(執筆者:弁護士 竹村知己)
【Q.】
最近、事業者の不正が労働者による内部通報を契機として明らかになり、世間の注目を集めています。内部通報にも適用がある「公益通報者保護法」とは、どのような法律でしょうか。また、同法が改正されると聞きましたが、中小規模の事業者にはどのような影響があるのでしょうか。
【A.】
1.はじめに
公益通報者保護法は、公益通報をした通報者の保護を図るなど、事業者の不正を発見した者が通報しやすい環境を整えることで、不正の早期発見及びその速やかな是正につなげることを目的とする法律です。これにより、事業者では、自浄作用の向上、ひいては違法行為の抑止の効果も期待されています。
近時、労働者による通報(内部通報だけでなく、外部通報も)を契機として事業者の不祥事が明らかになり、世間の注目を集めていることもあり、いま、同法が脚光を浴びています。
2.公益通報者保護法の概要
公益通報者保護法は、労働者が、労務提供先の一定の不正行為*1を、不正の目的でなく、所定の通報先*2に通報すること(以下、「公益通報」)を保護の対象としています(同法2条1項)。このうち、労務提供先の内部に設けられた受付窓口に通報することを、「内部通報」と呼ぶことがあります。
公益通報者保護法は、かかる公益通報を行った通報者に対し、企業が公益通報をしたことを理由として解雇、給与上の差別や不利益な配置転換・出向等の不利益な取扱いを行うことを禁止し(同法5条1項)、通報者の保護を図っています。ただし、解雇その他の不利益な取扱いを行ったとしても、事業者に対する行政措置や罰則はなく、その解決は民事ルールに委ねられています。
3.改正案の概要と企業に与える影響
平成18年に同法が施行されて以降、通報者が不利益な取扱いを受けた事案が起きるたびに、同法による通報者の保護や企業に対する規制が不十分であると指摘されていました。そうした事情もあり、政府における長年の審議を経て、令和2年の通常国会に同法の改正案が提出されました(https://www.caa.go.jp/law/bills/)。
改正案における改正事項は多岐にわたりますが、目玉の一つは、事業者に対し、通報を受け付け、適切に対応するために必要な体制を整備すべき義務を新たに課すことです(改正案11条2項)。
もっとも、かかる体制整備義務は、労働者の数が300人以下の中規模・小規模事業者については、努力義務にとどめることとされています(同条3項)。だからといって、中小規模の事業者に影響がないということは決してありません。
改正案では、通報窓口を置いていない事業者で働く労働者については、行政機関、消費者団体やマスコミ等の外部機関に通報することを念頭に置いています。仮に、不正や不祥事が起きてしまった場合でも、内部への通報があれば、それを契機としてその是正を図るなど、適切に対処していくことが期待できます。これに対し、いきなり外部に通報され、取引先や広く世間に知られることとなった場合、事業者のダメージは計り知れません。そのため、中小規模の事業者でも、不正の抑止や早期発見のために、事業者の規模に応じて適切な体制を整えておくことが望ましいと考えられます。
4.おわりに
以上のように、今回の改正案は、中小規模の事業者であっても決して無関係ではありません。改正後の法律の運用については、指針が示されることも予定されています。同法の改正内容や、今後の運用に注視が必要です。
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*1 公益通報者保護法2条3項で定める「通報対象事実」を指す。
*2 事業者内部への通報(1号通報)、権限を有する行政機関への通報(2号通報)、その他第三者への通報(3号通報)がある。