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フォーキャスト(発注計画)の提示と下請法

2024/05/31

(執筆者:弁護士 福田泰親)

1 フォーキャストとは

 親事業者が、将来の発注計画を下請事業者に示し、この計画に基づいて、個別の発注を都度行うという手法(フォーキャスト)がとられることがあります。特に製造業においては、フォーキャストの重要性は非常に高く、親事業者の生産計画の正確性を高め、在庫コストの削減や納期の短縮が可能となり、ビジネスの最適化を期待できます。また、下請事業者にとっても受注量の予測ができるというメリットがあります。

 しかしながら、以下のような場面では、フォーキャストが下請法に違反する場合があります。

2 発注書面の交付義務違反

 親事業者は、下請事業者に発注をした場合には、直ちに所定の書面(3条書面)を下請事業者に交付しなければならないとされています(下請法第3条)。この規定の趣旨は、口頭での発注の場合には取引条件が不明確でトラブルが生じやすいため、このようなトラブルを未然に防ぐためにあります。

 フォーキャストは、あくまで親事業者の発注計画を内示するものに過ぎず、正式発注ではありません。そのため、フォーキャストの時点では3条書面を交付する必要もないのが原則です。しかしながら、内示という形式であっても、これが示された時点で納品までのリードタイムが短く、下請事業者がすぐに製造等に着手しなければ間に合わないといった状況の場合には、実質的にフォーキャスト自体が発注であると解される可能性があります(*1)。この場合、フォーキャストを示す時点で3条書面を示さなければ、下請法違反となります。

3 受領拒否

 親事業者は、下請事業者の責めに帰すべき事由がないのに、下請事業者の給付を拒んではならないとされています(下請法第4条第1項第1号)。「受領を拒む」とは、下請事業者の給付の全部又は一部を納期に受け取らないことであり、下請事業者の帰責事由がないのに、発注後に契約を解除したり、納期を延期したりすることも含まれます(下請事業者の帰責事由がない場合。

 2のとおり、フォーキャストは正式発注ではないのが原則ですが、フォーキャストの時点で発注と解される場合があります。この場合、親事業者がフォーキャストで示した数量を受領しなければ、下請法違反になります。

4 買いたたき

 親事業者は、下請代金の額を決める際に、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めてはならないとされています(下請法第4条第1項第5号)。なお、買いたたきは、親事業者が下請事業者に発注する時点で生じるものであり、一旦決定された対価を事後的に減ずることは、不当減額(下請法第4条第1項第3号)として別途規律されています。

 フォーキャストでは、たとえば期初に年間の発注計画を示し、この計画に基づいて1年を通して個別発注を行っていくケースがあります。このような場合、下請事業者は、年間の発注数量の合計を前提に、受注単価を計算していることが多いでしょう。ところが、親事業者の経営戦略の変更等により、期中に発注計画を見直さざるをえない状況になった場合に、親事業者が下請事業者と十分な協議をすることなく単価を据え置いた場合はどうでしょうか。下請事業者としては、当初の年間発注量を前提としたディスカウントをしていたのですが、途中で年間発注量が減らさせることになったにもかかわらず、ディスカウントはそのまま維持させられることになります。このような場合、親事業者は著しく低い対価を不当に定められたとして下請法違反になる可能性があります。

5 適切なフォーキャストの運用に向けて

 フォーキャストを示す際には、書面等において、正式発注ではなくフォーキャストである旨を明記し、お互いに認識の齟齬がないようにする必要があります。また、フォーキャストの内容においても、下請事業者にとって合理的なリードタイムが確保されていることが重要です。さらに、フォーキャストを変更する場合には、できる限り早いタイミングで下請事業者にコンタクトし、対応を十分に協議することが重要です。

*1 経済産業省「情報通信機器産業における下請適正取引等の推進のためのガイドライン」22頁(令和3年12月)

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