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賃金支払いの新たな選択肢!デジタル払いの解禁

2023/05/10

(執筆者:弁護士 村田大樹)

【Q.】
 令和5年4月1日から、賃金のデジタル払いが解禁されると聞きました。賃金のデジタル払いというのはどのような制度で、導入するとしたら企業はどのような対応が必要になるのか、教えてください。
【A.】
1.はじめに
 賃金は、通貨での支払いが原則ですが、これまでも一定の要件を満たす限りで、銀行その他の金融機関の預貯金口座への振り込み及び証券会社の証券総合口座への払い込みにより支払うことができるとされていました。
 近年、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、このようなサービスを給与の受け取りに活用するニーズも一定程度見られたことから、令和5年4月1日施行の改正労働基準法施行規則により、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(以下「指定資金移動業者」)の口座への資金移動による賃金の支払い(以下「デジタル払い」)が可能となりました。
 そこで本稿では、賃金の支払いに関するルールを踏まえ、今回のデジタル払いの導入における留意点について解説いたします。

2.賃金の支払いに関するルール
 賃金の支払いに関しては、直接払いの原則、全額払いの原則のほか、賃金は通貨(外国通貨は含まれない)で支払わなければならないという通貨払いの原則があります。そして、通貨払いの原則の例外として、労働者から同意を得た場合には、労働者が指定する銀行その他の金融機関の本人名義の預貯金口座に振り込むことなどが可能とされています。なお、給与を振り込む預貯金口座等については、労働者が指定したものに限られ、企業が指定することはできませんので注意が必要です。

3.デジタル払いの解禁
 今回の改正では、通貨払いの原則の例外として、預貯金口座等への振り込みに加えて、労働者が指定する指定資金移動業者の口座への資金移動による支払いが認められました。資金移動業者とは、いわゆる「○○ペイ」などキャッシュレス決済サービスを提供する業者等のことをいい、資金移動業者が令和5年4月1日以降の申請により厚生労働大臣から指定を受ければ、企業は後記4の要件を具備したうえで当該指定資金移動業者の口座に賃金を支払うことができます。なお、デジタル払いを導入したとしても、現金化できないポイントや仮想通貨での賃金の支払いは認められていません。
 デジタル払いは、あくまで賃金の支払い・受け取り方法の選択肢の一つであり、必ず導入しなければならないものではありませんし、導入するとしても、全ての労働者の現在の賃金支払い・受け取り方法の変更が必須となるわけではなく、労働者が希望しない場合には、従来どおりの方法によって賃金を支払わなければなりません。また、賃金の一部のみ指定資金移動業者の口座への振り込みとし、そのほかを従来どおりの方法とすることも可能です。
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4.デジタル払い導入のための要件
 デジタル払いを導入するためには、事業場に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合と、ない場合は労働者の過半数を代表する者と、デジタル払いの対象となる労働者の範囲、賃金の範囲及びその金額、取り扱う指定資金移動業者の範囲等を取り決めた労使協定を締結する必要があります。
 これに加えて、企業は、企業自身あるいは委託した指定資金移動業者からデジタル払いに必要な事項(指定資金移動業者の資金目的、指定資金移動業者が破綻した場合の保証、資金が不正に出金等された場合の補償等)を説明したうえで、個々の労働者から書面等により同意を取得しなければなりません。これにより企業は、当該同意書に記載された支払開始希望時期以降、労働者が指定した口座に賃金を支払うことができます。
 なお、デジタル払いの場合は、所定の賃金支払い日の午前10時頃までに為替取引としての利用が行い得る状態になっていること、及び、所定の賃金支払い日のうちに賃金の全額が払い出し得る状態になっていることが必要です。
 詳しくは、厚生労働省ホームページの「資金移動業者の口座への賃金支払に関する資金移動業者向けガイドライン(令和5年3月8日公表版)」(※)をご確認ください。
※https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001069053.pdf
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5.導入企業における留意点
 企業は、デジタル払い以外の選択肢も提示したうえで労働者から同意を得る必要がありますので、同意書には、デジタル払い以外の選択肢も提示した旨の記載をしておく必要があります。同意書については、厚生労働省のホームページに雛型が備えられていますので、それを利用するのがいいでしょう。
 また、デジタル払いができるのは、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者に限られますので、労働者から指定を受けた資金移動業者が指定資金移動業者であるかどうかを確認する必要があります。指定資金移動業者については、厚生労働省のホームページ上に掲載されますので、導入時に確認しておく必要があります。
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6.さいごに
 今後、キャッシュレス決済サービスはますます普及すると予想され、いずれはデジタル払いを導入する必要が出てくると思われますので、今回の改正を機に早めに導入しておくのも一つです。導入にあたって不明点等がありましたら、必要に応じて専門家に相談することをご検討ください。

以 上

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