(執筆者:弁護士 岸野 正)
【Q.】住宅瑕疵担保責任の履行の確保とは?
当社は、年間300戸程度の住宅を供給する新築住宅の建設請負業者です。将来の住宅瑕疵担保責任の履行に支障が出ないようにするため、この10月から保証金の供託または保険加入が義務付けられると聞きました。そこで、制度の概要と具体的にどのような準備をすればよいか、また保証金はいくら必要なのか、教えてください。
【A.】
1.制度導入に至る背景
平成17年に構造計算書の偽装問題が発覚し、偽装のあった物件では、建て替えや補修工事のために多大な費用が必要となりました。このような場合、本来責任を負うべき売主が倒産するおそれもあり、売主の財産だけでは十分な補償が期待できません。平成12年4月から、新築住宅の売主や請負人には10年間の瑕疵担保責任が義務付けられていますが、売主や請負人の資力を確保し、その実効性を高めるため、「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」が平成21年10月1日から本格施行されることとなりました。
2.制度の概要
平成21年10月1日以降に引き渡される新築住宅(工事完了後1年以内の住宅であって、まだ人が居住したことのないもの)を対象とし、請負人または売主のうち、建設業許可を受けた建設業者と、宅地建物取引業免許を受けた宅地建物取引業者に資力確保措置(保証金供託または保険加入)が義務付けられます。ただし、新築住宅の発注者や買主が宅地建物取引業者である場合は、対象となりません。
まず保証金ですが、基準日(毎年3月31日と9月30日の年2回)から過去10年間に遡って引き渡した新築住宅の戸数に応じて算定します。ただし、平成21年10月1日から10年間は、同日以後に引き渡した新築住宅の戸数が対象となります。保証金は供給戸数の区分に応じた算定式により、例えば年間300戸を供給する事業者で、最初の基準日(平成22年3月31日)までの半年間に150戸引き渡していれば、1億500万円の保証金の供託が必要です。その後も供給戸数に応じて、1年後に300戸であれば1億2000万円、10年後に3000戸であれば2億6000万円まで保証金の積増しが必要です。
つぎに保険加入ですが、国土交通大臣指定の住宅瑕疵担保責任保険法人と保険契約を締結した住宅については、供託の対象となる戸数から除外できます。現場検査料を含めた保険料(保険期間10年)の目安は、1戸あたり約6〜9万円とされています。
年間の供給戸数が数百戸程度であれば、短期的には保証金供託よりも保険加入のほうが負担は小さいといえますが、保険料は掛け捨てですので、長期的な負担も考慮のうえ資力確保措置の方法を選択してください。
なお、毎年2回の基準日時点での供託や保険加入の状況を、基準日から3週間以内に国土交通大臣等に届け出る必要があります。届出を行わない場合、罰則の適用や業法に基づく処分の可能性があるほか、基準日の翌日から50日を経過した日以降、新たな新築住宅の請負契約や売買契約ができなくなります。
3.請負人または売主に必要な準備
新築住宅の請負契約または売買契約を締結するまでに、当該住宅の資力確保措置の内容について、発注者や買主に書面を交付して説明しなければなりません。また、最初の基準日(平成22年3月31日)までに供託の必要な金額が比較的高額になることが予想されますので、保証金の確保にはご留意ください。
なお、保険加入には、建設着工前の保険申込みと保険法人による現場検査が必要です。保険未加入のまま、すでに着工済みで、引き渡しが平成21年10月1日以降となる新築住宅については、保証金供託での対応となります。
制度の詳細につきましては下記の国土交通省ホームページにも記載されていますので、詳しくはそちらをご覧ください。_
_http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutaku-kentiku.files/kashitanpocorner/index.html
(以上)