(執筆者:弁護士 松原浩晃)
【Q.】
当社は、工作機械の製造会社ですが、今般、取引先の卸売会社(A社)が倒産し、数日中に破産申し立てを行う予定であることを聞き付けました。現在、当社はA社に対し、数千万円に上る工作機械の売掛金を有しています。当社としては、少しでも多く売掛金を回収したいと考えていますが、何かよい方法はあるでしょうか。_
【A.】
1.はじめに
法人が破産を申し立てた場合の以後の流れとしては、申し立てを受け付けた裁判所が破産手続開始決定を発令した後、裁判所から選任された破産管財人が破産会社の財産を換価し、配当可能なほどの破産財団が形成されれば、破産債権者への配当が行われることになります。
破産債権者が破産会社の支払不能以後に破産会社より弁済を受けた場合には、後に偏頗(へんぱ)弁済として破産管財人より否認されるおそれがありますし、破産手続開始決定がなされた場合は、個別的な債権回収は禁止され、破産手続の中で満足するほかないのが原則です。
もっとも、担保権者には別除権として破産手続外での権利行使が認められるなどの例外もあります。
御社の場合、考えられる手段としては、所有権留保または動産売買先取特権に基づく権利行使があります。以下、順にご説明します。
2.所有権留保について
割賦販売契約などでよく見られますが、売買契約において、目的物の占有を買主に移転する一方、所有権は代金完済まで売主に留保(代金完済時に所有権移転)することがあり、所有権留保と呼ばれています。
この所有権留保については、実質的には、代金債権確保のための担保的要素が強く、破産手続においても、担保権として別除権と扱うのが一般的です。
そこで、御社においても、A社との間での売買契約書等で代金完済まで所有権を留保しているのであれば、留保所有権に基づき、A社(破産手続開始決定以後は破産管財人)に対し、目的物の引き渡しを求めることが考えられます。もっとも、所有権留保はあくまで代金債権を担保するためのものですから、目的物の評価額が残代金債権を上回っている場合には、その差額をA社(破産管財人)に支払って清算する必要があります。
なお、目的物が既に第三者に転売されている場合でも、第三者に対し留保所有権を主張できる余地はありますが、第三者による即時取得等の問題があります。
3.動産売買先取特権について
動産売買先取特権は、動産を売買した際に、その売買した動産から他者に優先して弁済を受けることができる権利です。法律の規定により当然に生じる権利であり、所有権留保のように当事者間での合意を必要としません。この動産売買先取特権についても、破産手続上は、別除権として扱われることになります。
もっとも、動産売買先取特権は、当該動産が第三者に転売された後は、動産自体に権利行使することができなくなります。この場合、売主としては転売代金債権を差し押さえて、そこから回収を図ることになりますが、転売代金が第三者から買主(転売人)に支払われてしまえば、もはや転売代金債権を差し押さえることもできなくなりますので、注意が必要です。
御社においても、まだ目的物がA社の下にあるのであれば、当該目的物について動産競売を申し立てることが考えられます。また、目的物がA社から第三者に転売されたものの転売代金支払前であれば、その転売代金債権を差し押さえることが考えられます。
以上の点は、破産手続開始決定がなされ破産管財人が選任された後も変わりませんが、目的物が第三者に転売され転売代金が支払われてしまえば、もはや動産売買先取特権による回収は不可能となってしまいますので、御社でも速やかに対応を検討し適切な手続を取る必要があります。_