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『工場休業の場合の賃金・休業手当の支払について』

2011/04/04

(執筆者:弁護士 佐藤竜一)

【Q.】
当社は製造業を営んでいますが、隣接する大規模な住宅火災が原因で工場の一部が延焼し、製造ラインの機能復旧まで、一週間程度休業せざるを得なくなりました(事例1)。当社としては、必要な防火体制は取っており、不可抗力による延焼と考えています。当社において、工場の従業員の給与は日給月給制ですが、工場を休業した場合、当社は賃金や労働基準法26条の休業手当の支払が必要でしょうか。当社が工場敷地外に可燃物を放置し法律の定めに従った保管をしていなかった場合や(事例2)、当社工場が機能復旧したにかかわらず、火災とは別の外部要因により原材料が調達できず工場再開ができない場合(事例3。例えば、原材料を供給していた会社の経営難を原因とする調達困難など)はいかに考えるべきでしょうか。

【A.】
_1.賃金支払の要否について

お尋ねの場合、御社の従業員は労働義務を果そうとしても履行することができません。このような場合に御社に賃金支払義務があるか否かは、御社の責任により労働義務を果せなくなったか否かによって決せられることになります(民法536条2項)。御社の帰責事由の有無は、御社に故意、過失または信義側上これと同視すべき事由があるか否かにより判断されることになります。
事例1に関しては、御社は必要な防火体制を取っており、帰責事由があるとは言えませんので賃金支払義務はないことになります。事例3についても、事情如何によりますが基本的には御社に責任はないと思われます。
他方、事例2は、通常であれば延焼が防げたにもかかわらず、御社の過失等により延焼してしまったといえ、御社は賃金支払義務を免れないことになります。
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2.休業手当支払の要否について

休業手当については労働基準法26条に、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない」旨定められています。そして、ここにいう使用者の帰責事由は、上記民法536条2項より広く、使用者の支配領域内で発生した事由に基づく場合を含み、不可効力は除かれると考えられています。行政解釈によりますと、ここにいう不可抗力とは、その原因が事業の外部より発生した事故で、しかも事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても避けることのできない事故であるという2要件を満たす必要があるとされています。
例えば、原材料の不足、資材・資金難、監督官庁の操短勧告による操業短縮などは使用者側に帰責事由があるとされ、労基法33条2項に基づく代休命令による休業のように法令遵守によって生ずる休業などは使用者側の帰責事由にあたらないと考えられています。
本件については、事例1、事例2は賃金支払の要否と同様の結論になると考えられますが、事例3については、その理由如何によって、御社に休業手当の支払義務が生じることも考えられます。支払の要否については、不可抗力といえるか否かという上記2要件から考えていくことになりますが、微妙な判断を含みますので必要であれば弁護士にご相談ください。

このように、民法536条2項と労働基準法26条とでは帰責事由の内容が異なっています。このことにより、賃金支払義務はなくとも休業手当の支払義務が生ずる場合もありますので、留意が必要です。

(以上)

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