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『事業承継における事業用資産の円滑な承継』

2008/03/01

(執筆者:弁護士 鈴木基之)
1.はじめに
わが国の中小企業経営者の個人資産のうち、事業用資産が占める割合は約70%に上ります。他方、中小企業においては、経営者の親族が後継者となる場合が極めて多いのが現状です。したがって、中小企業における事業承継では、後継者である親族に対する事業用資産の承継が中心となると考えられます。
2.事業用資産の承継の重要性
中小企業における事業承継に当たっては、安定的な経営を図るため、事業用資産、とりわけ自社株式を後継者に集中させる必要があります。また、事業承継においては、キャッシュフローへの影響、会社の信用維持等の見地から、迅速性・円滑性が要求されますし、後継者の地位の安定等の見地から、法的安定性も要請されます。
しかしながら、現経営者が生前に対策を講じないまま死亡した場合、事業用資産を含む当該経営者の個人資産は相続財産となりますが、後継者以外に相続人が存在する場合には、事業用資産を後継者に集中させることができなくなるおそれがあります。また、相続人間で相続財産をめぐる紛争が生じた場合、これを解決するまでに相当長期にわたる時間と労力を費やす事態となることは避けられません。
したがって、迅速かつ円滑に事業承継を進めるためには、後継者に事業用資産を円滑に承継させる対策を講じておく必要があります。
3.事業用資産の承継方法
後継者に事業用資産を承継させる方法としては、生前贈与、遺贈、死因贈与等が考えられます。生前贈与とは、現経営者が後継者に対し生前に事業用資産を贈与する方法で、遺贈とは、現経営者が生前に遺言を作成し、これに基づいて後継者に対し事業用資産を承継する方法をいいます。また、死因贈与とは、現経営者が、後継者との間で、自らの死亡によって効力を生ずる贈与契約を締結することにより、事業用資産を承継する方法を指します。
もっとも、民法は遺留分制度(一定の法定相続人に法定相続分の一部を保障する制度)を採用しており、遺留分権利者(被相続人の兄弟姉妹以外の親族)は、自らの遺留分を保全するのに必要な限度で、遺留分の侵害者に対し、遺贈及び贈与の減殺(取戻し)を請求できるとされています(民法1031条)。そして、生前贈与、遺贈、死因贈与のいずれについても、遺留分減殺の対象とされる可能性があることから、後継者への事業用資産の集中が阻害されるおそれがありますし、法的安定性の点でも問題があるといえるでしょう。
4.円滑な承継方法とは
生前贈与、遺贈、死因贈与には、上記のような問題点があることから、現経営者が、後継者に対し、生前に事業用資産を売却する方法を採るのが望ましいと考えられます。
この方法は、当事者(現経営者及び後継者)のみによって早期に実現することができるため、迅速かつ円滑な承継方法であるといえます。また、遺留分制度等による制約を受けないため、後継者への事業用資産の集中を図ることが可能ですし、法的安定性も高いことから、事業用資産の承継方法としてはもっとも優れているといえるでしょう。
ただし、売買という方法を採る以上、後継者が現経営者に対して事業用資産の代金を支払う必要がありますし、譲渡所得税が発生することにも留意する必要があります。また、個人間の売買の場合、事業用資産の代金が時価に比べて著しく低額である場合には、課税上、代金と時価との差額に相当する金額については贈与したものとみなされる可能性があることにも注意する必要があるでしょう。
そこで、売買という方法を採る場合には、売買契約書を作成するなど、なるべく文書化に努め、売買という形式を整えておく必要があります。また、事業用資産の評価が低い場合等には、役員報酬等により、後継者に事業用資産を少しずつ買い取らせるなど、長期的・計画的に売買を進めることも検討しなければならないでしょう。
(以上)

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