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従業員から副業・兼業の許可申請をされたら

2022/09/08

(執筆者:弁護士 石井千晶)
【Q.】
 当社では副業・兼業を許可制とする就業規則を置いていますが、このたび、初めて従業員から副業・兼業を許可するよう申請がありました。どういった点に留意すればよいでしょうか。
【A.】
1.はじめに
 新型コロナウイルス感染症が流行した影響によって、在宅勤務を行う労働者や一時的に給与が減った労働者が増えました。これにより、今まで通勤にかかっていた時間を有効活用したい、減った分の収入を補填したいなどの理由から、副業・兼業を希望する労働者が増加しています。また、厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(平成30年1月策定)が本年7月に、企業の副業・兼業の取り組みを公表するよう改訂されるなど、政府としても副業・兼業を促進する動きが高まっています。本稿では、ガイドラインに基づき、従業員から副業・兼業の許可等を求められた場合の留意点についてご説明いたします。

2.基本的な考え方
 ガイドラインにおいて、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であることから、副業・兼業を許可制等にしている企業は、許可等の際に、副業・兼業が、�@労務提供上の支障がある場合、�A業務上の秘密が漏洩する場合、�B競業により自社の利益が害される場合、�C自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合に該当するかを精査した上で、そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められています。
 また、副業・兼業の許可等をする場合には、事前に、就業規則や労働契約等において、上記�@〜�Cの事情が生じた場合には、副業・兼業を禁止または制限することができると定めておくことが考えられます。

3.労働時間管理
 労働基準法第38条第1項では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定されており、「事業場を異にする場合」には事業主を異にする場合を含むとされています。したがって、従業員から副業・兼業の許可等を求められた場合、労働時間管理にも留意する必要があります。
(1)通算して適用される規定
 法定労働時間(同法第32条または第40条)の適用において、自らの事業場における労働時間及びほかの使用者の事業場における労働時間が通算されます。
 また、時間外労働の上限規制(単月100時間未満、複数月平均80時間以内、同法第36条第6項第2号及び第3号)については、労働者個人の実労働時間に着目して当該個人を使用する使用者を規制するものであり、労働時間が通算されます。
 なお、ガイドラインでは、労働時間を通算して法定労働時間を超える場合には、長時間の時間外労働とならないようにすることが望ましいとされています。
(2)割増賃金
 労働時間を通算した結果、同法第32条または第40条に定める法定労働時間を超えて労働させる場合には、使用者は割増賃金を支払わなければなりません(同法第37 条第1項)。このとき、割増賃金の支払い義務を負うのは、当該労働者を使用することにより、法定労働時間を超えて当該労働者を労働させるに至った使用者です。したがって、通算により法定労働時間を超えることとなる所定労働時間を定めた労働契約を時間的に後から締結した使用者が、契約の締結に当たって、当該労働者がほかの事業場で労働していることを確認した上で契約を締結すべきことから、割増賃金の支払い義務を負うこととなります。通算した所定労働時間が既に法定労働時間に達していることを知りながら労働時間を延長するときは、先に契約を結んでいた使用者も含め、延長させた各使用者が割増賃金の支払い義務を負うこととなります。

4.事業者の対応
 以上より、まずは副業・兼業の内容として、ほかの使用者の事業場の事業内容、労働者が従事する業務内容、労働時間通算の対象となるか否かの確認を行います。
 労働時間通算の対象となる場合には、併せてほかの使用者との労働契約の締結日、期間、所定労働時間、所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数、実労働時間等の報告の手続き、これらの事項について確認を行う頻度等、各々の使用者と労働者との間で合意しておくことが望ましいとされています。
 また、副業・兼業に関しては、健康管理への対応、社会保険の給付等様々な問題がありますので、場合に応じて専門家に相談することをご検討ください。

以 上

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