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下請法運用基準の改正と「買いたたき」

2023/02/09

(執筆者:弁護士 植村一晴)
【Q.】
 先日、取引先から、「原材料費や電気料金等が高騰しているので、単価を引き上げさせてほしい」と要請されましたが、長年同じ単価で取引していたこともあり、「単価は据え置きにしてほしい」と伝え、従来どおりの単価で合意をしました。このような当社の行為は、下請法で禁止されている「買いたたき」に該当するのでしょうか。

【A.】
※今回のお話は、ご質問の件が下請法の適用対象となる取引であることを前提としています。適用対象となるかは、資本金規模と取引の内容で定義されていますので、詳しくは、公正取引委員会ホームページの「下請法の概要」をご参照ください。
公正取引委員会 https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/gaiyo.html

1.はじめに
 公正取引委員会による「買いたたき」に対する勧告または指導件数は、令和元年度には721件であったのが、令和2年度は830件と増加傾向にあり、令和3年度は866件と、実体規定違反全体(7878件)の11.0%に及んでいます。また、昨今は原油価格や原材料価格が高騰しており、中小企業等が上昇したコストを適切に転嫁できないおそれも懸念されています。こういった背景の下、令和3年12月27日に、内閣官房(新しい資本主義実現本部事務局)、消費者庁、厚生労働省、経済産業省、国土交通省及び公正取引委員会によって、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(※1)が取りまとめられました。
 その取り組みの1つとして、令和4年1月26日、公正取引委員会により「下請法に関する運用基準」(以下「運用基準」)が改正され、「買いたたき」の解釈が明確化されました。また、「違反行為情報提供フォーム」が新たに設置されています。
※1 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/partnership_package_set.pdf

2.買いたたきとは
(1)買いたたきの定義・判断基準
 親事業者と下請事業者の間で下請代金の額を決定するときに、発注した商品・役務等に対して、通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定めることは、「買いたたき」として下請法違反となります(下請法第4条第1項第5号)。
 買いたたきに該当するか否かについて、運用基準では、以下の(ア)〜(エ)等を総合的に勘案して判断するとされています。
(ア)下請代金の額の決定方法(下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等)
(イ)下請代金の額の決定内容(差別的であるかどうか等)
(ウ)通常支払われる対価と当該代金との乖離状況
(エ)当該給付に必要な原材料等の価格動向
(2)運用基準の改正内容
 従前の運用基準でも、下請事業者が労務費や原材料費の上昇分を取引価格に反映するよう求めたにもかかわらず、親事業者が一方的に単価を据え置くことは、買いたたきに該当するおそれがあるとしていました。
 令和4年の改正では、これに加えて、「エネルギーコストの上昇分も反映の対象に含めること」や、「下請事業者からの価格転嫁の求めに対して、明示的な協議が必要であること」「価格転嫁しない場合にはその理由を書面・電子メール等で回答する必要があること」が明確化されました。
 なお、運用基準では、そのほかの買いたたきの例として、親事業者の予算単価のみを基準として、一方的に通常の対価より低い単価で下請代金の額を定めた場合や、合理的な理由がないにもかかわらず特定の下請事業者を差別して取り扱い、ほかの下請事業者より低い下請代金の額を定めた場合などが挙げられています。
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3.「違反行為情報提供フォーム」の新設
 令和4年1月26日、買いたたきなどの下請法違反が疑われる親事業者について、下請事業者が匿名で通報できる窓口として、「違反行為情報提供フォーム」が公正取引委員会(※2)や中小企業庁(※3)のホームページ上に設置されました。
 このフォームで提供された情報は、独占禁止法上の優越的地位の濫用に関する緊急調査(公正取引委員会)や下請法上の定期調査(公正取引委員会、中小企業庁)における対象業種の選定、調査票の送付先の選定などに活用されます。匿名による情報提供が可能となり、通報のハードルが下がった分、親事業者としては、より慎重な対応を求められることになったと言えます。
※2公正取引委員会 https://www.jftc.go.jp/cgi-bin/formmail/formmail.cgi?d=joho
※3中小企業庁 https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/jigyokankyo/20220126

4.おわりに
 下請代金の額を決定する際は、下請事業者の事情を十分考慮して協議が尽くされたといえるかが重要となります。また、協議が行われた場合でも、それが十分でなかった場合や、前述の(イ)〜(エ)等の事情次第では、買いたたきに該当する可能性があります。買いたたきなどの下請法違反が懸念されるときは、(親事業者・下請事業者のいずれの立場でも)専門家へ相談することもご検討ください。

以 上

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