TOPICS

トピックス・法律情報

中小企業の知的財産活用を後押しするブランド・デザイン等の保護強化

2024/11/01

(執筆者:弁護士 石井千晶)

【Q.】
先日、商標法・意匠法が改正されたと聞きました。この改正で企業にはどのような影響があるのでしょうか。改正の内容を教えてください。

【A.】
1.はじめに
令和6年4月1日、「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第51号)が施行されました。これは、知的財産の分野におけるデジタル化や国際化のさらなる進展等の環境変化を踏まえ、スタートアップや中小企業等による知的財産を活用した新規事業展開を後押しする等を目的に、時代の要請に対応した知的財産制度が見直されたものです。
具体的には、①デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化、②コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備、③国際的な事業展開に関する制度整備の3つを柱に、不正競争防止法のほか、商標法、意匠法等が改正されました。本稿では、3つのうち、①に関する商標法・意匠法の改正内容についてご説明いたします。

2.商標法の改正
○コンセント制度の導入(商標法4条4項)
商標法では、先行登録商標の権利者の保護及び商品・役務の出所混同の防止を趣旨として、先行登録商標と「商標、商品・役務」が同一・類似の商標は、商標登録を受けることができないとされています(商標法4条1項11号)。他方、諸外国の多くは、登録商標の権利者による同意(コンセント)があれば併存登録を認める「コンセント制度」を導入しており、グローバルな商標併存合意契約の締結が困難になっていること等の課題が指摘されていました。そこで、今回の改正により、「コンセント制度」が導入され、①先行登録商標の権利者が同意し、かつ、②消費者が先行登録商標と混同するおそれがない場合は、上記の法の趣旨が担保されるため、併存登録が可能となりました(商標法4条4項)。
また、商標法4条4項に基づき併存登録された場合に、一方の商標権者は、他方の商標権者に混同防止表示を付すよう請求することができる(商標法24条の4)とともに、一方の商標権者が不正競争の目的で出所混同を生じさせるような商標の使用をしたときは商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる(商標法52条の2)とされるなど、登録後の出所混同防止のための諸制度が整備されています。

○他人の氏名を含む商標に係る登録拒絶要件の見直し(商標法4条1項8号)
商標法上、「他人の氏名」を含む商標は、その知名度にかかわらず同じ読みの他人全員の承諾がない限り、商標登録を受けることができないとされていました(商標法4条1項8号)。商標法4条1項8号は厳格に解されており、例えば「TAKEO KIKUCHI」や「ヨウジヤマモト」のように広く一般に知られたブランドまで一律に出願を拒絶せざるを得ないことから、創業者やデザイナー等の氏名をブランド名に用いることの多いファッション業界を中心に要件緩和の要望がありました。そこで、今回の改正によって、「他人の氏名」に一定の知名度の要件を課すこととする一方で、一定の知名度を有しない「他人の氏名」が含まれる商標登録出願について、一律、同号の対象外としてしまうと出願に係る商標に含まれる氏名とは無関係な者による濫用的な出願が懸念されることから、①氏名に一定の知名度がある他人が存在しないことに加え、②出願人側の事情を考慮する(例えば、商標構成中の氏名が自己氏名や創業者や代表者の氏名等であり、商標登録を受けることについて嫌がらせ等の不正の目的を有していない場合は、この要件を満たすと想定)場合に、他人の承諾なしに商標登録が可能となりました。

3.意匠法の改正
○意匠登録手続の要件緩和(意匠法4条)
意匠法において、意匠登録を受けることができるのは新規性を有する意匠である(意匠法3条1項)ことから、出願人自らが公開した場合を含め、意匠登録出願前に公開されて新規性を失った意匠は、原則として意匠登録を受けることができないとされていました。もっとも、意匠法では、一定の要件を満たす場合には新規性が喪失しなかったものとみなす「意匠の新規性喪失の例外」が定められています(意匠法4条2項・3項)。しかし例外の適用を受けるためには、出願と同時に例外の適用を受ける旨の例外適用書面を提出し、出願の日から30日以内に、自ら公開したことを証明する証明書(例外適用証明書)を自己が公開した全ての意匠について網羅的に提出する必要があり、特にスタートアップや中小企業にとっては大きな負担となっていました。そこで、今回の改正により、例外適用証明書を作成する負担を軽減することを目的に、例外適用証明書は自己の行為により公開された同一または類似する意匠のうち、最も早い公開日の行為によるもののいずれか1つの公開意匠についての証明書を提出することで足りることとなりました。

4.最後に
前述のとおり、商標法・意匠法の改正によって、スタートアップや中小企業等も、新規事業でのブランド選択できる幅が広がったうえ、出願が容易になりました。①デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化については、このほかにも、不正競争防止法が改正されており、こちらの改正は多岐にわたりますので、詳細については専門家にご相談ください。

ACCESS 所在地
弁護士法人 三宅法律事務所  MIYAKE & PARTNERS

大阪事務所 OSAKA OFFICE

〒541-0042
大阪市中央区今橋3丁目3番13号
ニッセイ淀屋橋イースト16階
FAX
06-6202-5089

東京事務所 TOKYO OFFICE

〒100-0006
東京都千代田区有楽町1丁目7番1号
有楽町電気ビルヂング北館9階
FAX
03-5288-1025