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『内定取消の法的な問題点』

2009/01/01

(執筆者:弁護士 内芝良輔)
【Q.】内定取消の問題点は?
昨今の不況の影響で業績が大幅に悪化し、内定を取り消す企業が増加していると聞いています。我が社も他人事とは言い切れません。このような内定取消に関する法的な問題点について、教えてください。
【A.】
1.はじめに 〜採用内定の法的意味〜
企業が新卒者を採用する際には、その者に採用内定を通知し、卒業し次第、採用するといった方法が一般的ですが、そもそもこの採用内定というものは法的にどのような意味を持つのでしょうか。
この点について最高裁は、企業の採用募集に対する応募は労働契約の申込であり、企業側の採用内定は申込に対する承諾にあたるとして、内定時点で誓約書等記載の取消事由が生じた際は解約できるという、解約権留保付きの労働契約が成立するとの判断を示しています(最高裁昭和54年7月20日判決等)。また、最高裁は採用内定の法的性質は個々の事案毎に判断すべきとも述べていますが、一般的な事案では、企業が内定通知をした時点で労働契約が成立したと考えられるでしょう。
2.内定取消が許されうる場合
このように採用内定時点で労働契約が成立していることから、その取消は契約関係の解消となります。そして最高裁は、内定取消は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できなかった事実があり、解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と判断される場合にのみ認められるとしています。
例えば、学校を卒業できなかった場合や病気による著しい健康状態の悪化の場合、内定者の非違行為があった場合、提出書類の重要事項への虚偽記載があった場合などが、この「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できなかった事実」にあたると考えられています。
3.会社都合の内定取消の可否
では、会社の業績の悪化を理由とする内定取消は可能でしょうか。
先述したように、内定取消は「解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができる」ものであることが必要なため、それが業績悪化という会社の都合によるものである場合は、その可否がより厳格に判断されると考えられます。
その判断には、業績悪化に伴う従業員の解雇(整理解雇)の可否の判断基準が参考になるものと思われます。
具体的には、
�@人員削減の必要性
�A解雇(内定取消)回避努力の有無
�B人選の合理性
�C手続の妥当性
といった事情を勘案して、整理解雇が解雇権の濫用に当たるかを判断するものです。
業績悪化による内定取消が認められるか否かの判断は、まさにケースバイケースです。従業員の解雇よりも先に内定取消を行うことに一定の合理性を認めた判例もありますが、あくまで会社側の事情による内定取消であり、やはり、その判断は会社に対して厳格なものとならざるを得ません。
なお、内定取消が違法と認定された場合には、内定者が従業員としての地位確認を求めることができるほか、会社に対する損害賠償請求が認められる場合もあります。内定取消を検討するのであれば、このようなリスクがあることを考えて検討する必要があります。
4.おわりに
以上の通り、採用内定を出した場合には会社と内定者の間に一定の契約関係が成立しているといえます。そして、いったん成立した契約を解消することは、容易ではありません。
したがって、採用にあたっては、会社の経済状況や社会の動向等を慎重に判断し、計画的に行う必要があるといえるでしょう。
(以上)

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