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【顧客本位の業務運営に関する原則】金融庁の評価する成果指標(KPI)

2017/10/30

【執筆者:渡邉雅之】
_渡邉雅之弁護士が執筆した『銀行における「顧客本位の業務運営に関する取組み方針」の概要』が週刊金融財政事情2017年12月4日号に掲載されました。
【連載】
【顧客本位の業務運営に関する原則】金融庁の評価する成果指標(KPI)
【顧客本位の業務運営に関する原則・第2回】各金融機関におけるKPIの紹介
【顧客本位の業務運営に関する原則・第3回】『フィデュ—シャリー・デューティー』という用語を用いるべきではないか?
【顧客本位の業務運営に関する原則・第4回】「顧客本位の業務運営に関する原則」はガバナンスの問題として捉えるべき
【顧客本位の業務運営に関する原則・第5回】利益相反の適切な管理
【顧客本位の業務運営に関する原則・第6回】「取組み状況の見直し」(具体的事例)について

金融庁が、『「顧客本位の業務運営に関する原則を採択し、取組方針を公表した金融事業者のリストの公表について(平成29年10月20日更新)』を公表しました。
金融庁は特に、『投資信託の販売方針等を踏まえて、その金融事業者が目指す販売等の方向が相当程度端的に示されると考えられる KPI』を重視しています。
平成29年7月28日の公表も含め、金融庁が好事例とする成果指標(KPI)について紹介します。

成果指標(KPI)としては、投資信託・保険のラインナップ、預り資産残高、顧客向けセミナーの実施回数、FP資格の取得率・行内研修の実施回数などを公表している金融事業者が多いですが、金融庁はこれらの指標を必ずしも高く評価していないようです。
金融庁が評価する指標は以下のとおりです。

〇投資信託の販売額上位10銘柄
〇投資信託販売に占める毎月分配型の販売額とそれ以外との比較
〇投資信託残高に対する分配金の割合
〇投資信託販売額に占める自社グループ商品の比率
〇インベスターリターンと基準価額の騰落率との差
〇投資信託における長期・積立・分散投資の状況(平均保有年数・販売に占める積立投信の割合・コア商品比率)
〇投資信託の運用損益別顧客比率

金融庁は、とりわけ、複利効果のない毎月分配型の投資信託の販売が多い場合を問題視しているところです。

以下では、具体的に公表されている事例を紹介します。

〇投資信託の販売額上位10銘柄(池田泉州銀行)
この指標は、池田泉州銀行の『「お客様本位の業務運営基本方針」及び「具体的な取組」』において公表されています。
同銀行は、「28年下期 投資信託 販売上位10商品」を公表していますが、これは、投資信託の売れ筋商品が毎月分配型かそれ以外かが分かるということで好事例とされたものと思われます。もっとも、この指標だけを見ても、商品名だけで、一般顧客には毎月分配型かどうかは、別途調べないと分からないので、その点は留意が必要であると思われます。

※三菱東京UFJ銀行が2017年12月25日に公表した「お客さま本位の業務運営にかかる取組状況(平成29年9月時点)」においてこのKPIを追加しております。各商品ごとに「毎月分配型」か否かが分かるようになっている点で、三菱東京UFJ銀行のものの方が望ましいです。

_〇投資信託販売に占める毎月分配型の販売額とそれ以外との比較(三井住友フィナンシャルグループ(三井住友銀行・SMBC日興証券)・三重銀行)_
_この指標は、三井住友フィナンシャルグループの『三井住友フィナンシャルグループ リテール事業部門における 「お客さま本位の業務運営に関する取組方針」_』18頁において、『【表16】投資信託(含むファンドラップ)販売額(毎月分配型とそれ以外の別) <銀行+日興>』として公表されています。
同指標においては、2012年度から2016年度までの三井住友銀行とSMBC日興証券における、投資信託販売に占める毎月分配型の販売額とそれ以外との比較が示されていますが、『毎月分配型の投資信託の販売額は減少し、毎月分配型以外の投資信託・ファンド ラップの販売額が上回るようになっております。引き続き、複利効果(※)を丁寧 に説明し、お客さまのニーズに沿った提案に努めてまいります。(※)複利効果:投資資金を運用して得られた利益が更に運用されて増えていく効果 』と分析されています。
なお、三重銀行の『「お客さま本位の業務運営に関する基本方針」に係る具体的な取組み』においても、「毎月分配型投資信託販売比率(投資信託全体/金額ベース)、(うち積立投資信託/金額ベース)(2016年度)」が公表されています。
金融庁は、この評価指標(KPI)を特に重視しているように思われます。メガバンクグループにおいては、毎月分配型の投資信託の販売割合は減少していますが、地方銀行においては未だに毎月分配型の割合が高いのが現状です。したがって、地方銀行としては、この成果指標を採用することには躊躇を覚えるところが多いでしょう。この点については、高齢者には、毎月分配型で毎月分配を受けることのニーズが高いなどの説明ができなければ、金融検査には耐えられない可能性があります。

※三菱東京UFJ銀行が2017年12月25日に公表した「お客さま本位の業務運営にかかる取組状況(平成29年9月時点)」においてこのKPIを追加しておりいます。

〇投資信託残高に対する分配金の割合(三井住友トラスト・グループ・三井住友信託銀行)
この指標は、三井住友トラスト・グループ『「三井住友トラスト・グループのフィデューシャリー・デューティーに関する取組方針」の改定 および三井住友信託銀行における行動計画の見直しについて』において公表されています。
同公表の「お客さまの「ベストパートナー」を目指すための取組みに関する成果指標(KPI)」の「6.長期的な資産形成等のニーズに適ったご提案等の取組み」(19頁)において、2012年度から2016年度までの各年度に支払われた分配金額の、公募投資信託残高(月次平均)に対す る割合が示されています。
同指標においては、『長期的な資産形成のニーズに対して、分配頻度が少ない 商品をご提案しており、投資信託残高に対する分配金の割合は 市場平均より低く推移しております。』との評価がなされています。これも、毎月分配型でない商品の割合が少ないことを評価する指標であるといってよいでしょう。

※三菱東京UFJ銀行が2017年12月25日に公表した「お客さま本位の業務運営にかかる取組状況(平成29年9月時点)」においてもこのKPIが追加されています。

〇投資信託販売額に占める自社グループ商品の比率(三井住友フィナンシャルグループ(三井住友銀行・SMBC日興証券))
この指標は、三井住友フィナンシャルグループの『三井住友フィナンシャルグループ リテール事業部門における 「お客さま本位の業務運営に関する取組方針」_』16頁において、『【表12】投資信託のグループ会社商品比率<銀行>』、『【表13】投資信託のグループ会社商品比率<日興>』として公表されています。
グループ会社である三井住友アセットマネジメントの販売額・商品数について2014年度から2016年度まで指標が示されています。
『【表12】投資信託のグループ会社商品比率<銀行>』においては、「グループ会社に関わらず、商品ラインアップの整備を進めてきたことから、 グループ会社の三井住友アセットマネジメント(以下「SMAM」)の比率は 販売額ベースで 35%、商品数ベースで 25%程度に止まっております。」と評価されています。
『【表13】投資信託のグループ会社商品比率<日興>』においては、「幅広い商品ラインアップを取り揃えるなかで、グループ会社のSMAM比率は、 足許では、販売額ベースで 30%、商品数ベースで 11%程度となっております」と評価されています。

※三菱東京UFJ銀行が三菱東京UFJ銀行が2017年12月25日に公表した「お客さま本位の業務運営にかかる取組状況(平成29年9月時点)」においてこのKPIを追加しています。

〇インベスターリターンと基準価額の騰落率との差(セゾン投信)
この指標は、セゾン投信の『フィデューシャリー宣言への取り組み状況を評価するための成果指標(KPI)』において示されています。
指標については、以下の記述がなされていますが、過去の具体的な指標は公表されていません。
この指標は、「長期投資の理念に立脚した資産形成」がなされているか示す指標です。

『インベスターリターンと基準価額騰落率の差 ※
 当社では、生活者の経済的自立の実現のためには、目的に合った商品を選択することに加えて、積立で購入を行うことなどにより  相場の状況に左右されることなく、計画的に購入することが重要であると認識しているため、基準価額の騰落率だけでなく、お客さまの  運用による成果を測る指標であるインベスターリターンを重視しています。
インベスターリターン:(お客さまの運用による成果を測定するための指標) 日々のファンドへの純資金流出入額と、期首及び期末のファンドの純資産額から求めた内部収益率を年率換算したもの。(販売委託分を含 みます)
基準価額騰落率:(資金の流出入状況に依らないファンドの運用成果を測定するための指標) ファンドの基準価額の変化率を年率換算したもの』

〇投資信託における長期・積立・分散投資の状況(平均保有年数・販売に占める積立投信の割合・コア商品比率)(名古屋銀行)
この指標は、名古屋銀行の『「金融商品に関するお客さま本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)基本方針」 の制定について_』の『取組方針と実施状況』3頁において公表されています。
<長期投資>としては、平成27年3月末、平成28年3月末、平成29年3月末の「平均保有年数」(算出方法は、当年度中の平均残高÷当年度中の解約額。公社債型を除く。)が示されています。
<積立投資>としては、平成26年度、平成27年度、平成28年度の「販売に占める 積立投信の割合」(公社債型を除く)が示されています。
<分散投資>としては、平成27年3月末、平成28年3月末、平成29年3月末の「コア商品比率」(コア商品とは、当行の基準により選定したバランス型ファンド を中心とした中長期での運用に適した商品。公社債型を除く)が示されています。

〇_投資信託の運用損益別顧客比率(三重銀行)
三重銀行の「お客さま本位の業務運営に関する基本方針に係る具体的な取組み」において、「分配金支払金額÷投資信託純資産平均残高」にて算出したものとして公表されております。

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金融事業者としては、これらの好事例とされた成果指標(KPI)を採用することが推奨されますが、採用・公表することにより、金融事業者の目指すべき方向について、金融庁から指摘・説明を求められることになる(特に毎月分配型が多い場合)ことにも留意が必要でしょう。

金融庁は、投資信託の販売の仕方については今回、好事例とされた成果指標(KPI)を示していますが、それ以外の金融商品(保険等)についてはまだ示していません。今後、金融事業者の業態に応じた好事例が示されることが期待されます。

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