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『在庫商品を担保にとる方法』

2008/09/01

(執筆者:弁護士 猿木秀和)
【Q.】
弊社は,機械部品を製造販売しておりますが,ある販売先について信用不安があるため担保の提供を求めようと考えています。
この販売先には,倉庫に保管している在庫商品以外にめぼしい財産がないため,この商品を担保に取ることを考えています。
その場合の注意点を教えて下さい。
【A.】
1 はじめに
前回,不動産等の資産がない取引先より担保を取る方法として,将来債権の譲渡担保について説明しましたが,例えば,在庫商品を日頃から多く抱えている会社で,その商品が容易に売却できるものである場合などには,その在庫商品を担保にとることも有用と考えられます。
2 在庫商品を担保に取る方法
例えば,自社が相手方に有する売掛債権を担保するため,相手方が倉庫等に保管する在庫商品の譲渡担保契約を結びます。それにより相手方が債務不履行に陥ったときは,担保を実行し,在庫商品の売却代金等から債権の回収を図ることができます。
この場合,倉庫内の商品は日常の取引の中で絶えず入れ替わるため,担保の対象をいかに特定するかが重要になります(特定が不十分な場合,担保契約自体が無効となることもあります。)。
具体的には,動産の種類,所在場所,量的範囲を特定する必要があるとされており,判例では,例えば,「第1ないし第4倉庫内及び同敷地・ヤード内に存在する普通棒鋼,異形棒鋼等一切の在庫商品」などの特定方法が有効と認められています。
3 第三者に対する対抗要件について
在庫商品など動産の譲渡担保は,物の占有を自己に移していないと,相手方以外の第三者に対抗することはできません。占有を移す方法としては,実際に自己の管理下に物を移すほか,相手方に以後は自己のために物を保管する旨の意思を表示させる方法(占有改定),第三者が物を保管している場合に,以後は自己のために保管するよう命じ,承諾を得る方法(指図による占有移転)等が認められています。在庫商品を担保とする場合には,現実に商品を動かすことは困難でしょうから,占有改定または指図による占有移転によることになるでしょう。
なお,近年法整備がなされ,動産譲渡についても登記により対抗要件を得ることが可能になったので,これによることも有用です。
もっとも,動産については,他人の物であっても,そのことを過失なく知らずに取引により取得した者は,その物の所有権を得るという善意取得(民法192条)の制度があり,担保だと知らずに在庫商品を買った者に対しては,担保の効力を主張できないおそれがあります(なお,譲渡の登記がなされた動産については,買主の過失が認められ善意取得が成立しないのではとの議論もありますが,未だ裁判等において判断はなされていません。)。
そこで,担保の対象については,倉庫に担保物件であることを示す立て札を立てる等の明認方法を施すことが望ましいです。
4 担保の実行方法
相手方に債務不履行が生じるなどして担保を実行する場合には,相手方にその旨を通知し,在庫商品を引き揚げることになります。そして,引き揚げた商品を契約の定めに従い売却するなどして,債権の回収を図ります。この場合,相手方に無断で倉庫に立ち入り商品を引き揚げるなどした場合は,住居侵入罪,窃盗罪が成立しますので,必ず商品の管理者の承諾を得て商品を引き揚げることが必要です。
5 最後に
在庫商品の担保については,善意取得の問題や,商品を引き揚げる際に相手方の承諾が必要となること等の問題はありますが,冒頭に述べたような一定の場合には有用であり,検討に値するものと考えます。
(以上)

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