(執筆者:弁護士 平山 照)
【Q.】
当社が販売している商品に付しているロゴマークと類似したロゴマークが付けられた模倣品が、海外から輸入されて出回っているようです。このような場合に、何らかの対抗策をとることはできるでしょうか。
【A.】
1.はじめに
多くの企業では、自社の商品やサービスに対する顧客の信頼を維持・向上するために、品質改善や宣伝広告等の様々な企業努力を行っているものと思います。
ところが、第三者が不正に商品名やロゴマーク等を模倣した商品等を販売すると、そのような企業努力の成果に「ただ乗り」されることとなり、商品等の売り上げに影響が生じ得ますし、苦労して築き上げたブランド力が毀損されることにも繋がりかねません。特に、最近はインターネットを通じて、個人でも海外から容易に模倣品を輸入できるようになり、そのような模倣品による知的財産権の侵害が深刻となっています。
今回は、このような海外からの模倣品流入への対抗策として、商標登録の意義と関税法に基づく水際対策についてご説明します。
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2.商標権に基づく権利行使
商品名やロゴマーク等は、自社の商品やサービスを他社の商品等と識別するものとして重要な意義を有しています。このような商品名やロゴマーク等について商標登録を行うことで、商標権に基づく権利行使が可能となります。
ご質問の事例では、ロゴマークについて商標登録をしている場合、商標登録をしているロゴマークと同一または類似するロゴマークを付して、商標登録時に登録された指定商品と同一または類似する商品を輸入し、販売することは、商標権の侵害行為に該当します。そこで、商標権侵害を理由に、輸入販売を行っている者に対して、輸入及び販売行為の差止め(商品の廃棄や商標の抹消等を含みます)、損害賠償等を求めることができます。損害賠償については、商標権の侵害によって被った損害の立証が容易でない場合も多いことから、商標法では損害額の推定規定が設けられており、商標権者の保護がはかられています。
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3.税関での水際対策
海外からの模倣品の輸入を防ぐための水際対策として、関税法に基づき税関での輸入差止めを求めることも可能です。商標権などの知的財産権の権利者は、全国9カ所にあるいずれかの税関に差止申立書を提出することで、税関において、知的財産権の侵害の疑いのある物品が輸入されようとした場合に、侵害物品に該当するか否かを判断する認定手続を行うよう求めることができます。認定手続において侵害品に該当すると認定された場合、輸入は認められません(認定結果に不服がある輸入者は、行政不服審査法に基づく不服申立てが可能です)。
しかし現行の商標法では、個人が自己使用目的で輸入する行為については、商標権の侵害行為とはされておらず、税関での輸入差止めの認定手続においても、個人の輸入者から「個人使用目的である」との主張がなされた場合には、輸入を阻止することが困難な状況にあります。そこで政府は、このような状況に対処するために、商標法を改正し、海外事業者が模倣品を郵送等により国内に持ち込む行為を商標権の侵害として位置付けることとしました。改正法は令和3年5月14日に成立し、5月21日に公布され、公布の日から1年6カ月以内の政令で定める日から施行されます。また、意匠法についても同様の改正がなされています。これによって、税関における水際対策が強化されることが期待されます。
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4.まとめ
以上のとおり、自社の商品名やロゴマークについて商標登録を行うことは、模倣品に対する対抗策として有用です。
商標登録をしていない場合であっても、不正競争防止法に定める周知表示混同惹起行為などに該当するとして、同法に基づく差止め、損害賠償、税関への輸入差止申立などの手段をとることも考えられますが、周知性(需要者の間に広く認識されていること)の立証など、不正競争防止法に基づく権利行使のハードルは高いといえます。そのため、自社の製品やサービスを売り出していく場合には、早期に商標登録を行うことをご検討ください。