(執筆者:弁護士 佐藤竜一)
1.はじめに
ABL(=Asset Based Lending)とは,企業が保有する動産(在庫・機械設備)や売掛債権などの事業収益資産を担保として融資する手法です。我国においては,未だ利用が進んでいませんが,資金調達の多様化の観点から,近年,借り手,貸し手の双方に注目されているところです。今回は,ABLの現状と課題について概説します。
2.ABLが注目されるようになった背景
会社の資金調達の手法としては,新株発行や社債発行がありますが,こうした資金調達ができるのは,一定規模以上の会社に限られます。多くの中小企業にとっては,不動産を担保とした借入や,個人保証を付すことによる借入が,これまでの資金調達の主たる方法でした。しかし,統計調査によると,我国の企業全体が保有する売掛債権については,不動産と同程度の,在庫動産については半分を超える価値があるとされています。そこで,企業の有する流動資産の活用が資金調達の面から注目されるようになったのです。特に優良な商品を作りながら担保価値のある固定資産を有さない中小企業にとって,ABLは,有効な資金調達手段となりうるものとして期待されているのです。
3.ABLの広がりを支える法制度の整備
平成17年10月動産債権譲渡特例法が施行され,動産についての譲渡登記制度が創設されました。これによって,それまで第三者に対して占有改定という外から見て分かりにくい方法でしか対抗できなかった動産譲渡担保が,登記により第三者に対抗できるようになりました。
また,「中小企業信用保険法の一部を改正する法律」が施行されたことにより,平成19年8月から,信用保証協会による流動資産担保融資保証制度の取り扱いが始まりました。これは,従来の売掛債権担保融資保証制度の担保に,在庫商品や製品在庫等の棚卸資産が付加されたものです。
このようにABLの広がりを支える法制度が次第に整備されてきています。
4.ABLの具体的手法
ABLの具体的手法は,様々ですが,例えば,金融機関が,在庫動産,売掛債権,預金を一体的に担保に取って融資する「流動資産一体担保型融資」という手法があります。これは,金融機関が,融資先会社の有する在庫動産を集合物動産譲渡担保として,売掛金債権を将来債権譲渡担保として,売掛金の振込口座に係る預金債権を質権という形で担保設定し,会社に融資を行うものです。いずれの目的物も価値が変動するものなので,金融機関は,融資先会社の経営状態を常に確認しておくこと(モニタリング)が必要とされています。また,借り手会社も,モニタリングされることにより,緊張感を持った経営が求められることになります。
5.ABLの課題等について
ABLが広く普及するためには,動産在庫の評価手法が確立することが必要です。経済産業省開催のABL研究会が平成18年3月に取りまとめた「ABL研究会報告書」では,動産鑑定士制度の導入の必要性が指摘されているところです。また,動産譲渡担保の実行の場面に関しては,対象資産の散逸を防ぐための,保全処分の迅速化が必要と言われています。
ABLは,まだ黎明期にあり,これ以外にも様々な課題を抱えています。しかし,ABLは,中小企業の資金調達の多様化にとって有用な制度といえ,今後利用が進むことが期待されています。
(以上)