【執筆者:渡邉雅之】
_渡邉雅之弁護士が執筆した『銀行における「顧客本位の業務運営に関する取組み方針」の概要』が週刊金融財政事情2017年12月4日号に掲載されました。
【連載】
【顧客本位の業務運営に関する原則】金融庁の評価する成果指標(KPI)
【顧客本位の業務運営に関する原則・第2回】各金融機関におけるKPIの紹介
【顧客本位の業務運営に関する原則・第3回】『フィデュ—シャリー・デューティー』という用語を用いるべきではないか?
【顧客本位の業務運営に関する原則・第4回】「顧客本位の業務運営に関する原則」はガバナンスの問題として捉えるべき
【顧客本位の業務運営に関する原則・第5回】利益相反の適切な管理
【顧客本位の業務運営に関する原則・第6回】「取組み状況の見直し」(具体的事例)について
金融機関は、顧客本位の業務運営に関する原則に関する取組方針や実施状況・KPIを一度策定して終わりではなく、それを不断に見直していく必要があります。その際には、金融庁が好事例と評価したKPIなどを参考にすることがベストプラクティスといえるでしょう。
平成29年3月に金融庁が公表した『「顧客本位の業務運営に関する原則」の 定着に向けた取組み』においては、「より良い取組みを行う金融事業者が顧客から選択され、これを踏まえて金融事業者が自らの業務運営を 不断に見直していく、という好循環が生まれるためには、顧客が主体的に行動することが重要であり、金 融事業者の取組みの「見える化」や顧客のリテラシーの向上が求められる」とされています。
また、平成29年7月28日に金融庁が公表した『金融事業者による原則の採択等の状況について』においても、「各金融事業者におかれましては、上記のような好事例など も踏まえながら、まだ取組方針やKPIを公表していない金融 事業者についてはその公表を、既に公表している金融事業者 については、必要に応じてその更なる改善に努めていただく ようお願いいたします。」とされているところです。
この点、三菱東京UFJ銀行が2017年12月25日に、「お客さま本位の業務運営にかかる取組状況(平成29年9月時点)」において、従前公表していた平成29年3月時点でのKPIよりも対象とするKPIを追加している点が注目されます。
従前公表していた平成29年3月時点でのKPIは以下のとおりです。
「役職員の質的向上および投資教育への取組み」
・図表1 FP2級資格の取得率
・図表2 お客さま向けセミナー開催回数(回)
「商品ラインナップの整備」
・図表3 投資信託ラインアップ(29年3月末)
・図表4 生命保険ラインアップ(29年3月末)
「お客さま本位の情報提供およびコンサルティングの実践」
・図表5 投信つみたて振替金額(億円)
「お客さまからの評価・お客さまの声への対応」
・図表6 満足度調査
・図表7 外訪担当者の応対に関する重視度と満足度
・図表8 お客さまの声に基づく改善件数(件)
「お客さま本位の徹底(実績)」
・図表9 預かり資産残高および運用商品保有者数の推移
今回公表された平成29年9月時点でのKPIは以下のとおりとなりました。
「役職員の質的向上および投資教育への取組み」
・図表1 FP2級資格の取得率
・図表2 お客さま向けセミナー開催回数(回)
「商品ラインナップの整備」
・図表3 投資信託ラインアップ(29年3月末)
・図表4 生命保険ラインアップ(29年3月末)
・図表5 投資信託販売額上位10銘柄(平成24年度と平成29年度上期との比較・それぞれの商品が毎月分配型の商品か否かも分かるようにしている。)
・図表6 系列運用会社商品販売額比率
「お客さま本位の情報提供およびコンサルティングの実践」
・図表7 投資信託に占める毎月分配型商品の販売額(億円)とそれ以外の比較
・図表8 投資信託の残高に占める分配金額割合
・図表9 投資信託の平均保有期間(年)
・図表10 投信つみたて振替金額(億円)
「お客さまからの評価・お客さまの声への対応」
・図表11 満足度調査
・図表12 外訪担当者の応対に関する重視度と満足度
・図表13 お客さまの声に基づく改善件数(件)
「お客さま本位の徹底(実績)」
・図表14 預かり資産残高および運用商品保有者数の推移
追加されたKPI(図表5〜9)はいずれも、金融庁が好事例として評価したKPIに該当するものです。
(金融庁が好事例として評価するKPIは以下のとおり)
・投資信託の販売額上位10銘柄 (先行事例:池田泉州銀行・・・ただし、どの商品が池田泉州銀行は毎月分配型か否かは公表していない。)
・投資信託販売に占める毎月分配型の販売額とそれ以外との比較 (先行事例:三井住友銀行)
・投資信託残高に対する分配金の割合 (先行事例:三井住友信託銀行)
・投資信託販売額に占める自社グループ商品の比率 (先行事例:三井住友銀行)
・インベスターリターンと基準価額の騰落率との差(先行事例:セゾン投信)
・投資信託における長期・積立・分散投資の状況(平均保有年数・販売に占める積立投信の割合・コア商品比率)(名古屋銀行)
・投資信託の運用損益別顧客比率(先行事例:三重銀行)
※各KPIについては、『【顧客本位の業務運営に関する原則】金融庁の評価する成果指標(KPI)』をご覧ください。
なお、図表5・図表6のKPIについては、以下の自己評価がなされています。
・これらの多様な商品をお客さまがニーズに合わせてご選択いただけるよう、的確な情報提供に努めており、この5 年間で投資信託の販売額ランキングは大きく変化しています。
・足元、系列運用会社商品販売額は増加していますが、インターネット専用商品であるeMAXIS(インデックス型商品)などが、多くのお客さまにお選びいただけたことによるものです。
・引き続き、グループ内外にかかわらず、お客さまのニーズにお応えできる最適な商品のご提供に努めてまいります。
図表7・8・9のKPIに関しては以下の自己評価がなされています。
・お客さまのニーズに沿ったご提案を、相場環境や投資信託の複利効果等を踏まえながら丁寧に行っており、毎月分配型商品の販売額割合や投信残高に占める分配金の割合は減少しています。
・投資信託の平均保有期間は、足元の相場上昇を受けて売却をされるお客さまが増えたことなどにより、短縮しました。
このように、同じKPIを採用する金融機関が増えれば、各銀行間における取組み方針が分かることになります。
・たとえば、既にKPIとして「投資信託販売に占める毎月分配型の販売額とそれ以外の比較」を公表している三井住友銀行、今回KPIとして公表した三菱東京UFJ銀行においてはともに、毎月分配型の投資信託の割合が減少傾向にあることが分かります。
・これに対して、「投資信託販売額に占める自社グループ商品の比率」については、三井住友銀行は、「グループ会社に関わらず、商品ラインアップの整備を進めてきたことから、グループ会社の三井住友アセットマネジメント(以下「SMAM」)の比率は販売額ベースで35%、商品数ベースで25%程度に止まっております。」と自己評価しているのに対して、三菱東京UFJ銀行は「足元、系列運用会社商品販売額は増加していますが、インターネット専用商品であるeMAXIS(インデックス型商品)などが、多くのお客さまにお選びいただけたことによるものです。」と自己評価しております。