(執筆者:弁護士 松原浩晃)
【Q.】
先日、「経営者保証に関するガイドライン」の適用が開始されたと聞きましたが、これはどういうものなのでしょうか。
【A.】
◆策定の経緯
中小企業の経営者の個人保証(以下「経営者保証」)には、経営者への規律付けや信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生を阻害する要因となっている等の課題が存在します。これらの課題を解消し中小企業の活力を引き出すため、昨年12月5日に「経営者保証に関するガイドライン*」(以下「本ガイドライン」)が公表され、本年2月1日から適用開始となりました。
*全国銀行協会のHP(http://www.zenginkyo.or.jp/adr/sme/index/guideline.pdf)を参照。
本ガイドラインは、経営者保証における合理的な保証契約の在り方等を示すとともに、主債務の整理局面における保証債務の整理を公正かつ迅速に行うための準則であって、法的拘束力はありません。しかし、主債務者、保証人及び対象債権者により自発的に尊重・遵守されることが期待されています。
◆本ガイドラインの概要
1.適用対象
以下の全ての要件を充足する保証契約に関して、適用されます。
(1) 主債務者が中小企業であること
(2) 保証人が個人であり、主債務者である中小企業の経営者であること等
(3) 主債務者及び保証人が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、各財産状況等を適時適切に開示していること
(4) 主債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと
2.保証契約締結時等の対応
本ガイドラインは、経営者保証に依存しない融資の一層の促進のため、主債務者・保証人に対し、(1)法人と経営者との関係の明確な区分・分離、(2)財務基盤の強化、(3)財務状況の正確な把握や適時適切な情報開示等による経営の透明性確保を求めています。
他方、対象債権者に対しては、停止条件・解除条件付保証契約等の経営者保証に代わる融資メニューの拡充を求め、経営者保証がやむを得ない場合等には、その必要性等に関する丁寧かつ具体的な説明及び適切な保証金額の設定を求めています。これらは、既存の保証契約の見直しにおける申し入れ時にも妥当するものとされています。
3.保証債務の整理における対応
本ガイドラインでは、1.に加え、以下の全ての要件を充足する場合、保証人はその保証債務の整理を対象債権者に申し出ることができるとされています。
(1) 主債務者が法的整理手続または中立公正な第三者の関与する私的整理手続等の申立てを同時に行うか、係属中もしくは終結していること
(2) 本ガイドラインを利用するほうが破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがある等、対象債権者にとっても経済的合理性が期待できること
(3) 保証人に破産法に定める免責不許可事由やそのおそれがないこと
そして保証債務の整理を図る場合、保証人・対象債権者は合理的な不同意事由がない限り、以下の定めに従い債務整理手続の成立に向けて誠実に対応することとされています。
ア 一時停止等の要請に対して誠実かつ柔軟に対応するよう努める
イ 結果的に私的整理に至った事実のみをもって一律かつ形式的に経営者の交代を求めない
ウ 一定の経済合理性が認められる場合には、破産手続における自由財産に加え、経営者の安定した事業継続等のため、一定期間の生計費相当額等を当該保証人の残存資産に含めることを検討する
エ 保証債務の弁済計画案には所定の事項を含む内容を記載することを原則とする
オ 保証人からの保証債務の一部履行後に残存する保証債務の免除要請について、誠実に対応する
なお本ガイドラインでは、対象債権者は、当該保証人が債務整理を行った事実等を信用情報登録機関に報告しないとされています。