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『個人事業主でも労働組合法上の「労働者」?』

2011/12/19

(執筆者:弁護士 岸野 正)

【Q.】
最近、会社と直接雇用関係のない労務供給者でも団体交渉権が認められる場合があると聞きました。どういうことなのか、詳しく教えてください。_

【A.】
1.はじめに
今般、労務コストの削減等のため、多くの企業において従業員の非正規化や業務のアウトソーシング化が進んでいますが、その形態の1つとして、個人の労務供給者と業務委託契約を締結して労務の提供を受けるものがあります。このような労務供給者は、形式的には直接の雇用関係がないとしても、労働組合法上の労働者にあたる場合があります。

2.2つの最高裁判決
この点に関し、平成23年4月12日、同時に2つの最高裁判決が出されました。1つは、住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその補修修理等の業務に従事する者についてです。もう1つは、オペラ公演を主催する財団法人との間で出演基本契約を締結したうえで、公演ごとに個別公演出演契約を締結して出演していた合唱団員についての事例です。いずれも事例判決(その事例についてのみにあてはまるような判決)ではありますが、当該会社または財団法人との関係において労働組合法上の労働者にあたると判断されました。
これらの判決は、労働組合法上の労働者性について、一般的な判断基準を明示するものではありませんが、以下のような事情を総合考慮しつつ判断したものと考えられます。
�@労務供給者が、相手方の業務の遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか
�A契約の締結の態様から、労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか
�B労務供給者の報酬が、労務供給に対する対価またはそれに類するものとしての性格を有するか
�C労務供給者が、相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあるか
�D労務供給者が、相手方の指揮監督の下に労務の供給を行っていると広い意味で解することができるか、労務の提供にあたり日時や場所について一定の拘束を受けているか

3.労働組合法上の労働者性の判断基準について
判決を受け、厚生労働省の労使関係法研究会において、労働組合法上の労働者性の判断基準について報告書が作成されました。これによれば、前述の�@〜�Dのうち、�@〜�Bを基本的判断要素、�C�Dを補充的判断要素と位置付けたうえ、さらに「�E労務供給者が、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者と見られることが総合判断において労働者性を消極的に解し得る判断要素にあたる」としています。
そして、各判断要素について、�@は契約の目的、組織への組み入れの状況等、�Aは一方的な労働条件の決定、定型的な契約様式の使用等、�Bは報酬の労務対価性、報酬の性格等、�Cは不利益取り扱いの可能性、業務の依頼拒否の可能性等、�Dは労務供給の態様についての詳細な指示、定期的な報告等の要求等、�Eは自己の才覚で利得する機会、業務における損益の負担等を考慮すべき、としています。
この報告書は、業務の参考として労働委員会や都道府県等に広く周知することとされていますので、労働委員会・行政等がこの基準にしたがって実務を運用するであろう点に留意しておく必要があります。
以上のとおり、労務提供の実態に即して労働者性が判断されることから、会社と直接雇用関係がない労務供給者であっても、団体交渉権が認められる場合があります。
※詳しい内容は、厚生労働省の報道発表資料『「労使関係法研究会報告書」について』(http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001juuf.html)をご参照ください。_
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