(執筆者:弁護士 平山 照)
【Q.】
小売店に商品を販売する際に、希望小売価格を伝えることは違法になりますか? また、インターネットを利用した取引では取り扱いが異なるのでしょうか? 留意すべき点を教えてください。
【A.】
1 はじめに
メーカーや卸売業者が小売店に希望小売価格を伝えるなど、事業者が取引先事業者に対して、商品やサービスの再販売価格について希望を伝える際には、「再販売価格の拘束」として独占禁止法上違法とならないように留意する必要があります。
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2 流通・取引慣行ガイドライン
独占禁止法上の問題を検討する上では、公正取引委員会が策定している「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通・取引慣行ガイドライン」)が重要となります。流通・取引慣行ガイドラインは、平成29年6月に改正がなされ、ガイドライン全体の構成が変更されるとともに、インターネットを利用した取引に関する記述の追加や、垂直的制限行為(事業者が取引先事業者に対して行う行為)の適法・違法性判断基準の明確化などが行われました。もっとも、今回のテーマである再販売価格の拘束に関する記述については、具体的な事例に関する記述の追加や文言の修正のほかは大きな変更はありません。
再販売価格の拘束に関して、流通・取引慣行ガイドラインでは「事業者がマーケティングの一環として、又は流通業者の要請を受けて、流通業者の販売価格を拘束する場合には、(中略)このような行為は原則として不公正な取引方法として違法となる」と規定されています。また、再販売価格の拘束行為には、セーフハーバー・ルール(市場におけるシェアが20%以下である事業者や新規参入者が行う場合には、通常は違法とならないというルール)の適用がないとされています。つまり、事業者が再販売価格の拘束を行った場合、事業者の市場シェア等にかかわらず、原則として違法な行為と判断されるということになります。
なお、「正当な理由」がある場合には、例外的に違法とはならないとされていますが、例外の適用の有無については慎重に判断する必要があります。
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3 具体的検討
具体的に、どのような行為が再販売価格の拘束として違法となるのでしょうか。
流通・取引慣行ガイドラインでは、「事業者が設定する希望小売価格や建値は、流通業者に対し単なる参考として示されているものである限りは、それ自体は問題となるものではない」とされており、希望小売価格を伝えること自体は違法ではないとされています。しかし、「希望小売価格」として表示していたとしても、何らかの手段により、当該価格で販売することについての実効性が確保されている場合は、再販売価格の拘束となる可能性があります。例えば、希望小売価格以下で販売しないことを書面または口頭で約束させる、希望小売価格以下の価格で販売する小売店に対して商品の出荷量を減らすなどの不利益を課すといった行為は、再販売価格の拘束を行っていると判断されるおそれがあります。
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4 事業者の留意点
事業者が、違法な再販売価格の拘束を行った場合、公正取引委員会により排除措置命令(独占禁止法20条)が課され、違反行為が繰り返された場合には、課徴金納付命令(同法20条の5)の対象となります。事業者としては、希望小売価格を示す際には、再販売価格の拘束と見られないよう、希望小売価格があくまでも参考であり、実際の販売価格は自由に決定できる旨を明示することが望ましいといえます。
なお、前述のガイドライン改正により、インターネットを利用した取引か実店舗における取引かで考え方は異ならないと明示されており、インターネット上で取引を行っている事業者についても、同様に留意が必要です。