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リモートワークで注目。知っておきたい電子契約

2020/09/24

(執筆者:弁護士 平山 照)
【Q.】
 取引先との間で取引基本契約を締結するにあたって、取引先から電子契約による契約締結手続きを求められました。代表者印で押印した紙の契約書を作らなくても、法的に問題はないのでしょうか。
【A.】

1.はじめに
 新型コロナウイルス感染症拡大の影響によりテレワークの導入が進む中、オフィスでの押印手続きを省略するために電子契約で契約締結を行うという場面が増えているようです。そこで今回は、電子契約による契約締結についてご説明いたします。
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2.電子契約とは
 一括りに電子契約と言っても、その方式は様々です。現在、普及しつつある電子契約サービスでは、契約当事者が合意した内容の契約書データをクラウド上にアップロードし、サービス提供事業者がメールアドレス等による本人確認を行った上で、契約書データに「電子署名」を付して契約の成立を確認するという方式が用いられることが典型です。「電子署名」とは、公開鍵暗号方式によって電子データを暗号化し、改ざんの有無を検証できるようにする方法です。典型的な電子契約サービスでは、契約当事者本人ではなくサービス提供事業者が電子署名を行うため、このような電子契約は「事業者署名型」などと呼ばれます。
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3.契約書に押印することの法的意義
 契約を締結する上では、当事者双方が押印した紙の契約書が必要なわけではなく、メールや電話でのやり取りであっても、意思の合致があれば契約は成立します(ただし、法律上、書面での契約が求められる契約類型があります)。契約書に押印することの法的意義としては、民事訴訟法上、文書に本人の印章(判子)による印影があれば、その文書は本人の意思に基づいて作成されたと推定されるということが挙げられます。

4.電子契約が本人により締結されたことの証明手段
 これに対して、電子契約では、契約の相手方が「その電子契約は自分が締結したものではない」などとして契約の成立を争う事態となった場合に、本人が締結したものであることをどのように証明するかが問題になります。
_ この点に関して、電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)第3条では、一定の要件を満たした「本人による」電子署名がある場合には、紙の契約書に本人の押印がある場合と同様に、本人の意思によって電子文書が作成されたと推定される旨が規定されています。前述の「事業者署名型」の電子契約サービスでは、契約当事者本人ではなく、サービス提供事業者が電子署名を行うので、「本人による」電子署名がないため、同法第3条の推定効が及ばないとする見解が多く、この点は電子契約の利用が躊躇される原因の一つになっていました。
 しかし、令和2年7月17日に総務省・法務省・経済産業省により公表された「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」では、「技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合」であれば、本人による電子署名と評価し得るとされており、「事業者署名型」であっても前述の推定効が及ぶ可能性が示されました。
 また、電子契約サービス提供事業者による本人確認以外にも、電子契約の締結に際して当事者間で行われたメールのやり取り等も、本人により契約が締結されたことの証明手段となり得ます。
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5.電子契約の改ざんリスク
 一般に、電子契約のデータは、紙の契約書に比べて改ざんが容易であるとされていますが、前述の電子署名が行われていれば、これによって改ざんの有無を検証できることになります。ただし、電子署名には有効期間がありますので、長期間にわたって自動更新等で継続することが想定される契約については、電子署名の有効期間を延長させるための対応を検討する必要があります。
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6.まとめ
 今後、電子契約の利用は、さらに拡大することが予想されます。取引先から電子契約での契約締結を求められた場合や、自社で電子契約を導入する場合には、紙の契約書との違いを理解した上で、万が一の紛争に備えて、契約の締結手続きやデータの保存方法等を検討しておく必要があるでしょう。

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