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マイナンバー情報:従業員がマイナンバーの提供を拒否した場合の対応・就業規則対応

2015/06/12

従業員が個人番号の提供を拒否した場合の対応と就業規則対応についてまとめましたのでご参照ください。(下記および別添PDFファイル)
他の規定については、平成27年6月8日の掲載をご参照ください。

1 従業員が個人番号の提供を拒んだ場合の一般的な対応
 平成28年(2016年)1月から、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「マイナンバー法」といいます。)に基づく税・社会保障・防災の分野で利用が開始します。
従業員が、自らの思想信条等に基づき、従業員本人または扶養家族の個人番号の提供や本人確認を拒んだ場合、事業者としてどのように対応すべきでしょうか?
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この点、内閣官房の「よくある質問」では以下のとおり質疑応答がなされています。
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Q4−2−5 税や社会保障の関係書類へのマイナンバー(個人番号)の記載にあたり、事業者は従業員等からマイナンバーを取得する必要がありますが、その際、従業員等がマイナンバーの提供を拒んだ場合、どうすればいいですか?
A4−2−5 社会保障や税の決められた書類にマイナンバーを記載することは、法令で定められた義務であることを周知し、提供を求めてください。それでも提供を受けられないときは、書類の提出先の機関の指示に従ってください。

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 さらに国税庁の「国税分野のFAQ」には以下のとおり記載されています。

Q2‐10_従業員や講演料等の支払先等から個人番号の提供を受けられない場合、どのように対応すればいいですか。
(答)
法定調書作成などに際し、個人番号の提供を受けられない場合でも、安易に個人番号を記載しないで書類を提出せず、個人番号の記載は、法律(国税通則法、所得税法等)で定められた義務であることを伝え、提供を求めてください。
それでもなお、提供を受けられない場合は、提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください。
経過等の記録がなければ、個人番号の提供を受けていないのか、あるいは提供を受けたのに紛失したのかが判別できません。特定個人情報保護の観点からも、経過等の記録をお願いします。
なお、法定調書などの記載対象となっている方全てが個人番号をお持ちとは限らず、そのような場合は個人番号を記載することはできませんので、個人番号の記載がないことをもって、税務署が書類を受理しないということはありません。

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 すなわち、事業者としては、個人番号の提供を拒んだ従業員に対して、「社会保障や税の決められた書類に個人番号を記載することは、法令で定められた義務である」ということを周知し、従業員に対して個人番号の提供を求める(督促する)ことが必要になります。また、そのことについて記録をしておく必要があります。
 既に従業員となっている者については、時期に応じて以下のような対応が考えられます。
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�@平成27年(2015年)12月末以前
平成27年(2015年)10月5日以降に、住民票のある者に個人番号が世帯ごとに簡易書留で送付されますが、事業者は、安全管理措置や本人確認措置などを講ずることを前提として、平成28年(2016年)1月以前であっても、従業員やその扶養家族から個人番号を事前収集することが認められます[1]。
この段階で提出する可能性のある個人番号を記載する書類としては、平成28年分の扶養控除等申告書があり得ますが、平成28年分の扶養控除等申告書を平成27年中に提出する場合は、個人番号を記載する義務はありません。(扶養控除等申告書は、その年の最初に給与の支払を受ける日の前日までに提出する義務があるので、通常は前年中に提出される場合が多いでしょう。)
 したがって、平成27年中に従業員に対して、従業員本人または扶養家族の個人番号の提供を求めたにもかかわらず、従業員が応じない場合は、本人、被扶養者の個人番号を記載せずに扶養控除等申告書を提出すればよいです。
�A平成28年1月以降
 給与支払に関する源泉徴収票については、平成28年1月1日以降の給与支払に関するものから従業員本人および扶養家族の個人番号を記載する必要がありますが、平成29年1月末が提出期限であるので、それまでの間に従業員から個人番号を取得すれば足ります。
他方、扶養控除等申告書は平成28年1月以降に提出分から従業員本人、扶養家族の個人番号を記載する必要があります。
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⇒したがって、平成28年12月末までに、扶養控除等申告書を提出するまでの間は従業員から従業員本人および扶養家族の個人番号を取得するタイムリミットはあると言えます。この間は、従業員に対して何回か個人番号の提供するよう督促し、そのことを記録しておくことが考えられます。なお、退職する従業員については、退職所得の源泉徴収票の税務署への提出期限は退職後1ヶ月以内とされているので、それ以前に個人番号を取得しなければならない場合もあります。

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 内閣官房の回答によれば、督促にもかかわらず、本人または扶養家族の個人番号を提出しなかった従業員がいる場合には、「書類の提出先の機関の指示に従ってください。」とされています。
 上記の国税庁の回答のとおり、督促をして、そのことを記録した場合は、従業員や扶養家族の個人番号が記載されていなくても、税務署等の個人番号利用事務実施者は源泉徴収票等の法定調書や届出書を受領してくれるのではないかと思われます。
 督促をしたことを明確化する一つの方法として、取扱規程等に以下のような規定を置くとともに、取扱規程等の運用記録の一つとして、
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役職員又は第三者が、当社の個人番号の提供の要求又は第●条に基づく本人確認に応じない場合には、番号法に基づくマイナンバー制度の意義について説明をし、個人番号の提供及び本人確認に応ずるように求め、そのことを記録するものとする。

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2 就業規則による対応
 従業員が個人番号の提供を拒んだ場合を想定した、より積極的な対応としては、就業規則に従業員に個人番号を提供することを求める規定を置くことです。次のような規定を置くことが考えられます。
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(1)採用時の提出書類への追加
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(採用時の提出書類)
第●条 労働者として採用された者は、採用された日から【 】週間以内に次の書類を提出(送付による方法を含む。以下本条において同じ。)又は提示しなければならない。
�@ 履歴書
�A 住民票記載事項証明書(個人番号が記載されていないものに限る。)
�B 自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。)
�C 資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。)
�D個人番号カード、通知カード又は個人番号が記載された住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書(個人番号カード又は通知カードについては提示の場合は原本の提示、送付の場合は写しの送付による。)
�E その他会社が指定するもの
2 前項の定めにより提出又は提示した書類の記載事項に変更を生じたときは、速やかに書面で会社に変更事項を届け出なければならない。

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【解説】
 採用時の提出書類として、マイナンバー法上の本人確認(番号確認)のために必要となる個人番号カード、通知カード又は個人番号が記載された住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書の提示又は送付を受けることを記載することが考えられます。
 通常は、「提出書類」とされていますが、本人確認においては、個人番号カード、通知カード又は個人番号が記載された住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書の提示を受けて確認し、その写し(コピー)を受領しない場合もありますので、「提示」による方法も追加しています。
 なお、「採用時の提出書類」としては、通常、「住民票記載事項証明書」が提出書類とされていますが、労働者の年齢や現住所を確認するために求めるものであり、これに個人番号が記載されていると目的外利用となるおそれがあるので、「住民票記載事項証明書(個人番号が記載されていないものに限る。)」との修正を行いました。
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(2)服務規律への追加
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(個人番号の提供の求め及び本人確認への協力)
第●条 労働者は、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(平成25年5月31日法律第27号、以下「番号利用法」という。)に基づき、会社の個人番号の提供の求め及び本人確認に協力しなければならない。

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【解説】
事業者による個人番号の提供の求め及び本人確認に協力しない場合については、懲戒事由に定めることを考えている社会保険労務士の先生もいらっしゃるようです。
懲戒事由の内容については、労働基準法上の制限はありませんが、労働契約法15条において、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」と定められており、懲戒事由に合理性がない場合、当該事由に基づいた懲戒処分は懲戒権の濫用に該当すると判断される可能性があります。
マイナンバー法に基づき、事業者は法定調書等に個人番号を記載することは義務であるものの、その場合に従業員がマイナンバー法違反になるわけではないことや、個人番号の提供がプライバシーに関する事項であることに鑑みると、たとえ、「けん責」のような軽微な懲戒処分であったとしてもやや行き過ぎの感があります。それが、従業員本人の個人番号ではなく、扶養家族の個人番号である場合はなおさらです。
そこで、服務規律に上記のような規定を置くことが考えられます。「服務規律」とは、労働者が企業組織の構成員として守るべきルール(行為規範)です。服務規律に反することは企業の秩序を乱すこと(企業秩序違反)であり、懲戒処分の対象となり得ますが、懲戒事由と違って必ず懲戒処分の対象となるわけではありませんので、社会的な納得感もあると思われます[2]。
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[2]服務規律として規定することについては、社会保険労務士事務所あおぞらコンサルティングの代表である池田直子先生からご助言を受けました。
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(3)懲戒事由への追加
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(懲戒の事由)
第●条 労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、けん責、減給又は出勤停止とする。
(略)
2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第●条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
�@〜�L (略)
�M 正当な理由なく会社の業務上重要な秘密(番号利用法上の特定個人情報ファイルを含む。)を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
�N その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。

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【解説】
 マイナンバー法67条において、個人番号関係事務実施の従事者が、正当な理由がないのに、その業務に関して取り扱った個人の秘密に属する事項が記録された特定個人情報ファイルを提供したときは、4年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することとされています。
 非常に重い刑事罰が適用されますので、このような場合は、会社の業務上重要な秘密を漏えいする場合と同様に懲戒解雇事由とすることが考えられます。

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弊事務所では、平成27年(2015年)から利用が開始するマイナンバー制度に対応する体制構築支援サービスを提供しております。

具体的には下記のサービスを提供しております。
〇マイナンバー制度に関する各種質問への対応
〇マイナンバー制度に関するコンサルティング
〇社内のマイナンバー対応に関する会議への出席・助言
〇マイナンバー制度に関する規程類の作成の支援(別添をご参照ください。)
〇社内におけるマイナンバー制度に関する講演

上記サービスについてパッケージで、1社あたり、50万円(外税)程度(難易度によっては100万円(外税)程度まで)で対応いたします。
上記の個別のサービスも提供しておりますのでご相談ください。

詳しくは下記にご連絡ください。

弁護士法人三宅法律事務所
弁護士 渡邉 雅之
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