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フリーランス保護法の概要と留意点

2024/05/13

(執筆者:弁護士 村田大樹)

【Q.】
令和5年4月にフリーランスを保護する法律が成立したと聞きました。新法はどのような内容で、施行日以降、企業はどのような点に留意したらいいのでしょうか。教えてください。

【A.】
1.はじめに
近年、働き方の多様化が進み、フリーランスという働き方も浸透してきました。専門性の高い人材をピンポイントで活用できるなどのメリットからフリーランスを利用する企業も増え、フリーランスの数も増加する中、フリーランスとフリーランスに業務を委託する業者との間の交渉力や情報収集力の格差ゆえに、例えば、報酬の不払いや支払遅延等のトラブルも生じていました。
このように、フリーランスは取引上弱い立場に置かれやすいことから、今般、「取引の適正化」という競争法的観点と、「就業環境の整備」という労働法的観点の両面からフリーランスを保護するために、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス保護法」)が令和5年4月に制定されました。
そこで本稿では、フリーランス保護法の概要について解説したいと思います。

2.フリーランス保護法の対象
大前提として、フリーランス保護法は、BtoBにおける業務委託を対象としており、契約の一方当事者が消費者である場合や、単なる売買契約である場合は同法の対象となりません。
また、フリーランス保護法は、「組織」たる事業者と「個人」たるフリーランスの間に交渉力や情報収集力の格差があることを踏まえて、取引の適正化を図ることを目的としているため、同法の対象となる「特定受託事業者」(以下「フリーランス」)とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないものを指し、「特定業務委託事業者」(以下「発注事業者」)とは、フリーランスに業務委託をする事業者であって従業員を使用するものを指します。つまり、従業員を使用するフリーランスは、発注事業者との間で必ずしも交渉力等の格差が生じるとはいえないため、フリーランス保護法の対象にはならないわけです。


3.取引の適正化のための規制
「取引の適正化」のために発注事業者が守るルールとしては、①取引条件の明示義務、②期日までに報酬を支払う義務、③フリーランスに対する禁止行為と、大きく分けて3つがあります。
①について、発注事業者がフリーランスに業務を委託した場合は、原則として直ちに、フリーランスの給付の内容、報酬の額、支払期日等の取引条件の内容を書面または電子メールやSNS等の電磁的方法により明示する必要があります。なお、この規制は、取引上のトラブルを未然に防ぐという観点から、従業員を使用していない事業者(例えば、フリーランス)がフリーランスに発注する場合であっても適用されますので、留意が必要です。
次に②について、発注事業者は、フリーランスに発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で、報酬の支払期日を定め、それまでに支払う必要があります。
また、一定期間以上の取引が行われる場合には、①②に加えて、③の受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しが禁止されています。

4.フリーランスの就業環境整備
「フリーランスの就業環境を整備する」という観点から、発注事業者には、④広告等によりフリーランスを募集する際、実際よりも高い報酬額を意図的に提示するなど、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をせず、募集情報を正確かつ最新の内容に保つ義務、⑤パワハラ・セクハラ等のハラスメント行為によりフリーランスの就業環境を害することのないよう必要な措置を講じる義務が課されています。
また、一定期間以上の取引が行われる場合には、⑥育児介護等と業務を両立できるよう、フリーランスから申し出があった場合に必要な配慮をする義務、⑦発注事業者が中途解約あるいは不更新の措置をとろうとする場合は、一定期間前に予告する義務が課されています。

5.企業における留意点
下請事業者の利益を保護する法律としては、既に独占禁止法や下請法等が存在するものの、下請法については、資本金額が少なくとも1000万円を超える事業者にしか適用されませんでした。しかし、フリーランス保護法では、資本金額を問わず規制がかかりますので、今までは下請法を意識する必要がなかった中小企業は特に留意が必要です。
加えて、フリーランス保護法は、業務委託の種類に限定なく適用され、また、法人であっても従業員(短時間・短期間等の一時的に雇用される者は含みません)がいなければフリーランスに該当するなど、広範な事業者がフリーランスにあたり得るため、注意が必要です。
さらに、フリーランス保護法は、フリーランスの就業環境への配慮義務など、下請法にはなかった義務を課していますので、これまで下請法を遵守できていた企業も、施行日までに各義務の内容について確認するようにしてください。

6.さいごに
フリーランスの該当性や体制整備の十分性については、難しい判断が必要です。フリーランスに該当し得る業者に業務委託する可能性があれば、あらかじめ必要に応じて専門家に相談することをご検討ください。

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