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『新型インフルエンザによる休業と休業手当』

2010/02/01

(執筆者:弁護士 荻野伸一)
【Q.】休業手当の支払義務はありますか?
当社の従業員が新型インフルエンザに感染したため、当該従業員自身を休業させるとともに、近くで業務を行っていた従業員にも自宅待機を命じることを検討しています。
このような場合、会社は休業手当を支払う必要があるのでしょうか。また、家族が新型インフルエンザに感染した従業員や、発熱等の症状がある従業員に対して自宅待機を命じる場合はどうでしょうか。
【A.】
1.はじめに
新型インフルエンザ(H1N1)が流行期に入り、従業員が感染する危険が高まっています。新型インフルエンザに感染した従業員や感染の恐れがある従業員を休業させた場合には、事業者に賃金や休業手当の支払義務があるのかという法的な問題が生じます。
2.問題の所在
従業員が休業した場合に、事業者が賃金の支払義務を負うか否かは、その休業が「債権者(このケースでは事業者)の責めに帰すべき事由」(民法536条2項)すなわち、事業者の故意・過失等によるか否かによります。
例えば、適切な新型インフルエンザ対策を実施していた事業者が、感染の恐れがある従業員に自宅待機を命じることは、相当な範囲を超えるものでない限り、当該従業員及び他の従業員への安全配慮義務の履行という観点から正当化されるもので、事業者には原則として故意・過失等はないと考えられます。
次に、休業手当の支払義務については、「使用者の責に帰すべき事由」(労働基準法26条)か否かが基準となります。こちらは前者よりも広い概念で、不可抗力等を除く「使用者側に起因する経営、管理上の障害を含む」ものと解されています(最判昭和62年7月17日)。
このように事業者は、休業が事業者の故意・過失等によらない限り賃金の支払義務は負わないものの、休業手当の支払義務は、不可抗力等によらない限り免れられません。
3.休業手当の支払義務
前述の通り、新型インフルエンザに感染した従業員や、感染の恐れがある従業員を休業させたとき、休業手当を支払わなくていいのはそれが不可抗力等に当たる場合であり、具体的には次のように考えられます。
(1) 感染した従業員が、医師の指示によって、あるいは就労制限措置(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律18条2項)・入院勧告(同法19条1項)がなされたために休業する場合
(2) 従業員が「新型インフルエンザにかかっていると疑うに足りる正当な事由のある者」として外出自粛等の協力要請(同法44条の3第2項)を受けた場合
(3) 濃厚接触者である従業員を、保健所による協力要請等によって休業させる場合
上記範囲を超えて、事業者の自主的判断で従業員を休業させる場合には、「使用者の責に帰すべき事由」による休業となり、休業手当を支払う必要があるものと解されます。
4.今後の対策
今後、より毒性の強い新型インフルエンザが蔓延した場合には、政府・自治体が事業者に対して、事業自体の自粛や事業所の閉鎖を要請することが予想されます。その際の休業手当の支払義務については、保健所による協力要請等があった場合に準じて考えることになると思われます。
この他に、新型インフルエンザを原因とした事業の中断による契約不履行時の法的責任という問題があります。適切な事業継続対策 (※)を講じていたにもかかわらず、事業を中断せざるを得なくなった場合には、事業者に法的責任はないと考えることができますが、新型インフルエンザによるリスクの負担方法について、あらかじめ契約条項を定めておくことも必要でしょう。
※事業継続対策については、「新型インフルエンザ対策ガイドライン」
(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/guide/090217keikaku.pdf)〔内閣官房ホームページ〕89ページ以降をご参照ください。
(以上)

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