(執筆者:弁護士 竹田千穂)
【Q.】
最近、特許法が改正され、職務発明制度についても改正があったと聞きました。その概要について教えてください。
【A.】
1.はじめに
「特許法等の一部を改正する法律案」は今年の7月3日に可決・成立し、同月10日に法律第55号として公布されました。今回の改正では、知的財産の適切な保護及び活用を実現するための制度を整備し、我が国のイノベーションを促進することを目的に、�@職務発明制度の見直し、�A特許料等の改定、�B特許法条約及び商標法に関するシンガポール条約の実施のための規定の整備が行われました。
今回は、事業者にとって特に関心の高い職務発明制度(特許法35条)の改正の概要について説明します。
2.職務発明制度の改正
「職務発明制度」とは、従業者等が職務上なした発明について、使用者等が特許権等を取得した場合の権利やその対価(報酬)の取り扱いについて定める制度です。
現行の法第35条では、�@特許を受ける権利は発明者に帰属し、使用者等が特許出願をするにはその権利を譲り受ける形となり、�A発明者は、特許を受ける権利を使用者等に承継させた場合、その対価を請求することができることとなっています。
今般、従業員のインセンティブを明確化することにより発明を奨励するとともに、企業が特許を円滑かつ確実に取得することにより知財戦略を迅速・的確に行い、企業競争力強化を図ることが可能になるとの観点から、この35条も改正されました。
改正のポイントは、次の通りです。
�@契約、勤務規則その他の定め(以下「規程等」)であらかじめ使用者等に特許を受ける権利を取得させることを定めた場合には、特許を受ける権利は発明が生まれたときから使用者等に帰属する
�A従業者等は、特許を受ける権利を使用者等に取得させた場合には、相当の金銭その他の経済上の利益を受ける権利を有する
�B経済産業大臣は、産業構造審議会の意見を聴いて、相当の金銭その他の経済上の利益の内容を決定するための手続に関する指針(ガイドライン)を定める
一方で、大学や中小企業の一部などには現行法の従業者等帰属を希望する法人もあることから、改正法下でも、使用者等が従業者等に対してあらかじめ規程等により帰属の意思表示をしなければ、特許を受ける権利を従業者等に帰属させることができます。
3.中小企業における現状と規程の意義
中小企業のうち、規程等を設けている会社は約2割にとどまっているのが現状です。しかし、発明が生まれたときから使用者等に帰属させたい場合や、原始的には従業者等に帰属するものの使用者等がその発明を譲り受けるためには、あらかじめ規程等を設けておく必要があります。
また、使用者等と従業者等との間で発明の対価に関する訴訟が起こる懸念もあるため、紛争防止の観点からも規程等を設けておくことは重要になります。
4.今後の予定
改正特許法は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されることになっています。
指針においては、�@相当の利益の内容を決定するための基準の策定に際して使用者等と従業者等との間で行われる協議、�A策定された当該基準の開示、�B相当の利益の内容の決定について行われる従業者等からの意見の聴取、といった適正な手続きの在り方や指針の目的等について定められる予定です。
そして、産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会がとりまとめる指針案について、今年末を目処にパブリックコメントを募集し、改正法が施行された後に経済産業大臣が指針を告示として公表する予定です。今後は、指針の策定の動向にも注目しましょう。
※改正法の詳細は、特許庁のHP(https://www.jpo.go.jp/torikumi/kaisei/kaisei2/tokkyohoutou_kaiei_270710.htm)をご覧ください。