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特定商取引法の改正による契約書面等の電子化対応

2023/09/19

(執筆者:弁護士 石井千晶)

【Q.】
私は訪問販売を行う会社を経営しています。このたび、特定商取引法が改正・施行され、訪問販売を行う際に必要な契約書面等をメールで交付することができるようになったと聞きました。手順や概要を教えてください。

【A.】
1.はじめに
「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の⼀部を改正する法律」(令和3年法律第72号)によって、特定商取引法(以下「法」)が改正されました。改正の大部分は2022年6月1日までに施行されましたが、「契約書面等の電子化」に関する改正は2023年6月1日に施行されています。
改正前は、取引類型に応じ、①概要書面、②申込書面、③契約書面(以下、併せて「契約書面等」)を消費者に対し紙で交付する義務を負っていましたが、今般の改正により、紙での交付を原則としつつ、一定の条件のもとに、契約書面等に記載すべき事項を電子メール等によって送信する方法、事業者のウェブサイトなどに当該事項を記載し消費者にダウンロードさせる方法、当該事項が記録された電磁的記録媒体を交付する方法などの電磁的方法により提供(以下「電子交付」)することができるようになりました。本稿では、訪問販売を例に、契約書面等の電子交付の手順や概要を説明します。

2.契約書面等の電子交付の流れ
電子交付を行う場合は、書面ごとに次の流れで消費者の承諾を得る必要があります(法第4条第2項)。
まず、消費者が電子交付を希望していることを前提に、事業者は(1)電磁的方法の種類及び内容の提示、(2)承諾の取得に当たっての説明、(3)承諾の取得に当たっての適合性等の確認を行います。そして、消費者の(4)書面等による承諾を取得できれば、(5)承諾を得たことを証する書面を交付、(6)電磁的方法による提供をして、(7)契約書面等に記載すべき事項の第三者への送信、(8)到達の確認を行います。

3.各手順について
以下、各手順の概要を説明します。
(1)電磁的方法の種類及び内容の提示[特定商取引法に関する法律施行規則(以下「規則」)第9条]
事業者は消費者に対し、法及び規則が認める電磁的方法のうち、事業者が実際に使用するもの(メールでデータを送信するなど)と、消費者の使用するパソコンなどに備えられたファイルへ記録される方式(使用されるファイルの規格や要求されるバージョンなど)を示す必要があります。
(2)承諾の取得に当たっての説明(規則第10条第1項、第2項)
事業者は、消費者の承諾が真意であることを確保するため、消費者に重要事項について説明する必要があります。具体的には、①消費者の承諾がない限り原則どおり書面が交付されること、②消費者の使用するパソコンなどにデータが記録されたときにその提供があったものとみなされ、その日から起算して8日を経過した場合にはクーリング・オフができなくなること、などを説明しなければなりません。
(3)承諾の取得に当たっての適合性等の確認(規則第10条第3項第1号・第2号、同第4項)
事業者は、消費者が電子交付を受ける者として適切かを確認する必要があります。具体的には、消費者が電子交付されたデータを閲覧するために必要な操作を自ら行うことができ、かつ、その閲覧のために必要な機器等を日常的に使用していることなどを確認しなければなりません。
(4)書面等による承諾の取得(規則第11条)
契約書面等を電子交付することの承諾は、電子メールなどによって承諾する旨を送信する方法や、事業者のウェブサイトなどにおいて消費者に必要事項を記入させて承諾ボタンをクリックしてもらう方法などによって行うことが可能です。ただし、消費者に必要事項の具体的記入を一切、求めないチェックボックス方式など、消費者の認識が明らかにならない簡易な方法では足りないと考えられています。
(5)承諾を得たことを証する書面の交付(規則第10条第7項)
契約書面等を電子交付することにつき消費者の承諾が得られた場合には、事業者は消費者に対して、承諾を得たことを証する書面を交付しなければなりません。書面は紙で交付することが原則となります。
(6)電磁的方法による提供(規則第8条)
事業者は、①電子メールなどによって送信する方法、②事業者のウェブサイトなどに掲載し消費者が閲覧できるようにする方法などで電子交付を行います。このとき、ファイルを印刷できることなどの適合基準を満たし、かつ消費者が明瞭に読むことができるように表示しなければなりません。
(7)契約書面等に記載すべき事項の第三者への送信(規則第10条第6項)
消費者が希望した場合には、契約書面等に記載すべき事項を第三者に対しても電子メールで送信する必要があります。
(8)到達の確認(政令第4条第3項、規則第12条)
事業者は消費者に対し、送信したデータが消費者側に到達し、正常に閲覧できる状態であるかどうかを確認する必要があります。例えば、文字化けしているなど、閲覧できないファイルのみが記録されていたような場合は書面交付義務違反となります。

4.最後に
本改正では、消費者が希望していないにもかかわらず電子交付を進めた場合など、一定の禁止行為について罰則規定も設けられています(規則第18条)。また、他の取引類型では、訪問販売と異なる取り扱いをすべき場合がありますので、必要に応じて専門家に相談することをご検討ください。

以 上

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