TOPICS

トピックス・法律情報

『「朝活」ブームで押さえておきたい労務面のポイント』

2011/01/17

(執筆者:弁護士 坂本 智)

【Q.】「朝活」は時間外労働に当たりますか?

昨今、早朝の時間を利用して活動をすること(「朝活」)がブームとなっていますが、次のような場合は時間外労働に該当するのでしょうか。
�@社員有志が、早朝、会社の会議室で自主的に英会話の勉強会をしている場合
�A会社が希望者向けに、早朝、英会話講座を開いている場合
�B上記�Aにおいて、出席状況が賞与・昇格の考課査定基準に加えられ、実際に賞与・昇格の考課で考慮されている場合

【A.】
_1.はじめに

最近巷では、早朝から勉強会や習い事などをする「朝活」がブームとなっています。出勤前に個人的な習い事をしている場合はよいのですが、始業時間前に社員が出社して、勉強会を行っているような場合には、これが労働時間に当たるのかが問題となり得ます。
一般に、労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義されています。そして、明示的な業務命令に基づくものだけでなく、諸般の事情を考慮して、「使用者の指揮命令下に置かれていると評価できる」場合には、労働時間に当たると解されています。
「朝活」が労働時間に当たる場合、法定労働時間(1日8時間)を超える部分は時間外労働となります。例えば、午前9時始業、午後17時終業、12〜13時が休憩時間の会社(7時間労働)において、午前7〜9時の「朝活」が労働時間に当たる場合には、午前7〜8時の1時間が時間外労働に該当することになり、2割5分増の割増賃金の支払いが必要となります。
以上を前提に、本事例について検討することにします。

2.事例�@について

�@のような勉強会は、例え会議室の使用を会社が許可したとしても、社員有志によって自主的に行われている限り、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている」と評価することはできません。したがって、�@は時間外労働に当たらないと解されます。

3.事例�Aについて

�Aは、�@と異なり、会社が英会話講座を主催しています。しかし、任意の希望者向けに行われる限り、使用者の指示に基づいて参加していると言えないことから、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている」と評価することはできません。したがって、�Aも時間外労働に当たらないと解されます。
もっとも、任意参加の形式をとっていたとしても、事実上参加が強制されている場合、例えば、海外派遣の決まっている社員のうち、特に英会話能力が不足している者に対して、会社が参加を促し、事実上拒否することができないような場合は、黙示の業務命令に基づくものとして、労働時間に当たると評価される可能性もあります。

4.事例�Bについて

�Bは、任意参加の形式をとっていますが、出席状況が賞与・昇格の考課査定基準に加えられ、賞与・昇格の考課で考慮されています。このような場合は、英会話講座に参加しないと不利益な取り扱いがなされることから、事実上参加が強制されていると言えます。
つまり、�Bは、会社の業務命令に基づくものとして、労働時間に当たると評価される可能性が高いと考えられます。

5.「朝活」と自発的残業

また、純粋な「朝活」とは異なりますが、社員が始業時間の前から出社して仕事を行うことを、会社が推奨ないし黙認しているような場合も、労働時間と評価される可能性が高いので、ご留意ください。

6.おわりに

 「朝活」が時間外労働に当たるかは、労働者が「使用者の指揮命令下に置かれていると評価できる」か否かで判断されます。
もっとも、この判断は諸般の事情を考慮した総合評価にならざるを得ず、判断が容易でない状況も少なくないと思われます。もしも判断に迷うような場合は、専門家である弁護士に相談されることをお勧めします。

(以上)

ACCESS 所在地
弁護士法人 三宅法律事務所  MIYAKE & PARTNERS

大阪事務所 OSAKA OFFICE

〒541-0042
大阪市中央区今橋3丁目3番13号
ニッセイ淀屋橋イースト16階
FAX
06-6202-5089

東京事務所 TOKYO OFFICE

〒100-0006
東京都千代田区有楽町1丁目7番1号
有楽町電気ビルヂング北館9階
FAX
03-5288-1025