(執筆者:弁護士 猿木秀和)
【Q.】
このたび労働者派遣に関する法律が大きく変わる見込みと聞きました。その概要を教えてください。
【A.】
平成20年秋のいわゆるリーマン・ショックを契機として雇用情勢が著しく悪化し、製造業を中心としていわゆる「派遣切り」などが社会問題化しました。このような状況を受けて、派遣労働者保護等の観点から、いわゆる労働者派遣法が改正されることとなり、改正法案が平成22年3月19日閣議決定されました。以下、その概要をご説明します。
1.派遣労働者保護の明確化
法律の題名が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」と変更され、法の目的として、派遣労働者の保護やその雇用の安定が明記されます。
2.登録型派遣の原則禁止
労働者派遣の形態としては、常時雇用する労働者のみを派遣するいわゆる常用型派遣と、派遣希望の者を登録しておき、派遣の都度、派遣期間だけの労働契約を締結するいわゆる登録型派遣があります。このうち登録型派遣については、雇用の安定性を欠くとの観点から、�@ソフトウェア開発・事務用機器操作等の専門26業務の派遣など、�A産前産後休暇・育児介護休業取得者の代替要員派遣、�B60歳以上の派遣労働者の派遣、�C紹介予定派遣の場合を除いては、禁止となります。
なお、この規制の実施は、実務への影響が大きいと予想されることから、経過措置として、改正法の公布の日から3年以内の政令で定める日まで規制の実施が猶予される予定です。また、今後政令で定められる特定の業務については、法全体の施行日から2年以内の政令で定める日までさらに規制の実施が猶予される予定です。
3.製造業派遣の原則禁止
「派遣切り」が製造業を中心に社会問題化したことを受けて、製造業への労働者派遣が、常時雇用(1年を超える期間の雇用)労働者を派遣する場合を除いて禁止されます。これについても実務に与える影響から、2.同様の猶予期間が設けられる予定です。この規制の実施により、これまで派遣労働者が担っていた業務は、直接雇用化が進められたり、業務請負に変更されることが予想されます。
4.日雇派遣の原則禁止
雇用の安定性に欠けるとの観点から、日々または2ヶ月以内の期間を定めて雇用する労働者派遣が、政令で定める予定の特定の業務(専門26業務の一部等が予想されます。)を除いて禁止されます。
5.違法派遣の場合における直接雇用の促進
違法派遣の場合に、派遣先が違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合には、派遣先が派遣労働者に対して労働契約を申し込んだものとみなす規定が設けられます。これに該当する場合には、派遣労働者が希望すれば、派遣先はその者を直接雇用しなくてはならなくなります。
6.その他
昨今、企業がグループ内に派遣会社を有し、この会社がグループ内企業に労働者派遣を行う形態が見られますが、かかる派遣形態に関しても、グループ内企業(関係派遣先)への派遣割合を80%以下に止めることや、離職した労働者を離職後1年以内に派遣労働者として受け入れることを禁止する等の規制も設けられる予定です。
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この改正法案については、今後、国会で審議される予定ですが、改正法案が成立した場合には、企業における派遣労働者の取扱いについても大きな変化を受けることが予想されますので、その動向を注視しておくべき必要があるでしょう。
(以上)