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『金融ADR制度について』

2010/10/30

(執筆者:弁護士・公認会計士 豊田孝二)

【Q.】
当社は、最近、損害保険契約を締結したのですが、その契約内容について、保険会社の担当者の説明が間違っていたため、この保険契約を解約したいと思い、何度か保険会社と交渉したのですが、うまくいかないため、訴訟を検討しています。ただ、訴訟を起こすとなると、手間もかかりますし、費用もかかります。
今般、金融ADRという制度が設立され、今回のような場合に迅速かつ簡便に紛争解決を行うことが可能になったと聞いたのですが、その概要について教えてください。_

【A.】
いわゆる金融ADR制度が盛り込まれた「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成21年法律第58号)が平成21年6月24日に公布されていますが、そのうち、個別金融機関に対する苦情処理・紛争解決に係る行為規制に関する部分が平成22年10月1日に施行となりました。
なお、現時点での金融ADRの制度化につきましては、業態を越えて横断的に新たな制度を設けるのではなく、これまで業態毎に行われてきた苦情処理・紛争解決の取り組みをベースとするものとされておりますので、上記の改正と並行して、金融商品取引法のほか銀行法、保険業法、貸金業法などの16の金融関係業法において金融ADRに関する規定が新たに設けられております。

ところで、ADR(裁判外紛争解決手続)とは、訴訟に代わる、あっせん・調停・仲裁等の当事者の合意に基づく紛争の解決方法のことを言い、この手続は、国家権力である裁判所ではなく、中立的な手続実施者が関与する紛争解決手続きであり、裁判手続と比較して、一定の手続の透明性、中立性、公平性などを確保しつつ、迅速性、簡易性、廉価性、柔軟性、秘密性、専門性などといった利点を有する手続と考えられています。ただし、あくまで民間団体が主催する手続ですので、中立性、公平性、実効性などの観点から十分でないというデメリットも考えられるところです。
金融ADR制度も同様の利点を有するものと考えられますが、同制度の趣旨としましては、�@紛争解決機関を行政庁が指定・監督し、その中立性・公平性を確保する、�A利用者から紛争解決の申立てが行われた場合には、金融機関に紛争解決手続の利用や和解案の尊重等を求め、紛争解決の実効性を確保する、�B金融分野に知見を有する者が紛争解決委員として紛争解決に当たることにより、金融商品・サービスに関する専門性を確保する、といったことにより、事案の性質や当事者の事情に応じた迅速・簡便・柔軟な紛争解決が可能となり、これによって、利用者に納得感のあるトラブル解決を行ない、ひいては金融商品・サービスへの利用者の信頼性の向上に資することとなると考えられています。

金融ADR制度の概要・流れとしましては、�@申請に基づき、行政庁が紛争解決機関を指定し、監督する、�A金融機関は、指定紛争解決機関との間で手続実施基本契約を締結する、�B金融機関との間で生じたトラブルについて、利用者が指定紛争解決機関に対して紛争解決の申立を行う、�C紛争解決委員が紛争解決手続を実施し、和解案等を提示する、�D金融機関は和解に基づきトラブルの解決を図る、ということが考えられておりますが、詳細な手続につきましては、業種毎に設置された指定紛争解決機関により定められますので、同制度を利用する場合には業種毎に設置された指定紛争解決機関への確認が必要となるかと思います(例えば、本事例のような損害保険業務に関しましては、社団法人日本損害保険協会が指定紛争解決機関となっておりますので、詳細な手続につきましては同協会に確認し、進めていくことになります。)。
なお、各業態における指定紛争解決機関の設置の有無、指定紛争解決機関の業務の種別等につきましては、金融庁のホームページ(http://www.fsa.go.jp/)でご確認ください。

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