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『紛争増加中! 高年齢者継続雇用制度への対応を』

2011/05/16

(執筆者:弁護士 猿木秀和)

【Q.】
_数年前から、従業員が定年になった後も、年金の支給開始年齢になるまでは雇用を継続しなければならなくなったと聞きました。しかし当社では、定年に達する者が当分いないので、特にこれまで何も対応していません。このままにしておいても問題はないのでしょうか。

【A.】
_1.高年齢者継続雇用制度について

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下「高年法」)は、65歳未満の定年制を採る企業に対し、雇用する労働者につき65歳までの安定した雇用を確保するため、以下のいずれかの措置を講ずることを義務付けています(同法9条1項)。
�@65歳以上への定年の引き上げ
�A継続雇用制度の導入
�B定年の廃止
この規定は平成18年4月に施行されたもので、年金の支給開始年齢の引き上げスケジュールにあわせて経過措置が設けられました。平成22年4月から同25年3月の間に定年に達する者については、64歳までの雇用確保が求められています。
大半の企業では60歳定年制が採られていますが、定年の廃止・引き上げを行った企業は少なく、多くの企業が、嘱託・契約社員として雇用するなどの�A継続雇用制度で対応しています。
上記�@〜�Bの措置を講ずる義務は、全ての企業に課されています。したがって、当分の間、定年に達する労働者がいない場合でも、定年の引き上げ・廃止を行うか、高年齢者継続雇用制度を設けておかなければなりません。

2.継続雇用時の人選・待遇など

継続雇用制度を設けた場合、企業は定年に達した全ての労働者を原則としてこの制度により雇用しなければなりません。もっとも、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合(これがない場合には、労働者の過半数を代表する者)と書面にて協定し、継続雇用する者の基準を定めることはできます(同条2項)。ただし、基準については、客観的かつ具体的なものでなければならず、「会社が必要と認めた者に限る」「上司の推薦がある者」といった主観的で曖昧なものは、適法な基準として認められません。
なお、継続雇用時の待遇については、必ずしも定年前の待遇を維持しなければならないものではなく、企業の実情に応じて、ある程度待遇が下がったとしても直ちに違法になるとは考えられていません。

3.高年齢者継続雇用を巡る紛争の増加と裁判例

近時、この継続雇用を巡る紛争が増加しており、裁判例も蓄積されつつあります。高年法9条1項は、�@〜�Bのいずれかの措置を講ずることを義務付けるに止まり、企業がこの義務を果たさなかった場合に、労働者が企業に継続雇用等の請求ができるかは、制定当時より明確ではありませんでした。
この点に関する最高裁判例はまだ出ていません。従前の裁判例では、高年法に基づく雇用義務は否定されていましたが(東京地裁平成21年11月16日判決など)、近時では、継続雇用対象者の人選基準の制定手続を違法とした事案において、労働者を継続雇用すべきと判断した裁判例(横浜地裁川崎支部平成22年2月25日判決)や、継続雇用自体は認めなかったものの、労働者に慰謝料等として550万円の損害賠償を認めた裁判例(札幌地裁平成22年3月30日判決)などが出てきています。

4.まとめ

ご相談の件は�@〜�Bの措置を講じておらず、高年法9条1項に反しているため、公共職業安定所より指導・勧告等を受けるおそれがあります。また将来、当該年齢の者が生じても継続雇用しない場合には、引き続き対象者である労働者を雇用する義務が生じたり、労働者に対して慰謝料などの損害賠償義務を負ったりするおそれもありますので、速やかな対応が必要です。

(以上)

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