(執筆者:弁護士 佐藤竜一)
【Q.】
当社は製造業を営んでいますが、取引先の会社に対して比較的少額の売掛金を有しています。しかし、取引先は支払期限が経過しても、当社に対して支払いをしてくれません。当社が何度か取引先社長に対して電話で督促をした際には、支払う約束をするのですが、やはり支払いはなく、何度かそのようなことを繰り返しました。訴訟等をするとなると弁護士費用などで売掛金以上の費用がかかってしまうのではと懸念しており、また簡易、迅速に回収したいとも考えています。通常の民事訴訟以外で、何か良い方法があれば教えてください。
【A.】
1.はじめに
比較的少額な債権につき、費用をあまりかけず、簡易・迅速に回収しうる手段(通常の民事訴訟以外)について、以下説明したいと思います。
2.内容証明郵便による催告書の送付について
御社の取引先は、御社が電話による催告以上の手段に訴えることはないと考えている可能性があります。そこで、御社は債権回収をするという強い意思・態度を相手方に示す必要があります。 この方法としては、内容証明郵便により、取引先に対して催告書を送付することが考えられます。催告書には、支払期限と、支払がない場合は法的措置も辞さないことを示しておくと効果的です。差出人としては、御社の代表取締役名でもよいですが、弁護士名で出状すると、相手方に与える印象から効果的な場合もあると考えます。
3.支払督促について
支払督促(民事訴訟法382条以下参照)は、裁判所書記官から支払督促という文書を発してもらうことで簡易迅速に債務名義(確定した判決と同じように強制執行ができることとなる文書)が得られる手続です。ただし、相手方が、支払督促文書の送達後2週間以内に異義を申し出ると通常の民事訴訟に移行しますので留意が必要です。
4.少額訴訟の提起について
御社としては、簡易裁判所を管轄とする少額訴訟手続(民事訴訟法368条以下参照)を利用することも考えられます。少額訴訟手続は、60万円以下の金銭支払を求める訴えについて、原則として1期日で審理を終え、審理終結後直ちに判決言い渡しがなされることを予定していますので、紛争を簡易迅速に解決することが期待できます。もっとも、証拠は審理期日に直ちに調べることができるものに制限されますので、例えば契約書等が存在し相手方への請求が容易に立証できるといった場合に利用することが効果的であるといえます。
ただ、この手続も相手方が希望する場合や、簡易裁判所の判断で通常の民事訴訟手続に移行する場合があります。この場合は、上記で述べた簡易迅速な解決は図れないこととなります。
5.さいごに
上記以外にも回収手段としては、調停委員を介して話し合うことにより解決を図る民事調停手続が考えられます。民事調停手続では、当事者同士の話し合いに比して調停委員が事案の解決を斡旋してくれることが期待できます。もっとも、相手方が話し合いによる解決を拒否すれば、紛争解決を強制することはできません。
以上述べた手段は、弁護士費用以外の手続費用自体(裁判所に収める印紙代や郵券代、内容証明送付費用など)はいずれも比較的低廉ですが、それぞれメリット・デメリットがあり、いずれを選択すべきかについては、事案により異なります。御社が、債権回収を図るか否かも含めて悩んでいる場合は、弁護士に相談されることをお勧めいたします。御社が費用との関係で訴訟手続までは弁護士に委任できない場合でも、例えば内容証明作成及び任意交渉までを委任することや、回収の可否、有効な方法につきアドバイスを受けることは可能です。
(以上)