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自己都合退職者増加の可能性も? 知っておくべき雇用保険法の改正

2025/01/20

(執筆者:弁護士 水関莉子)

【Q.】雇用保険法が改正されると聞きましたが、これによって雇用保険制度はどのように変わるのでしょうか。また、事業者はどう対応すればいいのでしょうか。

【A.】
1.はじめに
雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)が、令和6年5月10日に成立し、おおむね令和7年4月1日以降、順次施行される予定です。
今回の改正により、雇用保険制度は、現代の多様な働き方を効果的に支える雇用のセーフティネットの構築、「人への投資」の強化等を目的として、様々な点が変更されます。そこで、主な改正内容をピックアップして実務上の留意点とともにご説明します。

2.雇用保険の適用拡大【施行日:令和10年10月1日】
(1)改正の概要
雇用労働者の中で働き方や生計維持の在り方の多様化が進展していることを踏まえ、雇用のセーフティネットを広げる観点から、雇用保険の適用対象が拡大されることとなりました。
現在、雇用保険の適用対象(被保険者)は、週所定労働時間が「20時間以上」の労働者とされていますが、改正により「10時間以上」の労働者も適用対象となります。新たに雇用保険の適用対象となる労働者は、現行の被保険者と同様に、各種給付(基本手当・教育訓練給付・育児休業給付等)を受けることができるようになります。
(2)実務上の留意点
総務省「労働力調査」によると、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の労働者は、2023年時点で約506万人いるとされており、このような労働者(パート・アルバイト等)を多く雇用している企業ほど、今回の適用拡大により受ける影響も大きくなると思われます。 施行日まで時間があるものの、施行前後で混乱しないよう、新たに保険加入が想定される対象労働者の数やそれに応じた保険料負担の増加等を事前に調査・把握するなどして準備を進めておくことが望まれます。

3.教育訓練やリ・スキリング支援の充実
(1)改正の概要
①自己都合退職者の給付制限の見直し【施行日:令和7年4月1日】
現行法上、自己都合退職者に対しては、失業給付(基本手当)の支給に当たって、待期満了の翌日から原則2カ月間(5年以内に2回を超える場合は3カ月)の給付制限期間がありますが、労働者が安心して再就職活動を行えるようにする観点から、給付制限期間の見直しが実施されます。
今回の改正により、自己都合退職者が、雇用の安定・就職の促進に必要な職業に関する教育訓練等を自ら受けた場合には、給付制限なく、雇用保険の基本手当を受給できるようになります。また、本改正に伴い、通達により、上記給付制限期間は「2カ月間」から「1カ月間」に短縮されます。
②教育訓練給付の拡充【施行日:令和6年10月1日】
教育訓練給付金について、訓練効果を高めるインセンティブ強化のため、雇用保険から支給される給付率が「受講費用の最大70%」から「80%」に引き上げられます。
③教育訓練中の生活を支えるための給付の創設【施行日:令和7年10月1日】
自発的な能力開発のため、被保険者が在職中に教育訓練のための休暇を取得した場合に、その期間中の生活を支えるため、基本手当に相当する新たな給付金(教育訓練休暇給付金)が創設されます。
(2)実務上の留意点
労働者の教育訓練、リ・スキリングの促進は、長い目でみれば企業にとってもメリットがあるものと思われます。今回創設された教育訓練休暇給付金を活用して、教育訓練休暇・休職制度の設計を検討してもいいかもしれません。

4.おわりに
前述のほかにも改正による変更点がありますので、詳しい内容は厚生労働省のパンフレット「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」(https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001255172.pdf)をご確認ください。
今回の雇用保険制度の各種改正により、事業者には、改正内容に適切に対応しつつ、働き方の多様化に応じていくことが求められます。それぞれの施行日に注意しつつ、社内整備を進めていただけるとよいものと思われます。

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