダリング対策及びテロ資金供与対策に関する十分な立法をすることを要請する」との声明が出されました。
FATF calls on Japan to enact adequate anti-money laundering and counter terrorist financing legislation”

これを受けて、2016年10月1日施行の犯収法の再改正がなされ、ようやくFATFの第3次対日相互審査のフォローアップ手続が終了しました。
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第4次対日相互審査は、2012年に公表された新たな「40の勧告」および2013年に公表された相互審査の「メソドロジー」(Methodology)に基づいて行われます。
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FATFの第3次相互審査においては、その国のマネロン・テロ資金供与対策に関する法令がFATF勧告の基準を満たすかについてのみ審査(技術的遵守状況の審査)しておりましたが、第4次相互審査では、「技術的遵守状況の審査」に加えて、その国の法令や金融機関の態勢がマネロン・テロ資金供与の防止のため実効性があるかどうかの「有効性の審査」も行われます。
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犯収法は、非金融機関も対象とする最低限の基準を定めるものであるので、金融庁は万全の態勢を整えるため、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を公表し、監督指針や事務ガイドラインによって、所管金融機関に対して、こちらに定める態勢を整備することを求めています。その後、経済産業省も同様の「商品先物取引業におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」や「クレジットカード業におけるマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」を公表しています。
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これらのガイドラインで求められているのは基本的には以下の事項です。

〇リスクベース・アプローチ
金融機関が自らのリスクを適時・適切に、特定・評価し、リスクに見合った低減措置を講じること
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〇PDCAの実施
マネロン・テロ資金供与対策に係る方針・手続・計画等を策定、検証、見直しを行う
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〇経営陣の関与・理解
マネロン・テロ資金供与対策を経営戦略等における重要な課題と位置づけ、適切な資源配分を行うこと
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〇経営管理(3つの防衛線)
営業部門(第1線)、管理部門(第2線)、監査部門(第3線)の役割・責任を明確化
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〇グループベースの管理態勢
グループ全体に整合的な形でマネロン・テロ資金供与対策を実施すること
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〇職員の確保、育成等
専門性・適合性等を有する職員の採用、研修による職員の理解の促進を図ること

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これらのガイドラインは、FATF勧告やメソドロジーを参考に作成されていますので、FATFの相互審査においてもこれらの事項を整備しておくとが重要です。
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また、メソドロジーのIO4として列挙されている以下の事項が質問としてなされてくる可能性があります。

結果が達成されているかどうかを判断する際に考慮すべき主要な課題

貴社は、マネロン・テロ資金供与のリスクおよびマネロン・テロ資金供与対策について、どの程度理解しているか。

IO4・Core Issues 4.1(メソドロジー104頁)

貴社は、マネロン・テロ資金供与のリスクに対して、どのようなリスク低減措置を講じているか。

IO4・Core Issues 4.2(メソドロジー104頁)

貴社は、顧客管理措置および記録の保存(実質的支配者の情報および継続的モニタリングの情報を含む)についてどのような措置を講じているか。

IO4・Core Issues 4.3(メソドロジー104頁)

貴社は、顧客管理が不完全な場合、どの程度取引を謝絶するか。

IO4・Core Issues 4.3(メソドロジー104頁)

貴社は、�@PEPs、�Aコルレス銀行、�B新たな技術、�C送金規制、�DFATFが特定したテロ資金供与に関する経済制裁国について、どのような厳格な顧客管理措置を適用しているか。

IO4・Core Issues 4.4(メソドロジー104頁)

貴社は、疑わしい取引の届出義務をどの程度果たしていますか?

IO4・Core Issues 4.5(メソドロジー104頁)

疑わしい取引の届出の「内報の禁止」について実行的な対策を講じていますか。

IO4・Core Issues 4.5(メソドロジー104頁)

AML / CFT規制の遵守を確保するために、貴社は内部統制と社内規程(金融グループレベルを含む。)をどの程度適用していますか? その実施を妨げる法的または規制上の要件(金融機密(守秘義務)など)はどの程度ありますか?

IO4・Core Issues 4.6(メソドロジー104頁)

主要な問題に関する結論を裏付ける情報の例

貴社の業界の規模、構成、構造に関する情報
(例)
・貴社の業界の会社の数と種類
・金融取引の種類(クロスボーダー取引を含む。)
・貴社の業界の相対的な規模、重要性

IO4・a)1.
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リスクおよびコンプライアンスの一般的なレベルに関する情報(その傾向を含む)(たとえば、内部AML / CFTポリシー、手続と計画、傾向と類型に関するレポート)。

IO4・a)2.

貴社のコンプライアンス違反の事例(過去に是正された事例、貴社における違反の類型)。

IO4・a)3.

貴社におけるコンプライアンスに関する情報
(例)
・内部AML/CFTコンプライアンスレビューの頻度
・(AML/CFTに関連して)認識されたコンプライアンス違反の性質およびそれに対して講じられた是正措置または適用された制裁
・AML/CFTトレーニングの頻度と品質
・AML/CFTの目的で管轄当局(経済産業省・金融庁)に正確かつ完全な顧客管理情報を提供するのにかかる時間(※経済産業省・金融庁からのヒアリングに対する回答に要した時間等)
・顧客が不完全な顧客管理情報を提供したため取引を拒否した事例・件数

IO4・ a)4.

疑わしい取引の届出に関する情報および国内法で要求されるその他の情報
(例)
・疑わしい取引の届出の件数
・疑わしい取引の届出に関連する取引の価値(金額)
・異なる分野からの疑わしい取引の届出の件数と割合
・マネロン・テロ資金供与リスクに対応する疑わしい取引の届出の種類、性質、および傾向
・疑わしい取引の届出を提出する前に疑わしい取引を分析するのにかかる平均的な時間

IO4・a)5.

主要な問題に関する結論を裏付ける特定の要因の例

高リスク顧客(および関連する場合は低リスク顧客)、取引関係、商品・サービス、および国・地域を特定して対処するための手段は何ですか?

IO4・a)6.

AML/CFT規制が適用される方法は、正式な金融システムの合法的な使用を妨げていますか?また、金融取引を促進するためにどのような措置が取られますか?

IO4・a)7.

顧客管理措置と厳格な顧客管理措置は、各セクター、金融機関の種類、および個々の機関のマネロン・テロ資金供与リスクに応じてどの程度異なりますか? 国際金融グループと国内機関の間のコンプライアンスの相対的レベルはどのくらいですか?

IO4・a)8.

顧客管理措置のプロセスはどの程度、第三者に依存しており、統制はどの程度適用されていますか?

IO4・a)9.

貴社は、AML/CFTコンプライアンス機能による情報への適切なアクセスをどの程度確保していますか?

IO4・a)10.

貴社の内部ポリシーと社内管理手続は、�@複雑または異常な取引、�A経済産業省・金融庁に報告する可能性のある疑わしい取引の届出、�B潜在的に疑わしい取引のタイムリーなレビューが可能ものとしていますか?

IO4・a)11.

貴社におけるリスクの評価、ポリシーへの対応の策定とレビュー、およびマネロン・テロ資金供与リスクに対する適切なリスク軽減とシステムと管理の設定に使用される手段とツールは何ですか?

IO4・a)12.

AML/CFTのポリシーと手続は、上級管理職や従業員にどのように伝えられていますか。
AML/ CFTの義務に違反した場合、貴社は、どのような是正措置と制裁措置を講じますか。

IO4・a)13.

貴社は、マネロン・テロ資金供与のリスク評価を文書化し、最新の状態に保っていますか?

IO4・a)14.

貴社には、AML / CFTのポリシーと社内規程をその規模、複雑さ、事業活動、およびリスクプロファイルに関連して実装するのに十分な資源がありますか?

IO4・a)15.

貴社が疑わしい取引を検出して疑わしい取引の届出をすることを促進するために、当局からフィードバックはどの程度なされていますか?

IO4・a)16.

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このほかに、Walsfberg委員会の質問票(
Wolfsberg Group Correspondent Banking Due Diligence Questionnaire)も参考になると思います。私が仮訳した下記の質問票もご参照ください。

(仮訳)
Wolfsberg Group Correspondent Banking Due Diligence Questionnaire

なお、日本が犯収法の顧客管理において弱い、以下の2点が質問される可能性が高いのではないかと思われます。

PEPs(Politically Exposed Persons重要な公人)についてはFATFの基準(国内PEPsも対象。PEPsについては国際機関、領事、Close Associateも対象。)と犯収法の基準(外国PEPsのみ。国際機関、領事、Close Associateなどが対象でなく狭い。)のギャップをどう考えているか?国内PEPsのリスクをどう考えているか。国内PEPsに何らかの対策をしているか。

犯収法では、実質的支配者の本人特定事項の確認については、法人顧客の取引担当者の申告によることになっています。申告のみによっているので、真正性の確認としては十分ではありません。実質的支配者は申告に過度に頼らず、(リスクの高い法人顧客などについては)エビデンスをとっているか、その他の工夫をどうしているか聞かれる可能性があります(株主名簿や帝国データバンクなどの調査貴社の情報を用いているか。)。なお、日本では、登記簿謄本に株主情報が記載されておりません。この点、登記法務局の株主リスト(登記すべき事項につき株主総会決議が必要な場合に上位10名またはそう議決権の3分の2に達するまで(いずれか少ない方について、�@株主の氏名・名称、�A住所、�B株式数、�C議決権数、�D議決権数割合)は、登記申請書の閲覧書類として閲覧可能であるが利害関係を証する書面の添付が必要となりました。また、平成30年11月30日付の改正で会社設立時に実質的支配者となるべきものの申告が必要となりました。)。今後は、株主リストについても、犯収法の法人顧客の取引時確認の際には、利用できるよう法整備がなされることが期待されます。なお、FATFが10月24日に公表した『Best Practices on Beneficial Ownership for Legal Persons』においても実質的支配者の検知において、一つの手段のみによらず、複数の手段によることが推奨されています。

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また、金融機関では、顧客の継続的なモニタリングに関して、高リスク顧客に対するモニタリングはなされていますが、中リスク先や低リスク先の確認はなされていない場合が多くあります。この点についても、高リスク先1年ごと、中リスク2年ごと、低リスク3年ごとにモニタリングするなど、リスクに応じて頻度を変えてモニタリングをすることが望まれます。

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