(執筆者:弁護士 山畑博史)
【Q.】
弊社は食品の製造・加工を営む会社です。今回の東日本大震災では、風評被害も深刻な問題となっていますが、弊社も食品を取り扱っていますので、他人事ではありません。風評被害を受けた場合の対応などがあれば、教えてください。
【A.】
1.風評被害とその特徴
いわゆる風評被害とは、一般的には、製品やサービス等に対する世間の評判や噂といった「風評」によって、売上げ減などの被害を受けることと考えられています。
風評被害の特徴として、製品やサービス等の品質低下や不具合及びその原因が確認・究明されない場合でも、様々な憶測や情報がメディア等を通じて伝播・拡散されることにより、情報の受領者が、当該製品等、ひいては同種の製品等に対して、マイナスの感情を抱き、その結果、受領拒否、返品、取引停止、不買、価格の下落といった悪影響が生じる点が挙げられます。また、一旦、誤った情報が拡散されると、後にそれが虚偽であることが判明しても、すでに定着してしまった印象や認識を払拭することが容易ではないという点も、風評被害の特徴と言えます。
2.風評被害を受けた場合の法的対応とその限界
不法行為によって損害を被った被害者は、加害者に対して損害賠償を請求できます(民法709条)。同様に、いわゆる風評被害(損害)であっても、被害者は加害者に対して、その賠償を求めることが可能であると考えられます。裁判例の中には、風評被害による損害賠償を一定の範囲で認めた判決があります(東京地裁平成18年4月19日判決)。
例えば、今回の震災で問題とされている農産物や食品などの風評被害については、風評の原因となる事故を生じさせた電力会社を加害者として賠償を求めることになりますが、一般的には、このような風評の原因を生じさせた主体のほか、場合によっては、虚偽情報を発信したメディアや不正確な情報を公表した行政庁なども加害者になり得ると考えられます。
もっとも、風評の原因や加害者を常に特定できるわけではありませんし、加害者に賠償を求めることができても、その範囲は加害行為と相当因果関係がある損害となりますので、減少した売上げ全てが補償されるとは限りません。また、被害回復までには時間がかかり、裁判になればより一層の時間を要します。
3.その他の対応
法的な対応以外には、容易ではありませんが、取引先や消費者に対して直接説明や情報開示等を行うことを通じて、また、関係者や業界内で協力し、誤った情報を是正することが考えられます。悪質なデマや誹謗中傷などが流布・拡大されているようなケースでは、情報発信者等に対して積極的に情報の削除や是正を求め、場合によっては刑事告訴を行うことも有効だと思われます。
また、取引先金融機関等に対し、早い段階で支援を依頼することは、被害回復を受けるまでの間の現実的な対応と言えるかもしれません。
その他、行政庁の相談窓口や行政庁主導で実施される融資制度を利用することも考えられます。今回の震災における様々な支援策は、中小企業庁のHP(http://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/index.html#gutai)をご参照ください。
4.最後に
風評被害への万全の対策・対応はありませんが、万が一、風評被害の懸念が生じた場合には、早期に現状を把握し、関係者や業界が一丸となってこれに対応していくことが重要であると考えられます。