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【改正会社法ニュース(第2回)】株主提案権の濫用防止

2019/11/05

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執筆者:渡邉 雅之

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弁護士 渡邉 雅之

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【改正会社法ニュース】
改正会社法ニュース(第1回)株主総会資料の電子提供制度
改正会社法ニュース(第2回)株主提案権の濫用防止

 2019年(令和元年)10月18日,「会社法の一部を改正する法律案」[1](以下「改正会社法」又は「改正法」という。)及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」[2](以下「整備法」という。)が閣議決定され,同日,政府提出法案として第200回臨時国会に提出された。
 今回の改正は,「株主総会に関する規律の見直し」として,「株主総会資料の電子提供制度の導入」,「株主提案権の濫用防止」,「取締役等に関する規律の見直し」として,「取締役等への適切なインセンティブの付与」,「社外取締役の活用等」のほか,「株式交付」制度の導入など多岐に及ぶ。
 第2回目では,「株主提案権の濫用防止」について解説する。
 なお,本法案の改正を検討した法務省の法制審議会の会社法制(企業統治等関係)部会[3]の資料のことを「部会資料」,同部会の「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」[4]のことを「補足説明」という。
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1 改正新旧対象表

改正後

改正前

第305条 1〜3(略)
4 取締役会設置会社の株主が第1項の規定による請求をする場合において,当該株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときは,前3項の規定は,10を超える数に相当することとなる数の議案については,適用しない。この場合において,当該株主が提出しようとする次の各号に掲げる議案の数については,当該各号に定めるところによる。
一 取締役,会計参与,監査役又は会計監査人(次号において「役員等」という。)の選任に関する議案
当該議案の数にかかわらず,これを1の議案とみなす。
二 役員等の解任に関する議案
当該議案の数にかかわらず,これを1の議案とみなす。
三 会計監査人を再任しないことに関する議案
当該議案の数にかかわらず,これを1の議案とみなす。
四 定款の変更に関する2以上の議案
当該2以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には,これらを1の議案とみなす。
5 前項前段の10を超える数に相当することとなる数の議案は,取締役がこれを定める。ただし,第1項の規定による請求をした株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする2以上の議案の全部又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には,取締役は,当該優先順位に従い,これを定めるものとする。
6 第1項から第3項までの規定は,次に掲げる場合には,適用しない。
一 第1項の議案が法令又は定款に違反する場合
二 株主が,専ら人の名誉を侵害し,人を侮辱し,若しくは困惑させ,又は自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で,第1項の規定による請求をする場合
三 第1項の規定による請求により株主総会の適切な運営が著しく妨げられ,株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合
四 実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合

第305条 1〜3(略)
(新設)
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(新設)
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4 前3項の規定は,第一項の議案が法令若しくは定款に違反する場合又は実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合には,適用しない。
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2 改正の経緯(補足説明14頁)
 昭和56年の商法改正により導入された株主提案権の制度は,制度上株主が自らの意思を株主総会に訴えることができる権利を保障することにより,株主の疎外感を払拭し,経営者と株主との間又は株主相互間のコミュニケーションを良くして,開かれた株式会社を実現しようとするものである。
しかし,近年,一人の株主により膨大な数の議案が提案されたり,株式会社を困惑させる目的で議案が提案されるなど,株主提案権が濫用的に行使される事例が見られる。株主提案権が濫用的に行使されることにより,株主総会における審議の時間等が無駄に割かれ,株主総会の意思決定機関としての機能が害されたり,株式会社における検討や招集通知の印刷等に要するコストが増加したりすることなどが弊害として指摘されている。
近年の裁判例は,株主提案権の行使が,株式会社を困惑させる目的のためにされるなど,株主としての正当な目的を有するものでない場合等には,権利濫用として許されないとしているが(東京高判平成27年5月19日金判1473号26頁),どのような場合に株主提案権の行使が権利濫用に該当すると認められるかは必ずしも明確でなく,実務上,株主提案権が行使された場合には,株式会社が株主提案権の行使を権利濫用に該当すると判断することは難しいと指摘されている。
そこで,改正法においては,上記のような事情を踏まえ,株主提案権の濫用的な行使を制
限するための措置として,株主が同一の株主総会において提案することができる議案の数を制限したり,株主による不適切な内容の提案を制限したりする規定を新たに設けられた。
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〇東京高判平成27年5月19日金判1473号26頁
いわゆる「株主提案権」を侵害されたという株主の会社ないし取締役に対する損害賠償請求に一部理由があるとした原判決は,会社が当該株主の提案した議案の一部を招集通知に記載しなかったとしても,その提案が株主提案権を濫用するものであったと認められる判示の事実関係の下においては,その全部に理由がなく,これを取り消すべきものであるとした事件。
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Xは,平成21年より前にはY社に対し株主提案権を行使したことはなかったところ,Xが初めて株主提案権を行使した71期提案がY2を取締役から解任すること等を内容とするものであったことは,自らの行った控訴人会社の新規事業開発に関する調査結果が採用されず,それに関与したのがY2であったことと無縁であったとは到底解されない。そして,これに引き続いてされた72期株主総会に係る提案についてみると,Xは,実父であるAの行為に関する不満や疑念の矛先を,当初はAであり控訴人会社の相談役であるBに向けていたところ,思うような進展がなかったことから,自身が株主であることから株主提案権の行使という形を利用して,Y社を通じてこれを追及しようとする意図が含まれていたものと認められる。
 このような経過に加え,被控訴人が平成22年4月2日頃,72期株主総会に関し提案件数の数を競うように114個もの提案をしたことは,被控訴人が満足できる対応をしなかった控訴人会社を困惑させる目的があったとみざるを得ない。このことは,被控訴人が,その直前の同年3月28日に,ツイッターに,「株主提案の個数のギネスブック記録っていくつかどなたか知っていますか? 問い合わせ方法を誰か,知ってたら教えてください。」と投稿したことからも明らかであるというべきである(この点について,被控訴人は,もしギネスブックに株主提案の数について記載があれば,その数までは少なくとも容認される根拠になると思ったためであると供述するが,被控訴人が真実そのような意図で上記投稿をしたとは考え難い。)。そして,被控訴人は,控訴人会社からの重なる要請に従い,最終的には提案を72期提案2の20個にまで削減したものの,その中にはなお倫理規定条項議案及び特別調査委員会設置条項議案が含まれており,それらは,C及びAを直接対象とするものであり,Xが最後までこれらに固執したことからすれば,72期株主総会に係る提案は,上記のような個人的な目的のため,あるいは,Y社を困惑させる目的のためにされたものであって,全体として株主としての正当な目的を有するものではなかったといわざるを得ない。また,72期株主総会に係る提案の個数も,一時114個という非現実的な数を提案し,その後,控訴人会社との協議を経て20個にまで減らしたという経過からみても,被控訴人の提案が株主としての正当な権利行使ではないと評価されても致し方ないものであった。
 他方,Y社の側からみれば,Xに対し,その提案を招集通知に記載可能であり,株主総会の運営として対応可能な程度に絞り込むことを求めることには合理性があるといえるし,Y社が,Xに協議を申し入れ,その調整に努めたことは前記認定のとおりであり,このような経過を経ても被控訴人が特定個人の個人的な事柄を対象とする倫理規定条項議案及び特別調査委員会設置条項議案を撤回しなかったことは,株主総会の活性化を図ることを目的とする株主提案権の趣旨に反するものであり,権利の濫用として許されないものといわざるを得ない。
 そして,72期株主総会に係る提案が前記のような目的に出たものと認められることからすれば,その提案の全体が権利の濫用に当たるものというべきであり,そうすると,控訴人会社の取締役が72期不採用案を招集通知に記載しなかったことは正当な理由があるから,このことが被控訴人に対する不法行為となるとは認められない。

〇多数の株主提案数が議案とされている事例

関西電力は2019年6月の株主総会で原子力発電所の稼働停止などの議案が26件提案された(6号から26号の議案は株主提案)。株主総会での提案数はここ数年20件が常態化している。

〇濫用的な株主提案権の事例

野村ホールディングスは2012年,1人の株主から「社名を野菜ホールディングスに変更する」などの株主提案を100件受けた。

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3 株主提案権の原則的要件(会社法第305条第1項〜第3項:改正なし)
 株主は,取締役に対し,株主総会の日の8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては,その期間)前までに,株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知すること(招集通知を書面・電磁的方法でする場合は,その通知に記載・記録すること)を請求することができる(会社法305条1項本文)。
公開会社である取締役会設置会社においては,総株主の議決権の100分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合は,その割合)以上の議決権又は300個(これを下回る数を定款で定めた場合は,その個数)以上の議決権を6か月(これを下回る期間を定款で定めた場合は,その期間)前から引き続き有する株主に限り,当該請求をすることができる(同項ただし書)。この場合,株主総会の目的である事項について議決権を行使することができない株主が有する議決権の数は,総株主の議決権の数に算入しない(同条第3項)。
公開会社でない取締役会設置会社には,総株主の議決権の100分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上の議決権又は300個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては,その個数)以上の議決権を有する株主に限り,当該請求をすることができる(同条第2項)。
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4 1人の株主が提起できる議案数の上限(改正第305条第4項,5項)
取締役会設置会社の株主が株主提案権の請求(会社法第305条第1項)をする場合において,当該株主が提出しようとする議案の数は10以下とされる。株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときは,10を超える数に相当することとなる数の議案については,株主提案権は認められない(会社法第305条第4項)。

(趣旨)(補足説明16頁)
具体的な議案の数の上限としては,近年,提案数が多いとされる電力会社に対する運動
型株主の提案に係る議案の数であっても,各提案株主につき多くても10程度にとどまっていることや,株主が同一の株主総会に議案を何十も提案する必要がある場合は想定しづらいことを踏まえ,株主が提案することができる議案の数を10とすることが考えられる。

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この場合において,当該株主が提出しようとする次に掲げる議案の数については,�@から�Cまでに定めるところによる。

_取締役,会計参与,監査役又は会計監査人(以下「役員等」という。)の選任に関する議案(同項第1号)

⇒当該議案の数にかかわらず,これを1の議案とみなす。

_役員等の解任に関する議案(同項第2号)

⇒当該議案の数にかかわらず,これを1の議案とみなす。

〇役員等の選任又は解任に関する議案の数を制限する趣旨(補足説明17頁参照)
役員等の員数に応じて株主が役員等の選任又は解任に関する議案を提案することができるようにしておくことが合理的であるとしても,株主提案権の濫用事例において懸念される弊害は,役員等の選任又は解任に関する議案であっても他の議案と同様に生じ得ることから,役員等の選任又は解任に関する議案についても議案の数の制限の例外とはせず,役員等の選任に関する議案は候補者の人数にかかわらず,一議案として数え,役員の退任に関する議案も候補者の人数にかかわらず,一議案として数えるべきであるという価値判断に基づくものである。

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_会計監査人を再任しないことに関する議案(同項第3号)

⇒当該議案の数にかかわらず,これを1の議案とみなす。

_定款の変更に関する2以上の議案(同項第4号)

⇒当該2以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合には,これらを1の議案とみなす。
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〇定款の変更に関する2つ以上の議案の数え方(部会資料23:8〜10頁)
�@ 【提案の内容】(a)監査等委員会の設置とそれに伴う規定の整備を行う旨の提案と(b)
監査役及び監査役会の廃止とそれらに伴う規定の整備を行う旨の提案
【提案の理由】「モニタリング・モデルに移行し,取締役会による監督機能を強化するため」
⇒会社法上,監査等委員会設置会社は監査役を置いてはならないこととされているから(同法第327条第4項),監査等委員会の設置を行う旨の提案は監査役及び監査役会の廃止を当然に予定したものということができ,少なくとも(a)が可決された場合において,(b)が否決されたときは,内容が相互に矛盾することになる。したがって,(a)及び(b)は,まとめて一の議案として数えることになると考えられる。
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�A 【提案の内容】S社の定款の事業目的に(a)貸金業を追加する旨の提案と(b)不動産管理業を追加する旨の提案
【提案の理由】「貸金業及び不動産管理業を行うD社を吸収合併するに当たって,S社がD社の権利義務を包括的に承継することとなることから,D社の事業を一括してS社の定款の事業目的に追加するため」
⇒提案は,D社を吸収合併するに当たって,S社がD社の権利義務を包括的に承継することとなることから,D社の事業である貸金業及び不動産管理業を一括してS社の定款の事業目的に追加するためにされたものである。D社の事業のうち,いずれか一方の事業のみをS社の定款の事業目的に追加したとしても,他方の事業をS社の定款の事業目的に追加しないこととなれば,D社の事業を一括してS社の定款の事業目的に追加したことにならない。したがって,上記�Aの事例における提案の理由の内容も踏まえれば,(a)又は(b)のいずれか一方の提案が可決され,かつ,他方の提案が否決された場合において,内容が相互に矛盾するおそれがあるときに当たるということができるため,(a)及び(b)は,まとめて一の議案として数えるべきこととなると考えられる。
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�B 【提案の内容】取締役の員数の枠に余裕がない会社における(a)取締役の員数の枠を拡大する旨の提案と(b)社外取締役と責任限定契約を締結することができるという定めを設ける旨の提案
【提案の理由】「現任の役員は維持しつつ,将来的に新たに有能な社外取締役を外部から招へいすることができるように環境を整備するため」
⇒現時点で有能な社外取締役を外部から招へいすること自体を目的とする提案ではなく,将来的に有能な社外取締役を外部から招へいすることができるように環境を整備することを目的とする提案である。このような目的との関係においては,(a)により,現任の役員に加え,更に社外から有能な人材を招へいすることを物理的に可能にすることと,(b)により,社外取締役として期待される役割を十分に発揮することができるように責任を限定することとは,いずれもそれぞれ有用な事項ではあるが,上記�Aの事例における(a)と(b)との関係とは異なり,いずれかの事項のみでは可決されたとしても意味がない,又は支障を来たすというような性質のものではない。したがって,上記�Bの事例における提案の理由の内容も踏まえれば,(a)又は(b)のいずれか一方の提案のみが可決され,かつ,他方の提案が否決された場合において,内容が相互に矛盾するおそれがあるときに当たるということはできないものと考えられるため,(a)及び(b)は,別個の議案として数えるべきこととなるものと考えられる。

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取締役会設置会社の株主が株主提案権の請求(会社法第305条第1項)をする場合において,当該株主が提出しようとする議案の数が10を超えるときにおける10を超える数に相当することとなる数の議案は,取締役がこれを定める(改正第305条第5項本文)。
ただし,当該株主が当該請求と併せて当該株主が提出しようとする2以上の議案の全部又は一部につき議案相互間の優先順位を定めている場合には,取締役は,当該優先順位に従い,これを定める(改正第305条第5項ただし書)。
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5 株主提案権の拒絶事由(現行会社法第305条第4項,改正第305条第6項)
 現行会社法では,株主提案権の拒絶事由として,�@提案議案が法令若しくは定款に違反する場合,または,�A実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合が認められている(現行会社法第305条第4項)。
 改正会社法では,株主提案権拒絶事由として,以下の4つの場合が定められている(改正第305条第6項)。以下の�A・�Bが新たに株主提案権の拒絶事由として定められたものである。

提案議案が法令又は定款に違反する場合(同項第1号)※

株主が,専ら人の名誉を侵害し,人を侮辱し,若しくは困惑させ,又は自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で,株主提案権の請求をする場合(同項第2号)

株主提案権の請求により株主総会の適切な運営が著しく妨げられ,株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合(同項第3号)

実質的に同一の議案につき株主総会において総株主(当該議案について議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の10分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合)以上の賛成を得られなかった日から3年を経過していない場合(同項第4号)※

※�@�Cは現行会社法でも株主提案権の拒絶事由とされているもの。

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(1)株主が,専ら人の名誉を侵害し,人を侮辱し,若しくは困惑させ,又は自己若しくは第三者の不正な利益を図る目的で,株主提案権の請求をする場合(改正第305条第6項第2号,補足説明19頁〜20頁)
本拒絶事由は,提案株主の目的に着目した拒絶事由であり,それぞれ,(�ウ)株主が専ら人の名誉を侵害し,若しくは人を侮辱する目的で株主提案を行った場合,(�エ)株主が専ら人を困惑させる目的で株主提案を行った場合又は(�オ)株主が専ら当該株主若しくは第三者の不正な利益を図る目的で株主提案を行った場合には,株式会社は,当該株主提案を拒絶することができることとするものである。株主が上記(�ウ)から(�オ)までの目的で株主提案を行った場合には,正当な権利行使ということができず,株主総会の活性化を図ることを目的とする株主提案権の制度の趣旨に反するのみならず,株主総会における審議の時間等が無駄に割かれ,株主総会の意思決定機関としての機能が害されるといった株主提案権の濫用事例において懸念される弊害を生ずるおそれがあると考えられるため,このような態様の株主提案を制限するものである。
「目的」の有無については,株主名簿閲覧謄写請求権及び会計帳簿閲覧謄写請求権の拒絶事由(会社法第125条第3項第2号,第433条第2項第2号)と同様に,客観的にみて人の名誉を侵害し,又は人を侮辱する事実があるかどうかが考慮要素になると考えられる。
部会では,「専ら」という要件は厳格過ぎるため,削除すること又は「主として」などのより緩やかな要件にすることを検討すべきであるという指摘もあったが,「主として」という要件は不明確であり,どのような場合に要件を充足するかという判断が難しく,また,株主提案権の重要性に鑑みれば,拒絶事由の要件を緩めることについては慎重に考えるべきであることから,「専ら」という要件とされた。
(2)株主提案権の請求により株主総会の適切な運営が著しく妨げられ,株主の共同の利益が害されるおそれがあると認められる場合(改正第305条第2項第3号,補足説明20頁)
 本拒絶事由は,株主提案権の行使が権利濫用に該当すると認められた従前の裁判例において示された規範や上記(1)の拒絶事由とは異なり,客観的な要件であることに特徴がある。
なお,「株主総会の適切な運営」には,株主総会当日の運営のみならず,株主総会の準備段階も含むことを前提としている。例えば,株主が,不必要に多数又は長大な内容の条項を含む定款の変更に関する議案を提案したことにより,株式会社に通常の株主総会の準備においては生じないような規模の膨大な時間的又は人的コストが生ずるような場合や,株主総会当日において当該議案の検討に多大な時間が掛かり,他の株主による株主総会の場における質問時間や他の議案の審議時間が大幅に削られるような場合等がこれに該当すると考えられる。
この要件は,株式会社において,株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられ,株主の共同の利益が害される前に株主提案を拒絶することができるようにする必要があることから,株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられ,株主の共同の利益が害される「おそれ」があれば足りるものとしている。他方で,株式会社において,株主提案によりその「おそれ」があると安易に判断し,株主提案を拒否することができるようになってしまうと,株主提案を過度に制限してしまう懸念もある。
そこで,株主提案により株主総会の適切な運営が妨げられ,株主の共同の利益が単に害されるおそれがあるだけでは足りず,「著しく」害されるおそれがあることを要求するものである。
部会においては,株式会社が株主提案を拒絶することができる場面が限定され過ぎることを理由として,「著しく」という要件を削除すること又は「特に」という要件にすることを検討すべきであるという指摘もされたが,「著しく」という要件を削除する場合には,上記のとおり株主提案を過度に制限してしまう懸念があり,また,「特に」という要件にすると,どのような場合がこれに該当するか不明確となると考えられるため,改正法においては,「著しく」という要件を用いている。
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6 施行期日・経過措置(改正附則第1条、第3条)
 株主提案権の乱用防止に関する改正は、公布の日から起算して1年6月を超えない範囲内の政令で定める日から施行される(改正附則第1条本文)。
 同改正の施行前にされた会社法第304条に基づく議案の提出および株主提案権の請求については、現行法が適用される(改正附則第3条)。

[1]法案等については以下を参照(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00252.html)

[2]法案等については以下を参照(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00253.html)

[3]会社法制(企業統治等関係)部会の資料については以下を参照(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900348.html)

[4]http://www.moj.go.jp/content/001252002.pdf

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