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出張における労務管理の注意点

2020/02/14

(執筆者:弁護士 深津雅央)
【Q.】
 出張した従業員が所定労働時間内に取引先との打ち合わせを終えましたが、出張先が遠方であったため、戻りの新幹線の移動中に所定労働時間外となりました。こうした移動時間については、残業代を支払わなくてもよいのでしょうか。
 また、出張が多い営業職等には「事業場外労働のみなし制」という制度があると聞きました。この制度はどのような場合に適用できるのでしょうか。
【A.】

1.移動時間の賃金支払義務
 移動時間に賃金の支払義務が生じるか否かは具体的な事案によりますが、特定の用務を行わない移動時間については賃金の支払義務を負わないとする考え方が一般的です。しかし、出張の事前準備や事後報告の作成等に移動時間を費やしている場合などは賃金の支払義務が生じ、それが所定労働時間外であれば時間外手当の支払義務を負うと考えられます。以下に詳しく説明します。

<労働時間とは>
 賃金や休憩等の支給・付与にあたっての基礎となる「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」とされており、実務上は、具体的な指揮命令がない場合であっても、職務遂行またはこれと同視し得る状況の存在、使用者の明示または黙示の指示の有無、といった観点から判断されます。

<過去の裁判例や通達>
 過去には、出張の全過程における時間のうち、実際に得意先で商談に要した時間が労働時間であり、得意先への往復に要した時間は日常の出勤に費やす時間と同一の性質であるとして「労働時間ではない」とした裁判例があります。また、移動時間中に物品の監視等の特定の用務を使用者から命じられている場合のほかは労働時間ではないとの解釈を示す通達も存在します。
 したがって、一般的には、特定の用務を行わない移動時間については賃金の支払義務を負わない、と考えられます。

<移動時間が労働時間に該当する場合>
 一方で、移動時間は、その従事する職務に当然付随する職務として労働時間であるとした裁判例もあります。また、上記で挙げた裁判例はいずれも昭和や平成初期のものであり、パソコン、スマートフォン等のモバイル端末での仕事が当たり前となった現代においては、移動中であっても絶えずメールチェックや資料作成に追われている、といった状況も少なくありません。このように、使用者から義務づけられ、または事実上業務遂行を余儀なくされている場合には、その時間も労働時間に該当し、賃金の支払義務を負うものと考えられます。

_2.事業場外労働のみなし制
 「事業場外労働のみなし制」とは、労働者が事業場外で業務に従事し、かつ、労働時間を算定し難い場合に、所定労働時間等一定の時間労働したものとみなすことができる制度です。
 しかし、「労働時間を算定し難い場合」との要件は厳格であり、業務遂行に関する従業員の裁量、会社の指示や管理・報告の有無といった使用者側の管理等の程度によって、適用の可否が異なります。そのため、制度の導入にあたっては慎重な検討が必要です。以下に詳しく説明します。

<制度の要件>
 この制度は、単に事業場外で業務に従事したことのみならず、「労働時間を算定し難い場合」にのみ適用されるものです。したがって、�@事業場外労働に管理職が同行している場合、�A携帯電話等で随時使用者の指示を受けて指示通りに業務に従事し帰社する場合、�B訪問先・帰社時刻等の具体的指示を受けて指示通りに業務に従事し帰社する場合、等、事業場外労働であっても使用者の具体的指揮監督が及んでいると認められる場合には労働時間の算定が可能であり、この制度の適用は認められないとされています。
 そして、かかる要件該当性の有無は客観的に定められるものであり、労働者との合意(例えば労使協定の締結等)により適用が可能となるものではありません。

<裁判で争われたケース>
 過去の裁判例として、単独で直行直帰する出張業務について、出張先では労働者自身の判断で業務遂行し、業務内容を具体的に報告させているわけでもない等の事情から、本制度の適用が認められたものがあります。一方で、営業本部長の外回り営業について、訪問先や帰社予定時刻等を報告し、営業活動中も携帯電話等で状況を報告していたこと等から労働時間を算定し難いとはいえないとされたもの、旅行ツアーの添乗員について、ツアーの行程により業務内容が具体的に指示され、日報により業務遂行の状況を詳細に報告することが求められていたこと等から労働時間を算定し難いとはいえないとされたものがあります。
 事業場外労働のみなし制は、従業員の労働時間を一律のものとみなすことができるという管理上のメリットがありますが、その適用の可否は難しく、制度設計や運用を誤れば、思わぬ紛争や割増賃金等の支払義務を負うことになりかねません。専門家にご相談のうえ、適格な制度設計・運用を意識する必要があります。

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