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『高年齢者継続雇用に関する初めての最高裁判決について』

2013/02/18

(執筆者:弁護士 岸野 正)

【Q.】
当社は、労使協定により高年齢者継続雇用規程を定めていますが、高年齢者の継続雇用の採否を判断する際、その運用について留意すべき点はありますか。_

【A.】
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年法)9条2項に規定されている、継続雇用制度の対象となる高年齢者を事業主が労使協定によって定める基準で限定できる仕組みは、平成25年4月1日の改正高年法の施行により廃止されます。しかし、同法が施行されるまでに、この基準を定めていた事業主については、経過措置として、老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者を対象に、定めていた基準を引き続き利用することが認められています。したがって、改正法の施行日以降についても、継続雇用制度の対象者を限定する基準の運用が問題となりえます。

この高年齢者継続雇用制度に関して、平成24年11月29日、初めての最高裁判決がありました。本事例は、労使協定により高年齢者継続雇用規程を定めた会社が、継続雇用を希望した高年齢者(60歳の定年後1年間の嘱託契約あり)に対し、基準に満たないとして、嘱託契約終了日をもって再雇用契約を締結しないと通知したことに起因します。

この会社は、高年齢者の業務能力等を点数化し、その結果に応じて、高年齢者の採用、勤務時間、雇用期間、賃金算定方法等を決定していたのですが、当該高年齢者の点数化の査定を誤っており、正しい査定では所定の継続雇用基準を満たしていたことから、裁判では、高年齢者の地位(雇用関係の有無)が問題となりました。

最高裁は、本件について次のように判示し、高年齢者継続雇用規程に沿った雇用関係の成立を認めました。
「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから、被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方、上告人において……被上告人の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。したがって、本件の前記事実関係等の下においては、前記の法の趣旨等に鑑み、上告人と被上告人との間に、嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり、その期限や賃金、労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される」
この最高裁判決は、具体的な事実関係等の下における事例判決ではありますが(比較的詳細な労働条件が定められていた事案といえる)、高年齢者の継続雇用に対する合理的な期待を保護するとともに、いわゆる雇い止めに関する過去の最高裁判決を引用していることから、解雇権濫用法理を類推適用した事案とも位置づけられます。

以後、継続雇用制度の対象者を限定する基準の運用にかかる判断については、前述の最高裁判決で示されたように、対象者において継続雇用に対する合理的な期待の有無の評価が主に問題とされることが考えられます。したがって、事業主としては、継続雇用を行わないと判断した対象者に、そのような期待が認められることがないよう、高年齢者継続雇用規程の運用に際しては言動に注意する必要があります。例えば、1年ごとの雇用期間の更新が定められているのであれば、65歳まで継続雇用されるといった期待を対象者に与えないよう、「1年ごとに更新がなされない場合があり、65歳まで継続雇用されることを保障する制度ではない」ことを十分理解させるとともに、規程の基準に沿って、更新手続を厳格に行うなどといった運用が必要と考えられます。
なお、高年法の改正内容と高年齢者継続雇用制度の詳細については、厚生労働省のホームページ*に解説がありますので、ご参照ください。
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/tp120903-1.html_

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