(執筆者:弁護士 雑賀裕子)
【Q.】
今般、高齢者の継続雇用に関し、法改正があったと聞きました。改正内容につき、概要を教えてください。_
【A.】
現行の「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」によれば、定年は60歳を下回ることができず(法8条)、また、65歳未満の定年を定める事業主は、65歳までの雇用確保のため、�@定年の引き上げ、�A継続雇用制度の導入(ただし、継続雇用の対象者を限定する基準を労使協定で定めることも可能)、�B定年の定めの廃止、のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を講じる必要があります(法9条1項・2項)。実務上は、60歳定年のまま、�Aの労使協定による基準に従った制度を導入している企業がほとんどです。
しかし、年金制度改革により厚生年金(定額部分)の支給開始年齢が引き上げられ、報酬比例部分についても、男性は平成25年4月から(女性は平成30年4月から)支給開始年齢の段階的な引き上げが始まることから、現行法のままでは、同月以降、60歳定年後に雇用が継続されず、厚生年金も支給されないために無収入となる者が生じる可能性があります。かかる事態の回避を目的として、平成24年8月29日に法の一部が改正されました(平成25年4月1日施行)。改正の概要は、次のとおりです。
1.継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止
前記�Aのとおり、労使協定で基準(健康状態、勤務態度や業績評価など)を定めることで、当該基準を満たす者のみを継続雇用の対象とすることも可能でしたが、この仕組みが廃止され、希望者全員を対象としなければならないこととされました。なお、後記4.の指針で、心身の故障のため業務遂行に堪えない者等、就業規則に定める解雇事由または退職事由に該当する場合は例外とされました。
2.継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大
高年齢者の継続雇用先について、自社に限らず、子会社や関連会社などグループ企業にまで拡大できるようになりました(改正法9条2項)。子会社や関連会社の具体的範囲は、高年齢者雇用安定法施行規則の改正により定められました。その内容は厚生労働省HP*で確認することができます。
3.義務違反の企業への公表制度の導入
高年齢者雇用確保措置を講じていない事業主に対し、厚生労働大臣は、指導、助言、勧告を行うことができますが(法10条1項・2項)、改正法では、さらに、勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができるとされました(改正法10条3項)。
4.高年齢者雇用確保の措置の実施及び運用に関する指針の策定(改正法9条3項)
指針は平成24年11月9日に告示され、厚生労働省HP*で確認することができます。
5.経過措置
労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を設けている事業主については、厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢に達した者を対象に、当該基準を引き続き利用できる12年間(平成37年4月1日まで)の経過措置が設けられます。すなわち、厚生年金報酬比例部分の支給開始年齢が平成25年4月1日には61歳とされ、その後3年ごとに1歳ずつ引き上げられることに対応して、平成37年3月31日までは労使協定による基準を適用することができます。
例えば、平成28年3月31日までは61歳未満の者につき希望者全員を継続雇用制度の対象としなければなりませんが、61歳以上の者については当該基準の適用が可能です。
本改正により希望者全員が継続雇用制度の対象となることから、今後、高年齢者の雇用の増加によるコスト増が見込まれます。各事業者においては、給与体系の見直しや、多様な勤務形態の整備、若年者の採用とのバランスを図ることなど、全体的・長期的な視野をもって対策を講じていく必要があります。
*厚生労働省HP(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1.html)_