(執筆者:弁護士 山畑博史)
【Q.】
このたび、労働者派遣法が改正されたと聞きました。わが社でも派遣労働者を受け入れており、その内容が気になります。経営者として気をつけなければならないことがあれば、教えてください。_
【A.】
1.労働者派遣法の改正経緯
平成20年秋のリーマンショックを契機に、「派遣切り」が社会問題化しました。このような状況を受け、派遣労働者保護等の観点から、いわゆる労働者派遣法が改正されることとなり、改正法案が平成22年3月19日に閣議決定されました。
その後、国会での審議が継続されていましたが、平成24年3月28日、当初の改正案からいくつかの修正を経て、労働者派遣法の改正法が成立し、同年4月6日に公布されました。
2.改正労働者派遣法の内容
改正法は大きく分類すると、�@事業規制の強化、�A派遣労働者の無期雇用化や待遇の改善、�B違法派遣に対する迅速・的確な対処、といった内容となっています。以下に、具体的な改正事項をいくつかご紹介します。
�@事業規制の強化
日雇派遣(日々または30日以内の期間を定めて雇用する労働者派遣)が、政令で定める場合を除き、原則として禁止となりました。
�A派遣労働者の無期雇用化や待遇の改善
例えば、派遣元事業主について、一定の有期雇用の派遣労働者につき、無期雇用への転換推進措置を講ずるよう努力する義務が定められました。その他、派遣労働者に対する派遣料金の明示義務なども新たに規定されています。
�B違法派遣に対する迅速・的確な対処
一定の類型の違法派遣において、派遣先が違法行為であることを知りながら(あるいは過失によって知らずに)派遣労働者を受け入れている場合には、派遣先が派遣労働者に対して、当該派遣労働者の労働条件と同じ労働条件の労働契約を申し込んだものとみなす、という規定(みなし申込みの規定)が設けられることになりました。
この規定は、いわゆる偽装請負だけではなく、労働者派遣可能期間を徒過した労働者派遣といった違法類型についても適用され、この規定が適用される場面では、派遣労働者が承諾の意思表示をすれば、派遣先と派遣労働者との間に直接雇用契約が成立することとなります。ただし、この規定は、改正法の施行から3年経過後に施行されることになっています。
そのほか、法律の名称が、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」と変更され、派遣労働者の保護の趣旨が明記されました。
なお、当初提出された改正法案では、登録型派遣の原則禁止や製造業務派遣の原則禁止が規定されていましたが、最終的にはこれらの規定は削除され、登録型派遣の在り方や製造業務派遣の在り方として引き続き検討すべき事項とされました。
※詳細は厚生労働省のHP(http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/)をご参照ください。
3.実務への影響
当初の改正案に比べると一部規制が緩和されたとはいえ、今回の改正は、労働者派遣の法規制を強化する内容となっています。特に、みなし申込み規定が設けられたことによって、派遣労働者を受け入れている企業は、意図せず違法派遣の状態が生じた場合でも、派遣労働者との間で直接雇用契約が成立する可能性があるため、派遣労働者の受け入れ状況について十分注意を払う必要があります。
みなし申込み規定の施行までには3年の猶予がありますので、それまでに、労働者派遣契約や管理の点検・見直し、場合によっては雇用体制全体の見直しなど、相応の準備を行っておく必要があると考えられます。_