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【2021年9月1日施行】マイナンバー法改正:従業者本人の同意があった場合における転職時等の使用者間での特定個人情報の提供

2021/09/02

 令和3年(2021年)通常国会において成立し、同年5月19日に公布された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和3年法律第37号、以下「デジタル社会形成整備法」又は「改正法」といいます。)における「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「マイナンバー法」又は「法」といいます。)その他の法律及び同時に成立した関連法により、個人番号(以下「個人番号」又は「マイナンバー」といいます。)関連の改正がなされることになりました。2021年9月1日には「従業員本人の同意があった場合における転職時等の使用者間での特定個人情報の提供」が施行されましたので以下解説いたします。

1.改正概要
 改正法によるマイナンバー法の改正により、特定個人情報(マイナンバーを含む個人情報、以下同じ。)が第三者に提供できる場合として、「使用者A」における「従業者等」(従業者、法人の業務を執行する役員等)であった者が「使用者B」の従業者等になった場合、当該「従業者等」の同意を得て、「使用者A」が「使用者B」に対して、その個人番号関係事務を処理するために必要な限度で当該従業者等の個人番号を含む特定個人情報を提供する場合が追加されます(法19条4号)。
 これは、従業員等の出向・転籍・退職等があった場合において、本人の同意があるときは、転籍・退職前の使用者から、出向・転籍・再就職した使用者に、当該従業員等の特定個人情報の提供を可能にするものです。
2.施行期日
 この改正は、令和3年9月1日に施行されました(改正法附則1条本文)。
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〇従業者本人の同意があった場合における転職時等の使用者間での特定個人情報の提供

(出所)「デジタル改革関連法案について」(令和3年3月)(内閣官房IT総合戦略室・デジタル改革関連法案準備室・総務省自治行政局)

3.改正の背景・効果
 個人情報保護法が本人同意を根拠とする個人情報の第三者提供を認められています(同法23条1項)。
 特定個人情報以外の従業員の個人情報については、「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針(解説)」の「(参考4)採用、出向・転籍、退職時点における個人情報の適正な取扱いを確保するための留意点」において、「退職者の転職先又は転職予定先に対し当該退職者の個人情報を提供することは第三者提供に該当するため、あらかじめ本人の同意を得なければならない。」として従業員の同意を得た上で直接、転籍・再就職先に提供することが認められています。
 他方、特定個人情報の場合は、本人であってもマイナンバー法19条各号が特に認める場合を除き、第三者に提供することが禁止されています。
 従業員等は、転籍・退職等により雇用先を変更した場合に、転籍・再就職後の勤務先に対し、改めてマイナンバーを提供しなければならず、国民・事業者の負担が極めて大きいため、見直しを求める要望があったためになされた改正です。
 これにより、従業員等の転籍・退職等があった場合、従業員等が改めて特定個人情報を提供する必要がなくなるため、国民・事業者の負担が軽減されることが期待されます。

4.実務上の対応
(1)従業員の同意の取得時期
 「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(以下「事業者ガイドライン」といいます。)の改正(以下「改正事業者ガイドライン」といいます。)において、特定個人情報の提供は、従業者等の出向・転籍・退職等があった場合に、当該従業者等の同意を得た上で、行われるものであるので、出向・転籍・退職等前の使用者等は、当該従業者等の出向・転籍・再就職等先の決定以後に、個人番号を含む特定個人情報の具体的な提供先を明らかにした上で、当該従業者等から同意を取得することが必要となるとされています。
 したがって、特定個人情報を出向・転籍・再就職先の使用者に提供することについて雇用契約等において採用時点において同意を取得したり、就業規則に同意をしていることとは認められないものと考えられます。
(2)従業員の特定個人情報の提供の時期
 個人番号を含む特定個人情報の提供時期については、従業者等の出向・転籍・再就職等により「他の使用者等における従業者等になった場合」になります。 その解釈については、その立場や状況が個々に異なる ことから一律に取り扱うことはできませんが、例えば、「内定者」が確実に雇用されることが予想される 場合(正式な内定通知がなされ、入社に関する誓約書 を提出した場合等)には、その時点で個人番号の提供を求めることができると解されることから、個人番号 を含む特定個人情報の提供もこれに準じて考えることができると解されます。(ガイドライン案パブコメ回答4番)
(3)同意の取得方法
 「従業者等の同意を得」るとは、従業者等の承諾する旨の意思表示を使用者等が認識することをいい、特定個人情報の取扱状況に応じ、従業者等が同意に係る 判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切 な方法によらなければなりません。(ガイドライン案パブコメ回答5番)
 そこで、改正事業者ガイドラインにおいては、『どのような特定個人情報が出向・転籍・再就職等先の使用者等に対して提供されることになるのか、従業者等が認識した上で、同意に係る判断を行うことができるよう、出向・転籍・退職等前の使用者等は留意する必要がある。』とされています。
 具体的な同意取得の方法は、『従業者等からの同意する旨の口頭による意思表示のほか、従業者等からの同意する旨の書面(電磁的記録を含む。)の受領、従業者等からの同意する旨のメールの受信、従業者等による同意する旨の確認欄へのチェック、従業者等による同意する旨のウェブ上のボタンのクリック、従業者等による同意する旨のタッチパネルへのタッチ、ボタン等による入力等』とされています。
(4)同意の任意性
 本人の同意というものは自由意思によるものであり、従業員等の意思に反して特定個人情報を出向・転籍・再就職先の使用者に直接提供することについて同意をすることを強制することはできないと考えられます。また、従業員等は一度、特定個人情報を転籍先・再就職先に直接提供することについて同意してもこれを撤回することができるものと考えられます。
 ※参議院内閣委員会(令和3年5月11日)の杉尾秀哉議員(立憲民主)の質問に対する冨安泰一郎政府参考人(内閣官房内閣審議官)の回答
(5)従業員の出向に伴う共有データベースのマイナンバーの移動
 改正前の事業ガイドラインにおいては、従業員等の出向に伴い、本人を介在させることなく、共有データベース内で自動的にアクセス制限を解除する等して出向元の会社のファイルから出向先の会社のファイルにマイナンバーを移動させることは、提供制限違反とされていますが、改正事業者ガイドラインでは「本人の同意」があれば、出向者本人の意思に基づく操作なしに特定個人情報を移動することが可能となります。
(6)提供可能な情報の範囲
 具体的に提供可能な範囲の情報は「その個人番号関係事務を処理するために必要な限度」とされています(マイナンバー法19条4号)。
改正事業者ガイドラインによれば、『例えば、従業者等の氏名、住所、生年月日等や前職の給与額等については、これらの社会保障、税分野に係る届出、提出等に必要な情報であることが想定されるため、本号に基づく提供が認められる。一方、個別の事案ごとに、具体的に判断されることになるが、前職の離職理由等の、当該届出、提出等に必要な情報であるとは想定されない情報については、本号に基づく提供は認められないと解される。』とされています。
 すなわち、社会保険の資格届や給与支払報告書等の提出に必要な「氏名、住所、生年月日等」や「前職の給与額等」は、従業員本人の同意があれば転職先等に提供することが認められます。
 これに対して「前職の離職理由」等の社会保険の資格届や給与支払報告書の届出・提出等に必要な情報であるとは想定されない情報は、従業員本人の同意があっても転職先等に提供することは認められません。
(7)本人確認の要否
 改正事業者ガイドライン案によれば、本人の同意に基づき、出向・転籍先・再就職先の使用者に特定個人情報を移転させる場合には、マイナンバー法に基づく本人確認は不要とされています。
(8)従業員への通知の要否
 マイナンバー法において、個人番号を含む特定個人情報の提 供を受けた使用者等は、従業者等に対し、当該情報の提供を受けたことを通知する義務はありません。したがって、特定個人情報の提供を受けたことの従業者等に対する通知を行うか否かについては、当該情報の提供を受けた事業者において任意に判断して行うことになります。(ガイドライン案パブコメ回答6番)

執筆者:渡邉雅之
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