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労働条件明示のルール変更と企業の対応

2024/03/29

(執筆者:弁護士 森村 奨)

【Q.】
先日、労働条件明示のルールが変更されると聞きました。変更の内容と、それによって企業はどういった対応を求められるのかについて教えてください。

【A.】
1.はじめに
令和5年3月30日、労働基準法施行規則5条の改正により、労働条件明示のルールが変更され、労働契約締結の際に労働者に明示すべき事項が追加されました。また、これに伴い「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年厚生労働省告示第357号)(以下「雇止め告示」)も改正され、労働者への説明に関する規定が新設されています。これらの改正は令和6年4月1日から適用となりますので、本稿では、改正内容と求められる企業の対応についてご説明いたします。

2.明示事項の追加
使用者は、労働契約の締結(有期労働契約の更新等も含む)に際し、賃金・労働時間その他の労働条件を労働者に明示しなければならないとされており(労働基準法15条1項)、明示事項や明示方法は労働基準法施行規則5条等で定められています。今回の改正では、この労働基準法施行規則5条が改正され、労働条件明示の際の明示事項が追加されました。
追加された事項、その対象及び明示のタイミングは以下のとおりです。
①就業場所・業務の変更の範囲
対象:全ての労働者
タイミング:全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時
改正前は、雇入れ直後の就業場所・業務を明示すれば足りるとされていましたが、今回の改正により、就業場所・業務の「変更の範囲」も明示事項に追加されました。
②更新上限の有無と内容
対象:有期契約労働者
タイミング:有期労働契約の締結時と契約更新時
更新の有無の明示のほか、例えば「更新○回まで」「通算契約期間○年まで」のように、通算契約期間または更新回数に上限を定める場合には、その内容を明示する必要があります。なお、改正に従って上限を明示しても、必ずしもそのとおりに雇止めとなるわけではなく、その他の事情によっては、解雇権濫用法理が類推適用され、雇止めに客観的合理性・社会的相当性が求められる場合があることに留意が必要です(労働契約法19条「雇止め法理」)。
③無期転換申込機会及び無期転換後の労働条件
対象:有期契約労働者
タイミング:無期転換申込権が発生する契約の更新時
有期労働契約では、同一使用者との間で締結した2以上の有期労働契約の通算契約期間が5年を超えた場合には、無期転換申込権が発生し、当該労働者は使用者に申し込みをすることで期間の定めのない労働契約に転換することができるとされています。転換後の労働条件について、別段のない定めがない限り、現に締結している有期労働契約の労働条件(契約期間を除く)と同一とされています(労働契約法18条1項)が、今回の改正により、無期転換申し込みができる旨と、無期転換後の労働条件が明示事項に追加されました。

3.労働者への説明に関する規定の新設
以上の労働条件明示のルール変更のほか、「雇止め告示」の改正により、以下のような規定が設けられました。
○有期労働契約において、最初の契約締結後に更新上限を新設する場合、または最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合には、当該新設または短縮をする理由について、当該労働者にあらかじめ(更新上限の新設・短縮をする前のタイミングで)説明しなければならない
○無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件を決定するに当たって他の通常の労働者とのバランスを考慮した事項について、有期契約労働者に説明するよう努めなければならない

4.改正を踏まえた対応
今回の改正を踏まえて、まずは労働条件明示の際に用いる労働条件通知書等の見直しを行う必要があります。厚生労働省のホームページ(※)では、改正を踏まえた「モデル労働条件通知書」が掲載されており、参考になります。なお、改正の適用は令和6年4月1日からですが、更新上限については、契約の存続に関わるだけでなく、前述の解雇権濫用法理の類推適用の可否にも関わる重要な事項であることも踏まえると、改正の適用に先立って、契約当初から労働条件通知書等に記載し、それに沿った運用や定期的な説明等をすることで、更新上限に関する認識を労働者と共有しておくことが望ましいといえます。また、労働者への説明に関する規定の新設を踏まえ、説明の内容や方法等もあらかじめ整理しておきましょう。
加えて、今回の改正により、無期転換申込権の行使の増加が予想されるため、無期転換後の労働条件等を整理し、無期転換労働者用の就業規則等の規程を設けておくことも重要です。
※厚生労働省ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html

5.最後に
以上のとおり、企業では、今回の改正に応じて様々な対応が求められますので、専門家にもご相談いただきながら対応内容をご検討ください。

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