(執筆者:弁護士 八木康友)
【Q,】
民事執行法が改正され、その中で債務者財産の開示制度が大きく変わると聞きました。そもそも、現行の制度がどのようなもので、それがどのように変わるのか、それが企業実務へどのような影響を与えるのかについて教えてください。
【A,】
1 はじめに
支払いを命じる勝訴判決が出たにもかかわらず、債務者が売掛金等を支払ってくれない場合、強制執行手続により債務者の財産を差し押さえなければ、債権を回収することはできません。そして、債務者の財産を差し押さえるためには、まずは対象となる債務者の財産を調べなければなりません。
そこで登場するのが債務者財産の開示制度です。現行の制度としては、債権者の申し立てにより、裁判所が債務者を法廷に呼び出し、債務者の保有する財産について陳述させるという財産開示手続が設けられています(民事執行法196条以下)。しかし、債務者の不出頭や虚偽供述に対する制裁規定が不十分であったこともあり、実効的な手続とはいえない側面がありました。そこで、原則として令和2年4月1日から施行される*1新民事執行法において、債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設等がなされることになりました*2。
*1 登記所から債務者の不動産に関する情報を取得する手続については、令和元年5月17日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日までの間は運用されないとされています。
*2 この他にも、財産開示制度の罰則を強化しその実効性を高める改正や、申立権者を拡大して同制度を利用しやすくする改正もなされています。
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2 債務者以外の第三者からの情報取得手続の概要
新設される債務者以外の第三者からの情報取得手続は、債務名義(確定判決、訴訟上の和解等)を有する債権者の申立てにより、裁判所が�@預貯金等については銀行等に対し、�A不動産については登記所に対し、�B勤務先については市町村等に対し必要な情報の提供を命じ、それらの者が裁判所に対して書面で回答するという手続きです(新民事執行法205条〜207条)。ただし、勤務先に関する情報取得手続については、他の情報取得手続とは異なり、その申立債権者が養育費等や生命・身体の侵害による損害賠償の債権者に限定されています。
なお、不動産と勤務先に関する情報取得手続については、それに先立って、強制執行の不奏功等を要件とする債務者の財産開示手続を実施する必要がありますが、預貯金等に関する情報取得手続については、強制執行の不奏功等の要件が充足されることで足り、債務者の財産開示手続を実施することまでは必要とされていません。
3 債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設による影響と留意点
債務者以外の第三者からの情報取得手続の新設は、債権者に対して、裁判所の命令により債務者以外の者から債務者財産に関する情報提供を受けるという手段を与えるものです。そのため、従来債務者によって隠匿され、かつ第三者により回答拒絶され、差し押さえをすることができなかった債務者財産に対しても、差し押さえをすることができる可能性を高めるものといえます。
また、債務者以外の第三者からの情報取得手続によって得られた債務者の財産に関する情報については、債務者に対する債権をその本旨に従って行使する目的以外の利用のために利用し、又は提供してはならず(新民事執行法210条)、それに違反した場合には30万円以下の過料を支払わなければなりません(新民事執行法214条)。基本的に債務者に対する債権回収のための利用は許されますが、債務者に対する新規融資の可否を決する目的や新たな担保を取得する目的等による利用は許されない可能性が高いので、そのような点に注意しながら取得した情報を企業内で適正に管理する必要があります。
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4 最後に
以上のように、今回の民事執行法の改正によって、債務者財産の開示制度が大幅に拡充されましたが、実際に債務者財産の開示が実効的に行われるかについては、施行後の利用状況について注視しておく必要があります。
債務者財産の調査方法には、ほかにも弁護士会照会制度の利用による方法等もありますから、債務者財産の調査にお悩みの方は弁護士等の専門家にご相談いただくことをご検討ください。