執筆者:渡邉 雅之
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弁護士 渡邉 雅之
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【改正会社法ニュース】
改正会社法ニュース(第1回)株主総会資料の電子提供制度
改正会社法ニュース(第2回)株主提案権の濫用防止
2019年(令和元年)10月18日、「会社法の一部を改正する法律案」[1](以下「改正会社法」又は「改正法」という。)及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」[2](以下「整備法」という。)が閣議決定され、同日、政府提出法案として第200回臨時国会に提出された。
今回の改正は、「株主総会に関する規律の見直し」として、「株主総会資料の電子提供制度の導入」、「株主提案権の濫用防止」、「取締役等に関する規律の見直し」として、「取締役等への適切なインセンティブの付与」、「社外取締役の活用等」のほか、「株式交付」制度の導入など多岐に及ぶ。
第1回目では、「株主総会資料の電子提供制度」の導入について解説する。
なお、本法案の改正を検討した法務省の法制審議会の会社法制(企業統治等関係)部会[3]の資料のことを「部会資料」、同部会の「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」[4]のことを「補足説明」という。
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第1 株主総会資料の電子提供制度
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〇補足説明2頁
本改正は,株主総会参考書類,計算書類及び事業報告など,取締役が株主総会の招集の通知に際して株主に対して提供しなければならない資料(以下「株主総会資料」という。)について,インターネットを利用する方法による提供を促進するため,新たな制度を設けるものである。
現行法上,株主総会資料の提供は,書面によることが原則とされており,インターネットを利用する方法によるためには,株主の個別の承諾を得ることを要することとされている(会社法第299条第2項,第3項,第301条第1項,第2項,第302条第1項,第2項,第437条,会社法施行規則第133条第2項,会社計算規則第133条第2項等)。
また,みなし提供制度も,実質的にはインターネットを利用する方法による提供のための制度であるが,類型的に株主の関心が特に高いと考えられる事項や,実際の株主総会において口頭で説明されることが多いと考えられる事項等については,この制度を利用することができないこととされている(会社法施行規則第94条第1項,第133条第3項,会社計算規則第133条第4項等)。
株主総会資料をインターネットを利用する方法によって提供することができるようになれば,株式会社は,印刷や郵送のために生ずる費用を削減することができるようになり,印刷や郵送が不要となることに伴い,株主に対し,従来よりも早期に充実した内容の株主総会資料を提供することができるようになることなども期待することができると指摘されている。取り分け,部会においては,株主総会資料の提供と株主総会の日の間隔が短く,株主が株主総会資料の内容を十分に検討する期間が確保されていないという問題が現在の実務には存在し,このような問題の改善のためにも,株主総会資料の提供においてインターネットを活用すべきであるという指摘がされている。
そこで,本改正においては,インターネットを利用する方法による株主総会資料の提供を促進するため,取締役が,株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し,株主に対して当該ウェブサイトのアドレス等を書面により通知した場合には,株主の個別の承諾を得ていないときであっても,取締役は,株主に対して株主総会資料を適法に提供したものとする制度(以下「電子提供制度」という。)を新たに設けることとされている。
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1 電子提供措置をとる旨の定款の定め(改正第325条の2)
(1)電子提供措置をとる旨の定款の定め
株式会社は,取締役(取締役会設置会社の場合は取締役会)が株主総会(種類株主総会を含む。)を招集するときは,次に掲げる資料(以下「株主総会参考書類等」という。)の内容である情報について,電子提供措置(電磁的方法により株主(種類株主総会を招集する場合には,ある種類の株主に限る。)が情報の提供を受けることができる状態に置く措置であって,法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)をとる旨を定款で定めることができる。この場合において,その定款には,電子提供措置をとる旨を定めれば足りる。(改正第325条の2)
ア 株主総会参考書類
イ 議決権行使書面
ウ 第437条の計算書類及び事業報告
エ 第444条第6項の連結計算書類
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(2)振替株式を発行する会社の特則
社債,株式等の振替に関する法律(以下「振替法」という。)第128条第1項に規定する振替株式(以下単に「振替株式」という。)を発行する会社は,電子提供措置をとる旨を定款で定めなければならない。(振替法159条の2第1項)
改正法の施行の際現に振替株式を発行している会社は,当該改正法の第3号施行の日において,同日をその定款の変更が効力を生ずる日とする電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける定款の変更の決議をしたものとみなす(整備法附則10条2項)。
その場合には,定款の変更の決議をしたものとみなされた会社は,第三号施行日(会社法改正法附則第1条ただし書に規定する規定の施行の日:改正会社法の公布の日から起算して3年6月を超えない範囲内において政令で定める日)から6箇月以内に,その本店の所在地において,「電子提供措置をとる旨の定款の定めの登記」(改正第911条第3項第12号の2)に掲げる事項の登記をしなければならない(整備法附則10条4項)。
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(3)登記
_ 電子提供措置をとる旨の定款の定めがあるときは,その定めを登記しなければならない(改正第911条第3項第12号の2)。
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【趣旨】(補足説明第一部・第1.2(1)(4頁))
1 電子提供措置をとる旨の定款の定めを要する理由
改正法では,書面交付請求について,株主総会において議決権を行使することができる者を定めるために基準日を定めたときは,株式会社は,基準日株主であって当該基準日までに書面交付請求をしたものに対してのみ電子提供措置事項を記載した書面を交付すれば足りるものとしており(改正第325条の5第2項,下記4(3)),書面の交付を希望する株主は,株主総会の招集の通知を受領する前に,書面交付請求をする必要があることが想定されている。
そのため,基準日よりも前に,当該株式会社が電子提供制度を利用するかどうかについてあらかじめ明らかとなるようにする必要があると考えられる。また,現行法上,公告方法として電子公告を選択するためには,定款の定めを要することとされていること(会社法第939条第1項第3号)との均衡も考慮し,本条においては,株主の利益を保護し,将来株主となる者を拘束するため,電子提供制度を利用するには,定款の定めを要するものとしている。
そして,電子提供措置の具体的な方法については,現行法における電子公告を参考とすることが想定されている。したがって,電子提供措置は,株主が,ウェブサイトに掲載された情報の内容を閲覧することや,当該情報の内容を印刷すること,当該情報を自己の使用するパソコン等に保存することができるものでなければならないことを想定している(会社法施行規則第223条,第222条第1項第1号ロ,第2項参照)。
ただし,電子公告においては,不特定多数の者が情報の提供を受けることができる状態に置くことが求められるが,電子提供措置は,株主が情報の提供を受けることができる状態に置けば足りる。そのため,電子提供措置においては,電子公告と異なり,パスワードを要求するなどして,株主のみが当該情報の提供を受けることができるような状態に置くこともできると考えられる。
2 振替株式を発行する会社の特則
株主にとっての分かりやすさや,インターネットを利用した株主への株主総会資料の提供を促進するなどの観点から,上場会社等の一定の株式会社については,電子提供制度の利用を義務付けるべきであるという指摘がされている。そのような指摘がされていることや,振替株式の株主が書面交付請求をするには振替機関等を経由してしなければならないものとしていること(改正振替法第159条の2第2項,下記4(2))を踏まえ,振替機関は,定款の定めがある株式会社の株式でなければ,取り扱うことができないものとしている。上場会社の株式は振替株式であることが求められていることから,これにより,上場会社は電子提供制度の利用が義務付けられることとなる。
しかし,このように振替株式を発行する株式会社に電子提供制度の利用を義務付けることとする場合には,当該株式会社において定款の定めを設ける定款の変更の決議をすることまでを義務付けることとなると過重な負担を強いることとなり妥当でないと考えられる。そこで,改正法の施行日において振替株式を発行している株式会社は,施行日を効力発生日とする電子提供措置をとる旨の定款の定めを設ける旨の定款の変更の決議をしたものとみなされることになる(整備法附則10条2項)。
なお,部会においては,上場会社に対して電子提供制度の利用を義務付けることにより,上場のメリットを減殺することとなるのではないかと懸念する意見や,電子提供制度の利用を企業の任意に委ねるべきであるという指摘もされている。もっとも,この指摘に対しては,上場会社は,資本市場を利用している以上,株主に対する情報提供を高度化するような取組を積極的にすべきであり,上場会社として電子提供制度を利用することは義務であると考えるべきであるという指摘がされている。
3 非公開株式会社への適用
本改正により,公開会社でない株式会社であっても,電子提供制度を利用することができるものとされているが,主として,類型的に不特定多数の株主がいる公開会社が,電子提供制度を利用することが想定される。改正法では,規律が複雑になることを避けるため,公開会社であるかどうかによって,株主総会の招集通知の発送期限等について異なる規律の適用があるものとはしていない。
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2 電子提供措置(改正第325条の3)
(1)電子提供措置を採らなければならない場合(改正第325条の3第1項)
電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の取締役(取締役会設置会社の場合は取締役会)は,以下に掲げる場合(第299条第2項各号に掲げる場合)には,電子提供措置をとらなければならない(改正第325条の3第1項))。
株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとする場合(第299条第2項第1号,第298条第1項第3号)
株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとする場合(第299条第2項第1号,第298条第1項第4号)
株式会社が取締役会設置会社である場合(第299条第2項第2号)
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【趣旨】(補足説明第一部・第1.2(1)(4頁))
現行法上,会社法第299条第2項各号に掲げる場合以外の場合には,取締役は,株主総会の招集の通知に際して,株主に対し,株主総会参考書類等を交付し,又は提供する必要がなく(同法第301条第1項,第302条第1項,第437条,第444条第6項参照),株主総会の招集の通知も書面ですることを要しない。そのため,この場合には,電子提供措置を採らなければならないものとする必要はないものと考えられる。
他方で,現行法上,会社法第299条第2項各号に掲げる場合においては,株主総会参考書類等の交付又は提供を要するときがあるほか,そのようなとき以外のときであっても,株主総会の招集の通知を書面又は電磁的方法によりしなければならない。当該書面又は電磁的方法に記載し,又は記録すべき事項をも電子提供措置事項とすることが相当であるから,現行法上,株主総会参考書類等の交付又は提供を要しないときであっても,株主総会の招集の通知を書面又は電磁的方法によりしなければならないときは,必ず電子提供措置を採らなければならないものとすることが相当である。
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(2)電子提供措置事項(改正第325条の3第1項各号)
電子提供措置事項として電子提供措置の対象となる事項は以下の事項である(改正第325条の2第1項各号)。
ア 株主総会の招集の通知に記載・記録すべき事項(第298条1項各号に掲げる事項)[5](改正第325条の3第1項1号)
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.2(2)ア参照(4頁))
現行法上,書面又は電磁的方法による株主総会の招集の通知に記載すべき事項は,多岐にわたることがあるから(会社法第299条第4項,第298条第1項各号,会社法施行規則第63条),これらの事項についても株主総会参考資料と同様に電子提供措置事項を採らなければならないものとすることが相当であると考えられる。そこで,現行法上,株主総会の招集の通知に記載・記録すべき事項である会社法第298条第1項各号に掲げる事項(同法第299条第4項)を電子提供措置事項としている。
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イ 取締役会において,株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときには,株主総会参考書類及び議決権行使書面に記載すべき事項(同項第2号)
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.2(2)イ参照(4頁〜5頁))
株主総会の招集の決定において,株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることを定めた場合(会社法第298条第1項第3号)には,現行法上,株主総会の招集の通知に際して,株主に対し,株主総会参考書類及び議決権行使書面を交付しなければならない(同法第301条第1項)。そこで,本号においては,この場合に,これらに記載すべき事項を電子提供措置事項としている。
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ウ 取締役会において,株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは,株主総会参考書類に記載すべき事項(同項第3号)
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.2(2)ウ参照(5頁))
株主総会の招集の決定において,株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることを定めた場合(会社法第298条第1項第4号)には,現行法上,株主総会の招集の通知に際して,株主に対し,株主総会参考書類を交付しなければならない(同法第302条第1項)。
そこで,本号においては,この場合に,これに記載すべき事項を電子提供措置事項としている。
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エ 株主が,株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を通知することを請求した場合には,当該議案の要領(同項第4号)
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.2(2)エ参照(5頁))
株主が議案要領通知請求権(会社法第305条)を行使した場合において,取締役が株主総会の招集の通知を書面により発するときは,現行法上,当該株主が提案しようとする議案の要領を当該通知に記載することとされている(同条第1項)。そこで,本号においては,現行法上,株主総会の招集の通知に記載し,又は記録すべき事項(上記ア(第298条1項各号に掲げる事項))と同様に,当該議案の要領を電子提供措置事項としている。
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オ 株式会社が取締役会設置会社である場合において,取締役が定時株主総会を招集するときは,計算書類及び事業報告(会社法第437条)に記載・記録された事項(改正第325条の3第1項項第5号)
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.2(2)オ参照(5頁))
株式会社が取締役会設置会社である場合において,取締役が定時株主総会の招集の通知を発するときは,現行法上,株主総会の招集の通知に際して,株主に対し,計算書類及び事業報告(会社法第436条第1項又は第2項の規定の適用がある場合にあっては,監査報告又は会計監査報告を含む。)を提供しなければならない(同法第437条)。そこで,本号においては,株式会社が取締役会設置会社である場合において,取締役が定時株主総会の招集の通知を発するときは,当該計算書類及び事業報告に記載され,又は記録された事項を電子提供措置事項としている。
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カ 株式会社が会計監査人設置会社(取締役会設置会社に限る。)である場合において,取締役が定時株主総会を招集するときは,連結計算書類(会社法第444条第6項)に記載され,又は記録された事項(改正第325条の3第1項第6号)
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.2(2)カ参照(5頁))
株式会社が会計監査人設置会社(取締役会設置会社に限る。)である場合において,取締役が定時株主総会の招集の通知を発するときは,現行法上,株主総会の招集の通知に際して,株主に対し,連結計算書類を提供しなければならない(会社法第444条第6項)。そこで,本号においては,株式会社が会計監査人設置会社(取締役会設置会社に限る。)である場合において,取締役が定時株主総会の招集の通知を発するときは,連結計算書類に記載され,又は記録された事項を電子提供措置事項としている。
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キ アからカまでに掲げる事項を修正したときは,その旨及び修正前の事項(改正第325条の3第1項第7号)
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.2(2)キ参照(5頁〜6頁))
現行法上,株主総会参考書類,事業報告,計算書類及び連結計算書類については,株主総会の招集の通知を発した日から株主総会の日の前日までの間に修正をすべき事情が生じた場合における修正後の事項を株主に周知させる方法を,株主総会の招集の通知と併せて通知することができる旨の規定がある(会社法施行規則第65条第3項,第133条第6項,会社計算規則第133条第7項,第134条第7項)。実務上は,この規定に基づき,ウェブサイトに掲載する方法を株主に周知させる方法として選択し,株主総会の招集の通知と併せて通知している例が多いという指摘がされている。
このような実務があることを踏まえ,改正第325条の3第1項第7号において,同項第1号から第6号までの事項に修正をすべき事情が生じた場合には,その旨と当該修正事項を電子提供措置事項としている。なお,会社法第298条第1項各号に掲げる事項(株主総会の招集の通知に記載・記録すべき事項(改正第325条の3第1項1号)),監査報告及び会計監査報告(株式会社が取締役会設置会社である場合において,取締役が定時株主総会を招集するときは,計算書類及び事業報告に記載・記録された事項(改正第325条の3第1項5号・上記オ)の一部)については,現行法上,このような規定はないが,これらについても,軽微な誤記があった場合等であれば,ウェブサイトに掲載する方法による修正をすることが認められてよいとも考えられる。そこで,本号では,これらについても,修正の対象とすることができるものとしている。
ただし,現行法上,会社法施行規則第65条第3項等の規定に基づき,修正後の事項を株主に周知させる方法を通知していたとしても,当該方法による修正は無制限にすることができるものではなく,このような修正をすることができるかどうかは,修正を要する事項や修正の内容の重要性等により判断されるものと解されている。改正第325条の3第1項第7号(本キ)の事項について電子提供措置を採ることによる修正をすることができるかどうかは,現行法における修正と同様に,修正を要する事項や修正の内容の重要性等により判断されるべきであると考えられる。
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(3)電子提供措置期間(改正第325条の3第1項)
電子提供措置は,株主総会の日の3週間前の日又は株主総会の招集通知を発した日のいずれか早い日(以下「電子提供措置開始日」という。)から株主総会の日後3か月を経過する日までの間(以下「電子提供措置期間」という。),電子提供措置事項(上記(2))に係る情報について継続して電子提供措置をとらなければならない(改正第325条の3第1項)。
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.2(3)参照(6頁〜7頁)、部会資料19・第1・4(1)(6頁))
ア 株主総会日以前の期間と以後の期間の趣旨
電子提供措置期間のうち,株主総会の日以前の期間については株主総会の招集の手続として電子提供措置が求められているが,株主総会の日後の期間については株主総会の決議の取消しの訴えなどにおける証拠等としての使用に供するために求められているものと考えられる。
イ 電子提供措置期間の末日
電子提供措置期間の末日を株主総会の日以後3か月を経過する日としている理由は,株主総会資料が株主総会の決議の取消しの訴えに係る訴訟において証拠等として使用される可能性があり,株主総会資料は,少なくとも,当該訴えの出訴期間(会社法第831条第1項柱書き)が経過する日までは,ウェブサイトに掲載されている必要があるものとすることが相当であると考えられるからである。
ウ 電子提供措置期間開始日
電子提供措置期間の初日である電子提供措置開始日については,中間試案の段階では,「株主総会の日の4週間前の日又は株主総会の招集の通知を発した日のいずれか早い日」とするA案と,「株主総会の日の3週間前の日又は株主総会の招集の通知を発した日のいずれか早い日」とするB案が両論併記されていた。
これは,電子提供制度を利用し,株主総会参考書類等の交付又は提供に代えて,電子提供措置を採れば足りるものとすれば,株式会社は株主総会参考書類等の印刷や郵送をする必要がなくなることから,電子提供制度においては,電子提供措置開始日及び株主総会の招集の通知の発送期限を,現行法の公開会社における株主総会の招集の通知の発送期限である株主総会の2週間前よりも前倒しすべきであるという指摘がされていることを踏まえたものである。
改正第325条の3第1項では,企業実務に配慮して,株主総会の招集通知の発送期限の1週間前倒しとするB案が採用された。
電子提供措置開始日は,遅くとも,実際に取締役が株主総会の招集の通知を発した日には,電子提供措置を開始しなければならない。これは,株主が株主総会の招集の通知を受領した後は直ちに当該ウェブサイトに掲載されている株主総会資料の閲覧等をすることができるようにしておくことが,株主にとっての分かりやすさの観点からは必要であると考えられるからである。
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(4)議決権行使書面を交付する場合の特例(改正第325条の3第2項)
取締役(取締役会設置会社の場合は取締役会)が株主総会の招集通知(会社法第299条第1項)に際して株主に対し議決権行使書面を交付するときは,議決権行使書面に記載すべき事項に係る情報については,電子提供措置をとることを要しない。
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.2(2)イ参照(4頁〜5頁))
議決権行使書面については,株主の氏名又は名称及び行使することができる議決権の数が議決権行使書面の記載事項とされており(会社法施行規則第66条第1項第5号),仮に,現行法上の議決権行使書面の記載事項を全て電子提供措置事項とするものとする場合には,株式会社は,株主の氏名又は名称及び行使することができる議決権の数を含めた議決権行使書面の記載事項を全ての株主について個別にウェブサイトに掲載しなければならないこととなる。
そこで,会社法第299条第1項の通知に際して,株主に対し,議決権行使書面を交付する場合には,議決権行使書面に記載すべき事項に係る情報については電子提供措置を採ることを要しない(改正第325条の3第2項)。なお,例えば,議決権行使書面を交付する場合であっても,これと併せて,株式会社がパスワードを要求するなど,システム上の工夫をするなどした上で,議決権行使書面に記載すべき事項に係る情報についても省略せずに電子提供措置を採ることはできると考えられる。
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(5)有価証券報告書の提出をEDINETを提出して行う場合の特例(改正第325条の3第3項)
金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社が,電子提供措置開始日までに上記2(1)アからキまでの事項(定時株主総会に係るものに限り,議決権行使書面に記載すべき事項を除く。)を記載した有価証券報告書(添付書類及びこれらの訂正報告書を含む。)の提出の手続を同法第27条の30の2に規定する開示用電子情報処理組織(以下「開示用電子情報処理組織」という。)を使用して行う場合には,当該事項に係る情報については,電子提供措置をとることを要しない。
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(趣旨)(部会資料26(会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案(仮案))・第1.2補足説明参照(2頁〜3頁))
事業報告及び計算書類と有価証券報告書を一体的に開示する取組や,株主総会の前に有価証券報告書を開示する取組を促進する観点から,法令上EDINETを使用して提出された有価証券報告書がインターネットを通じて公衆の縦覧に供されるものとされることを前提として,定時株主総会に係る事項が記載された有価証券報告書の提出の手続をEDINETを使用して行う場合には,当該事項については電子提供措置をとることを要しないものとする特例を定めるものである。
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3 株主総会の招集の通知等の特則
(1)株主総会の招集通知の発送期限(改正第325条の4第1項)
上記2の電子提供措置をとる場合における株主総会の招集通知の発送期限(会社法第299条第1項)については,公開会社でない株式会社であっても,一律例外なく「2週間」とされる。
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〇参考
(株主総会の招集の通知)
第299条 株主総会を招集するには,取締役は,株主総会の日の2週間(前条第1項第3号又は第4号に掲げる事項を定めたときを除き,公開会社でない株式会社にあっては,1週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において,これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては,その期間))前までに,株主に対してその通知を発しなければならない。
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.3(1)参照(7頁〜8頁))
電子提供措置を採らなければならない場合における株主総会の招集の通知の発送期限については,中間試案においては,「株主総会の日の4週間前まで」とするA案,「株主総会の日の3週間前まで」とするB案及び「株主総会の日の2週間前まで」とするC案(改正法案と同じ。)が掲げられていた。C案は現行法上の公開会社と同様の期限とする案である(会社法第299条第1項参照)。
A案・B案は,株主総会資料がウェブサイトに掲載されたことを株主に認識させるという株主総会の招集の通知の意義を重視し,電子提供措置開始日(上記2(3))と株主総会の招集の通知の発送日とは同一の日とすべきであるという考え方に基づくものである。
他方で,株主総会の招集の通知を受領する前であっても,株主は,自らウェブサイトを確認するなどの方法により株主総会資料がウェブサイトに掲載されたことを知ることができることや,株主総会の招集の通知のみであっても,その印刷及び郵送のためには一定程度時間を要することを踏まえ,電子提供措置開始日と株主総会の招集の通知の発送日とは同一の日とする必要はないという考え方もあり得る。この考え方を採った上で,さらに,株主総会の招集の通知の発送と書面交付請求をした株主に対する電子提供措置事項を記載した書面の交付(改正第325条の5第2項、下記4(3))とを同時にすることができることを確実にしておくべきであると考える場合には,株主総会の招集の通知の発送期限について,当該書面の交付期限と合わせてC案とすることが考えられる。
なお,A案及びB案に対しては,電子提供措置開始日(上記2(3))と同様に,株主総会の招集の通知の発送期限についても,上場会社に電子提供制度の利用を義務付けるとなると,準備が間に合わず期限内に発送することができない上場会社が出てくるのではないかと懸念する意見が企業実務家から出されていた。
このような実務上の声を重視し,電子提供措置をとる場合における株主総会の招集通知の発送期限(会社法第299条第1項)については,公開会社でない株式会社も含めて,一律例外なく「2週間」とされることになる。
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(2)電子提供措置をとる場合の株主総会の招集通知の記載・記録事項の特則(改正第325条の4第2項)
電子提供措置をとる場合には,(書面による場合(第299条第2項)・電磁的方法による場合(第299条第3項)のいずれの場合も)株主総会の招集通知には,第298条第1項第5号に掲げる事項(前各号に掲げるもののほか,法務省令で定める事項)に掲げる事項を記載・記録することを要しない。
ただし,当該株主総会の招集通知には,第299条第1項第1号から第4号までに掲げる事項に加えて,以下に掲げる事項を記載・記録しなければならない。
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ア 電子提供措置をとっているときは,その旨(改正第325条の4第2項第1号)
イ 電子提供措置の手続を開示用電子情報処理組織を使用して行ったときは,その旨(同項第2号)
ウ ア及びイに掲げるもののほか,法務省令で定める事項(同項第3号)
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〇参考
(株主総会の招集の決定)
第298条 取締役(前条第4項の規定により株主が株主総会を招集する場合にあっては,当該株主。次項本文及び次条から第302条までにおいて同じ。)は,株主総会を招集する場合には,次に掲げる事項を定めなければならない。
一 株主総会の日時及び場所
二 株主総会の目的である事項があるときは,当該事項
三 株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは,その旨
四 株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは,その旨
五 前各号に掲げるもののほか,法務省令で定める事項
2〜4(略)
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.3(2)参照(8頁))
電子提供措置を採る場合においては,株主総会の招集の通知に記載しなければならない事項が多くなると,結局,招集の通知の印刷や郵送に要する費用が過大となるおそれがある。そこで,改正第325条の4第2項においては,この場合における株主総会の招集の通知に記載し,又は記録しなければならない事項を,株主がウェブサイトにアクセスすることを促すために重要であると考えられる事項に限定するものとしている。もっとも,現行法上,株主総会の招集の通知に記載し,又は記録すべき事項については,電子提供措置事項とされることとなる(第299条第1項第1号から第4号まで)。
なお,現行法上,書面又は電磁的方法による株主総会の招集の通知に記載し,又は記録しなければならない事項は,議決権行使書面又は株主総会参考書類に記載していれば株主総会の招集の通知に記載し,又は記録する必要がないこととされている(会社法施行規則第66条第3項,第73条第4項)。しかし,電子提供措置を採る場合においては,議決権行使書面又は株主総会参考書類は当然に株主に対して書面又は電磁的方法により提供されるものではない。そのため,書面又は電磁的方法による株主総会の招集の通知に記載し,又は記録しなければならない事項は省略することができない。
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(3)株主総会参考書類の不交付・不提供の特則(改正第325条の4第3項)
電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社においては,取締役(取締役会設置会社にあっては取締役会)は,株主総会の招集の通知(第299条第1項)に際して,株主に対し,株主総会参考書類等(�@株主総会参考書類,�A議決権行使書面,�B計算書類及び事業報告,�C連結計算書類)(改正第325条の2)を交付し,又は提供することを要しない。
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.4(1)参照(8頁〜9頁)
電子提供制度は,株主総会の招集の通知に際して,株主総会参考書類等の交付又は提供をすることを要しないものとする制度であることから,改正第325条の4においては,会社法第301条第1項等の規定にかかわらず,株主総会書類等を交付し,又は提供することを要しないものとしている。
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(4)(改正第325条の4第4項)
電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社において,株主が議案要領通知請求権(同法第305条)を行使した場合,取締役(取締役会設置会社においては取締役)が株主総会の招集の通知を書面又は電磁的方法により発するときは,当該株主は,提案しようとする議案の要領を当該通知に記載し,又は記録することではなく,提案しようとする議案の要領について電子提供措置を採らなければならないことを請求することができるものとしている。
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〇参照
第305条 株主は,取締役に対し,株主総会の日の8週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては,その期間)前までに,株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知すること(第299条第2項又は第3項の通知をする場合にあっては,当該議案の要領について電子提供措置をとるその通知に記載し,又は記録すること)を請求することができる。(以下略)
2〜4(略)
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.4(1)参照(8頁〜9頁)
電子提供措置を採る場合には,株主総会の招集の通知に記載し,又は記録すべき事項を株主がウェブサイトにアクセスすることを促すために重要であると考えられる事項に限定し,現行法上の株主総会の招集の通知に記載し,又は記録すべき事項である会社法第298条第1項各号に掲げる事項(同法第299条第4項)は電子提供措置事項と整理している(上記(2)・改正第325条の4第2項)。
そこで,改正第325条の4第4項においては,株主が議案要領通知請求権(同法第305条)を行使した場合において,取締役が株主総会の招集の通知を書面又は電磁的方法により発するときは,当該株主は,提案しようとする議案の要領を当該通知に記載し,又は記録することではなく,提案しようとする議案の要領について電子提供措置を採らなければならないことを請求することができるものとしている。
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4 書面交付請求(改正第325条の5)
(1)書面交付請求(改正第325条の5第1項)
電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の株主は,株式会社に対し,「電子提供措置事項」(改正第325条の3第1項各号,上記第2(2))を記載した書面の交付を請求することができる。
ただし,書面による通知の発出に代えて,電磁的方法により通知を発することを承諾した株主(第299条第3項)は,「電子提供措置事項」を記載した書面の交付請求をすることができない。種類株主総会について準用する場合も同様である(第325条)。
種類株主総会について準用する場合における「電子提供措置事項」も電子提供措置事項に含まれる(第325条の7)。
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.4(2)参照(9頁〜10頁))
電子提供制度は,取締役が,株主総会資料を自社のホームページ等のウェブサイトに掲載し,株主に対して当該ウェブサイトのアドレス等を書面により通知した場合には,株主の個別の承諾を得ていないときであっても,取締役は,株主に対して株主総会資料を適法に提供したものとする制度であるから,この制度においては,インターネットを利用することが困難な株主の利益に配慮する必要がある。総務省が平成29年6月8日付けで取りまとめた平成28年通信利用動向調査の結果によれば,我が国における年齢階層別のインターネット利用率(過去1年間にインターネットを利用したことがある人の割合)は,60歳から69歳までにおいて75.7%,70歳から79歳までにおいて53.6%,80歳以上において23.4%であり,依然として,高齢者を中心にインターネットを利用することが困難な者がおり,インターネットを利用することが困難な株主の利益を保護するための手当てが必要であると考えられる。そこで,そのような株主の利益を保護するために,改正第325条の5第1項においては,株主による書面交付請求を認めるものとしている。
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(2)振替株主の書面交付請求(改正振替法第159条の2第2項)
振替株式の株主による書面交付請求権の行使に関する加入者は,次に掲げる振替株式の発行者に対する書面交付請求を,その直近上位機関を経由してすることができる。この場合においては,振替法第130条第1項の規定にかかわらず,書面交付請求をする権利は,当該発行者に対抗することができる。
ア 当該加入者の口座の保有欄に記載又は記録がされた当該振替株式(当該加入者が振替法第151条第2項第1号の申出をしたものを除く。)
イ 当該加入者が他の加入者の口座における特別株主(振替法第151条第2項参照)である場合には,当該口座の保有欄に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該特別株主についてのもの
ウ 当該加入者が他の加入者の口座の質権欄に株主として記載又は記録がされた者である場合には,当該質権欄に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該株主についてのもの
エ 当該加入者が振替法第155条第3項の申請をした振替株式の株主である場合には,買取口座(同条第1項参照)に記載又は記録がされた当該振替株式のうち当該株主についてのもの
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.4(2)参照(10頁))
部会においては,振替株式に関する書面交付請求の仕組みについて,_書面交付請求を口座管理機関及び振替機関を経由して株式会社(株主名簿管理人)に対して行うものとする案,_口座管理機関のみを経由して株式会社(株主名簿管理人)に対して行うものとする案,_口座管理機関及び振替機関を経由せずに,株式会社(株主名簿管理人)に対して行うものとする案について議論された。_の案に対しては,口座管理機関による負担が大きくなる懸念があること,また,_の案に対しては,株主名簿管理人が書面交付請求を受けた時点において書面交付請求をした株主が振替口座簿上の株主であるかどうかを確認することが難しいことなどから,_の案を支持する意見が多く出された。そこで,改正振替法第159条の2第2項においては,_の案によるものとされている。
_の案については,より具体的に,(a)現在の配当金の受取方式に関する振替システム上の仕組み(いわゆる単純取次方式)を参考として,株主が銘柄ごとに書面交付請求をすることができるものとする案,(b)共通番号の照会に関する振替システム上の仕組みを参考として,株主は保有する全ての銘柄についてのみ書面交付請求をすることができるものとする案が考えられる。
部会においては,インターネットを利用することが困難な株主の利益を保護するという書面交付請求権の趣旨からすると,(a)の案のように銘柄ごとに書面交付請求をすることができるものとするまでの必要はないという理由等から,(b)の案を支持する意見がより多く出された。
この点については,中間試案のパブリックコメントにおいては,システム更新等の費用や関係者の労力等の適切な分担を踏まえて具体的な仕組みを検討すべきであるという意見や,(b)の案がより株主,口座管理機関及び振替機関における負担が少ないという意見等があった。この問題については,実務上の影響等を踏まえて引き続き検討するものとすることとされた(部会資料19・3頁)。
なお,書面交付請求は,株主総会資料の提供を受ける方法に関する株主の権利であり,株主総会における議決権の行使に密接に関連する権利であるということができる。そのため,書面交付請求をすることができる権利は,株主総会における議決権そのものではないものの,株主総会の議場における議案提案権(会社法第304条)等と同様に,「会社法第124条第1項に規定する権利」(振替法第147条第4項)に該当すると考えられ,振替株式の株主による書面交付請求に際していわゆる個別株主通知(振替法第154条第3項)は不要であると解される。
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(3)書面交付義務(改正第325条の5第2項)
取締役(取締役会設置会社の場合は取締役会)は,電子提供措置をとる場合(改正第325条の2第1項)には,株主総会の招集の通知(第299条第1項)の通知に際して,上記(1)の書面交付請求(改正第325条の5第1項)をした株主(当該株主総会において議決権を行使することができる者を定めるための基準日(第124条第1項)を定めた場合には,当該基準日までに書面交付請求をした者に限る。)に対し,当該株主総会に係る電子提供措置事項を記載した書面を交付しなければならない。
なお,会社法第126条第1項から第4項までの規定(株主に対する通知等)は,株主に書面を交付する場合について準用される(同条第5項参照)。
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.4(2)参照(9頁〜10頁))
株主による書面交付請求を認めるものとする場合には,株式会社において,電子提供措置事項を記載した書面を印刷し,書面交付請求をした株主に対して郵送するという事務が必要となる。そのため,株主による書面交付請求を認めるものとする場合には,株式会社に生ずる事務の負担が過大なものとならないように配慮する必要があると考えられる。
部会においては,書面交付請求の仕組みとして,(�ウ)書面交付請求の期限を株主総会の招集の通知の発送の後(株主総会の招集の通知の発送期限の1週間後)とするものとする案と,(�エ)形式的には書面交付請求の期限を設けないものの,株主総会において議決権を行使することができる者を定めるために基準日を定めたときは,株式会社は,基準日株主であって当該基準日までに書面交付請求をしたものに対してのみ電子提供措置事項を記載した書面を交付すれば足りるものとする案(実質的には書面交付請求の期限を当該基準日までとするものとする案)について議論された。
(�ウ)の案に対しては,現在の実務のスケジュールを前提とする場合には,株式会社において短期間で書面交付請求に係る事務手続を処理しなければならなくなり,事務の負担が大きくなる懸念があることなどから,(�エ)の案を支持する意見が多く出されたため,改正第325条の5第2項においては,(�エ)の案が採用された。
なお,改正第325条の5第2項においては,株式会社が当該基準日を定めなかった場合には,原則として,株主総会の2週間前の日よりも後に書面交付請求をした株主に対しては,当該株主総会に係る電子提供措置事項を記載した書面を交付する必要はないものと解される。
ただし,当該株主が,株主総会の2週間前の日よりも後に株主名簿上の株主となった場合には,当該株主は当該株主総会において議決権を有するにもかかわらず,2週間前までに書面交付請求をすることができないものとなる。書面交付請求は株主総会の議決権に密接に関連する権利であることを踏まえると,そのような場合に書面交付請求が全くできないものと解することは相当でない。そのため,株主総会の2週間前よりも後に株主名簿上の株主となる者については,当該名義書換に際して書面交付請求をすることができ,株式会社は,速やかに電子提供措置事項を記載した書面を当該株主に交付しなければならないものとなると考えられる。
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(4)定款の定めによる記載することを要しない電子提供措置事項(改正第325条の5第3項)
株式会社は,電子提供措置事項のうち法務省令で定めるものの全部又は一部については,前項の規定により交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができる。
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(5)書面交付の終了の通知(改正第325条の5第4項)
書面交付請求をした株主がある場合において,その書面交付請求の日(当該株主が改正第325条の5第5項ただし書(下記(5)参照)により異議を述べた場合には,当該異議を述べた日)から1年を経過したときは,株式会社は,当該株主に対し,上記(2)による書面の交付を終了する旨を通知し,かつ,これに異議のある場合には一定の期間(以下「催告期間」という。)内に異議を述べるべき旨を催告することができる。ただし,催告期間は,1か月を下ることができない。
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(6)書面交付請求の効力の喪失(改正第325条の5第5項)
上記(5)による通知及び催告を受けた株主がした書面交付請求は,催告期間を経過した時にその効力を失う。ただし,当該株主が催告期間内に異議を述べたときは,この限りでない。
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5 電子提供措置の中断(改正第325条の6)
第325条の3第1項(電子提供措置・上記2(1))にかかわらず,電子提供措置期間中に電子提供措置の中断(株主が提供を受けることができる状態に置かれた情報がその状態に置かれないこととなったこと又は当該情報がその状態に置かれた後改変されたことをいう。以下同じ。)が生じた場合において,次のいずれにも該当するときは,その電子提供措置の中断は,当該電子提供措置の効力に影響を及ぼさない。
_電子提供措置の中断が生ずることにつき株式会社が善意でかつ重大な過失がないこと又は株式会社に正当な事由があること。(同条第1号)
電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の10分の1を超えないこと。(同条第2号)
_電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に電子提供措置の中断が生じたときは,当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の10分の1を超えないこと。(同条第3号)
_株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨,電子提供措置の中断が生じた時間及び電子提供措置の中断の内容である情報について当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと。(同条第4号)
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(趣旨)(補足説明第一部・第1.5参照(11頁)・部会資料19・第1・4(1)(6頁〜7頁))
現行法上,電子公告については,ウェブサイトに使用するサーバーのダウン等により公告期間中に公告事項がウェブサイトに掲載されない期間が生じたり,ハッカーやウイルス感染等による改ざん等によって公告事項とは異なる情報がウェブサイトに掲載されてしまう事態(公告の中断)が生じた場合の救済規定が設けられており,一定の場合には,無効と扱わないこととされている(会社法第940条第3項)。これは,公告の中断が生じた場合に常に公告を無効としてもう一度公告のやり直しを命ずることは,株式会社にとって酷であり,また,公告の対象者である株主等を無用に混乱させることとなるからである。
電子提供措置についても,電子公告と同様に,ウェブサイトに使用するサーバーのダウン等や,ハッカーやウイルス感染等による改ざん等が生ずる場合があり得ることは否定することができず,また,このような場合に常に適法な株主総会資料の提供がなかったものとすることは,株式会社にとって酷であり,また,株主を無用に混乱させることとなると考えられる。
そこで,改正第325条の6においては,現行法上の電子公告を参考として,�@・�A・�Cまでのいずれにも該当するときは,電子提供措置の中断は株主総会資料の電子提供措置の効力に影響を及ぼさないものとしている。
なお,�Bの要件は,電子提供措置期間のうち,株主総会の日以前の期間については株主総会の招集の手続として電子提供措置が求められているが,株主総会の日後の期間については株主総会の決議の取消しの訴えなどにおける証拠等としての使用に供するために求められているものと考えられる。このように,両期間において電子提供措置が求められる趣旨が異なることに鑑みると,電子提供措置の中断に係る救済規定の適用についても,株主総会の日以前の期間については,別途当該期間における電子提供措置の中断が生じた時間の割合に基づいてその可否が判断されるべきであると考えられるため設けられたものである。
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6 種類株主総会への準用(改正第325条の7)
改正第325条の3から改正第325条の6まで((改正第325条の3第1項(第5号及び第6号に係る部分に限る。)及び第3項並びに第325条の5第1項及び第3項から第5項までを除く。)の規定は、種類株主総会に準用される。
なお、改正第325条の2(電子提供措置をとる旨の定款の定め)については、種類株主総会を招集する場合にも、電子提供措置を講ずることとされている。
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〇種類株主総会への準用後の規定
(電子提供措置)
第325条の3 電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の取締役は、第325条において準用する第299条第2項各号に掲げる場合には、株主総会の日の3週間前の日又は同条第1項(第325条において準用する場合に限る。次項、次条及び第325条の5において同じ。)の通知を発した日のいずれか早い日(以下この款において「電子提供措置開始日」という。)から株主総会の日後3箇月を経過する日までの間(以下この款において「電子提供措置期間」という。)、次に掲げる事項に係る情報について継続して電子提供措置をとらなければならない。
一 第298条第1項各号(第325条において準用する場合に限る。)に掲げる事項
二 第325条において準用する第301条第1項に規定する場合には、株主総会参考書類及び議決権行使書面に記載すべき事項
三 第325条において準用する第302条第1項に規定する場合には、株主総会参考書類に記載すべき事項
四 第305条第1項(第325条において準用する場合に限る。次条第4項において同じ。)の規定による請求があった場合には、同項の議案の要領
五 株式会社が取締役会設置会社である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、第437条の計算書類及び事業報告に記載され、又は記録された事項
六 株式会社が会計監査人設置会社(取締役会設置会社に限る。)である場合において、取締役が定時株主総会を招集するときは、第444条第6項の連結計算書類に記載され、又は記録された事項
七 前各号に掲げる事項を修正したときは、その旨及び修正前の事項
2 前項の規定にかかわらず、取締役が第299条第1項の通知に際して株主(ある種類の株式の株主に限る。次条から第325条の6までにおいて同じ。)に対し議決権行使書面を交付するときは、議決権行使書面に記載すべき事項に係る情報については、前項の規定により電子提供措置をとることを要しない。
3 第一項の規定にかかわらず、金融商品取引法第24条第1項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならない株式会社が、電子提供措置開始日までに第一項各号に掲げる事項(定時株主総会に係るものに限り、議決権行使書面に記載すべき事項を除く。)を記載した有価証券報告書(添付書類及びこれらの訂正報告書を含む。)の提出の手続を同法第27条の30の2に規定する開示用電子情報処理組織(以下この款において単に「開示用電子情報処理組織」という。)を使用して行う場合には、当該事項に係る情報については、同項の規定により電子提供措置をとることを要しない。
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(株主総会の招集の通知等の特則)
第325条の4 前条第一項の規定により電子提供措置をとる場合における第299条第1項の規定の適用については、同項中「2週間(前条第1項第3号又は第4号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、1週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))」とあるのは、「二週間」とする。
2 第325条において準用する第299条第4項の規定にかかわらず、前条第1項の規定により電子提供措置をとる場合には、第325条において準用する第299条第2項又は第3項の通知には、第325条において準用する第298条第1項第5号に掲げる事項を記載し、又は記録することを要しない。この場合において、当該通知には、第325条において準用する同項第1号から第4号までに掲げる事項のほか、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一 電子提供措置をとっているときは、その旨
二 前条第三項の手続を開示用電子情報処理組織を使用して行ったときは、その旨
三 前二号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項
3 第325条において準用する第301条第1項及び、第302条第1項、第437条及び第444条第6項の規定にかかわらず、電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社においては、取締役は、第299条第1項の通知に際して、株主に対し、株主総会参考書類等を交付し、又は提供することを要しない。
4 電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社における第305条第1項の規定の適用については、同項中「その通知に記載し、又は記録する」とあるのは、「当該議案の要領について第325条の2に規定する電子提供措置をとる」とする。
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(書面交付請求)
第325条の5 電子提供措置をとる旨の定款の定めがある株式会社の株主(第299条第3項(第325条において準用する場合を含む。)の承諾をした株主を除く。)は、株式会社に対し、第325条の3第1項各号(第325条の7において準用する場合を含む。)に掲げる事項(以下この条において「電子提供措置事項」という。)を記載した書面の交付を請求することができる。
2 取締役は、第325条の3第1項の規定により電子提供措置をとる場合には、第299第1項の通知に際して、前項の規定による請求(以下この条において「書面交付請求」という。)をした株主(当該株主総会において議決権を行使することができる者を定めるための基準日(第124条第1項に規定する基準日をいう。)を定めた場合にあっては、当該基準日までに書面交付請求をした者に限る。)に対し、当該株主総会に係る電子提供措置事項を記載した書面を交付しなければならない。
3 株式会社は、電子提供措置事項のうち法務省令で定めるものの全部又は一部については、前項の規定により交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができる。
4 書面交付請求をした株主がある場合において、その書面交付請求の日(当該株主が次項ただし書の規定により異議を述べた場合にあっては、当該異議を述べた日)から一年を経過したときは、株式会社は、当該株主に対し、第二項の規定による書面の交付を終了する旨を通知し、かつ、これに異議のある場合には一定の期間(以下この条において「催告期間」という。)内に異議を述べるべき旨を催告することができる。ただし、催告期間は、一箇月を下ることができない。
5 前項の規定による通知及び催告を受けた株主がした書面交付請求は、催告期間を経過した時にその効力を失う。ただし、当該株主が催告期間内に異議を述べたときは、この限りでない。
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(電子提供措置の中断)
第325条の6 第325条の3第1項の規定にかかわらず、電子提供措置期間中に電子提供措置の中断(株主が提供を受けることができる状態に置かれた情報がその状態に置かれないこととなったこと又は当該情報がその状態に置かれた後改変されたこと(同項第七号の規定により修正されたことを除く。)をいう。以下この条において同じ。)が生じた場合において、次の各号のいずれにも該当するときは、その電子提供措置の中断は、当該電子提供措置の効力に影響を及ぼさない。
一 電子提供措置の中断が生ずることにつき株式会社が善意でかつ重大な過失がないこと又は株式会社に正当な事由があること。
二 電子提供措置の中断が生じた時間の合計が電子提供措置期間の10分の1を超えないこと。
三 電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間中に電子提供措置の中断が生じたときは、当該期間中に電子提供措置の中断が生じた時間の合計が当該期間の10分の1を超えないこと。
四 株式会社が電子提供措置の中断が生じたことを知った後速やかにその旨、電子提供措置の中断が生じた時間及び電子提供措置の中断の内容について当該電子提供措置に付して電子提供措置をとったこと。
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7 罰則
第325条の3第1項(第325条の7において種類株主総会に準用される場合を含む。)の規定に違反して、電子提供措置をとらなかったときは、株式会社の取締役等は、100万円以下の過料に処せられる(改正第976条第19号)。
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8 施行期日(改正法附則第1条ただし書)
電子提供措置に関する規定(第4章第3節)を追加する改正は、公布の日から起算して3年6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。
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[1]法案等については以下を参照(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00252.html)
[2]法案等については以下を参照(http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00253.html)
[3]会社法制(企業統治等関係)部会の資料については以下を参照(http://www.moj.go.jp/shingi1/shingi04900348.html)
[4]http://www.moj.go.jp/content/001252002.pdf
[5]株主総会の招集の通知に記載・記録すべき事項(会社法298条1項各号)
�@株主総会の日時及び場所
�A株主総会の目的である事項があるときは,当該事項
�B株主総会に出席しない株主が書面によって議決権を行使することができることとするときは,その旨
�C株主総会に出席しない株主が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは,その旨
�D前各号に掲げるもののほか,法務省令で定める事項