(執筆者:弁護士 雑賀裕子)
【Q.】
昨年4月から、同じ職場で5年を超えて働いた契約社員等は、本人が希望すれば無期雇用へ転換できるという新ルールが導入されましたが、この新ルールに特例が設けられると聞きました。どのようなケースを対象に、どんな措置がとられるのでしょうか。
【A.】
1.有期労働契約の無期転換ルール
平成24年8月、有期雇用労働者の雇用の安定等を図るため、労働契約法が一部改正されました(改正の概要は、2012.9.10「有期労働契約に関する新しいルール」ご参照)。この改正により、平成25年4月1日より、同一使用者との間で有期労働契約が通算で5年を超えて反復更新された場合は、労働者から使用者への申込みにより、無期労働契約に転換することができるようになりました(同法第18条。以下「無期転換ルール」)。
しかし、このルールの導入により、とくに定年退職後の高齢者について、無期転換申込権が発生する直前に企業側が雇い止めをする懸念があり、かえって有能な高齢者の安定的な雇用が難しくなるとの指摘があります。
また、高収入かつ高度な専門的知識等を有する有期雇用労働者については、産業の国際競争力の強化等を図る観点から、国家戦略特別区域法において、無期転換申込権の発生までの期間のあり方等について検討を加え、必要な措置を講ずるとされ、有期雇用期間の上限に対し、規制緩和の方針が打ち出されていました。
このような状況を踏まえ、平成26年3月7日、政府はこれらの者について無期転換ルールの特例を設け、有期雇用期間を延長する旨の「専門的知識等を有する有期雇用労働者等に関する特別措置法案」を、閣議決定しました。
2.無期転換ルールの特例
この特例の主な内容は、特例の対象者について、無期転換申込権発生までの期間(現行5年)を延長するというものです。その対象者は、以下のとおりです。
�@「5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務」に就く、高度な専門的知識、技術または経験を有する有期雇用労働者(その賃金が厚生労働省令で定める額以上である者に限る)
�A定年(60歳以上のものに限る)後に引き続き雇用される有期雇用労働者
特例の効果として、�@の者は、一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く期間(上限10年)は、無期転換申込権が発生しないこととされます。また、�Aの者は、定年後引き続き雇用されている期間は、通算契約期間に算入しないこととされます。
ただし、特例の適用に当たっては、対象労働者の能力を有効に発揮させるという特例の趣旨や対象労働者の保護等といった観点に鑑み、事業主には適切な雇用管理の実施が求められます。事業主は、厚生労働大臣が今後定める基本指針にしたがって、対象労働者の特性に応じた雇用管理に関する措置を計画し、厚生労働大臣の認定を受け、これを実施することが必要となります。
適切な雇用管理の例として、�@の者には、労働者が自らの能力の維持向上を図る機会を付与すること等、�Aの者には、配置、職務及び職場環境に関する配慮等などが挙げられています。
詳しい内容は、厚生労働省のHP*をご確認ください。なお、政府は今国会での特別措置法の成立、来年4月の施行を目指していますので、今後の動向には注意が必要です。
* http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000037665.html