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『うつ病をめぐる労務管理』

2013/04/15

(執筆者:弁護士 福田泰親)

【Q.】
最近、うつ病に罹患する労働者が増加していると聞きましたが、従業員がうつ病に罹患した場合、当社は責任を負うのでしょうか。また、当社で何か対策をとるべきことはあるでしょうか。_

【A.】
1.はじめに
厚生労働省の自殺・うつ病等対策プロジェクトチームの発表*1によると、うつ病等の気分障害の総患者数は、平成8年には43.3万人であったのに対し、平成20年には104.1万人と12年間で2.4倍に増加しました。この患者数急増の背景には様々な要因があるとみられていますが、平成23年度における精神障害の労災請求件数が3年連続で過去最高を更新したこと(平成23年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」まとめ*2)に鑑みると、職場における労働環境が一つの要因になっていると考えられます。
*1 http://www.mhlw.go.jp/seisaku/2010/07/03.html
*2 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002coxc.html

2.使用者の法的責任
使用者には労働者の生命、身体等の安全に配慮しなければならないという義務があることは確立された判例(最三小昭50.2.25民集29巻2号143頁)であり、労働契約法5条にもこの義務が明記されています。そして、この安全の中には「労働者の健康」も含まれると解釈されています。よって、使用者は、労働者がうつ病に罹患しないように労働条件を整備しなければならず、既にうつ病に罹患している者がいる場合には、軽減勤務や休業等の措置をとらなければなりません。
これらの義務に違反し、労働者に損害を及ぼした場合には、債務不履行として損害賠償責任(民法415条)を負う可能性があり、使用者の故意・過失により労働者の権利を侵害したときには、不法行為として損害賠償責任(民法709条)を負う可能性があります。また、うつ病によって労働者の注意力が低下したことにより事故やトラブルが発生し、顧客や同僚などに損害を与えた場合には、使用者が使用者責任(民法715条)を負う可能性もあります。

3.具体的な方策
うつ病は様々な要因が重なって発症することが多く、身体面の病気とは異なり、見た目ではわかりにくいのが特徴です。また、労働者自身が自覚していない場合や、自覚していても言い出しづらいと感じている場合があります。そこで、使用者が労働者の不調に気づくための具体的方策として、労働者や管理監督者に対してうつ病への理解を深めるための教育研修の実施、事業場内に相談窓口や産業保健スタッフ等の設置、健康診断の促進などが考えられます。
また、長時間労働が継続すると、仕事の負荷が増加する一方で睡眠時間が減少することになるため、健康への影響が大きいと考えられています。そこで、時間外・休日労働時間を削減し、労働者に休息を与えることも重要な方策といえます。
なお、都道府県ごとに厚生労働省の委託を受けてメンタルヘルス対策支援センターが設置されており、対面や電話等による相談を受けつけているほか、専門家を事業場に派遣してのアドバイスなどの活動を行っています。このセンターは無料で利用することができますので、この機会に是非ご検討ください。

4.おわりに
精神疾患を有する労働者が年々増加している状況に鑑みると、企業におけるメンタルヘルスケア対策はもはや必須のものといえるでしょう。厚労省でも、うつ病を極めて重要な健康問題としてとらえた上で、心の健康を保つための対策を進めています。同省では、平成18年に「労働者の心の健康の保持増進のための指針」*3を策定してメンタルヘルスケアの進め方などを提言していますので、ご参照ください。
*3 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/roudou/an-eihou/dl/060331-2.pdf

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