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【顧客本位の業務運営に関する原則・第3回】『フィデュ—シャリー・デューティー』という用語を用いるべきではないか?

2017/12/01

【執筆者:渡邉雅之】
_渡邉雅之弁護士が執筆した『銀行における「顧客本位の業務運営に関する取組み方針」の概要』が週刊金融財政事情2017年12月4日号に掲載されました。
【連載】
【顧客本位の業務運営に関する原則】金融庁の評価する成果指標(KPI)
【顧客本位の業務運営に関する原則・第2回】各金融機関におけるKPIの紹介
【顧客本位の業務運営に関する原則・第3回】『フィデュ—シャリー・デューティー』という用語を用いるべきではないか?
【顧客本位の業務運営に関する原則・第4回】「顧客本位の業務運営に関する原則」はガバナンスの問題として捉えるべき
【顧客本位の業務運営に関する原則・第5回】利益相反の適切な管理
【顧客本位の業務運営に関する原則・第6回】「取組み状況の見直し」(具体的事例)について

今回は、顧客本位の業務運営に関する原則に関連して、『フィデュ—シャリー・デューティー』という用語を用いるべきではないか?ということについて検討いたします。

平成28年12月22日に公表された『金融審議会 市場ワーキング・グループ 報告 〜国民の安定的な資産形成に向けた取組みと 市場・取引所を巡る制度整備について〜 』においては、「顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)」とされて、「顧客本位の業務運営に関する原則」と「フィデュ—シャリー・デューティー」が同義とされていました。

しかしながら、平成29年3月30日に採択された「顧客本位の業務運営に関する原則」においては、前文の脚注1において、「フィデューシャリー・デューティーの概念は、しばしば、信託契約等に基づく受託者が負うべき 義務を指すものとして用いられてきたが、欧米等でも近時ではより広く、他者の信認に応えるべく 一定の任務を遂行する者が負うべき幅広い様々な役割・責任の総称として用いる動きが広がってい る。」との記述があるほかは、フィデュ—シャリー・デューティーについての言及はありません。

これは、本原則は、インベストメント・チェーンの中で、究極の目的は国民の安定的な資産形成につなげていくことにより、情報の非対称性がある金融取引をする中で、何らかの形で資産形成をしようとする国民が事業者を頼りにするような関係が生じた場合を幅広くカバーするところ、フィデュ—シャリー・デューティーといった場合、委託者と受託者が存在する関係ということで狭く解釈される懸念があるためです(大江亨(金融庁総務企画局市場課市場企画室長)『「顧客本位の業務運営に関する原則」の実践と今後の展開』(金融法務事情2017年7月10日号・2069号)10頁)。

市場ワーキンググループのメンバーであった神田秀樹教授は、『「顧客本位の業務運営に関する原則」と「フィデュ—シャリー・デューティー」は同意義である。ただし、「フィデュ—シャリー・デューティー」というと「信任義務」ということで狭く解する人もいるので、「フィデュ—シャリー・デューティー」と言わず、「顧客本位の業務運営に関する原則」と日本語で読んでもよいこととしたものである。』、『_ここにいう「フィデュ—シャリー・デューティー」は広い意味で、役割・責任という日本語を宛てているので、英語で言えば”fiduciary responsibility”とか、あるいは、「フィデュ—シャリー原則」と呼んだ方がよい概念である。』とされています(『「顧客本位の業務運営に関する原則」の実践と今後の展開』(金融法務事情2017年7月10日号・2069号)10頁)。

本原則違反の効果に関して、金融庁は、『本原則を採択した金融事業者が、原則1.に基づいて策定・公表した方針とは異なる対応をとっていたことをもって直ちに金融商品取引法等の違反となるものではないが、法令違反と判断される事象があった場合には、法令に則り厳正に対処する必要があると考えられる。』(コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方(以下「パブコメ回答」といいます。)62番)、『本原則はプリンシプルベース・アプローチを採用しており、採択した金融事業者にはベスト・プラクティスを目指して主体的に創意工夫を発揮することが求められることから、本原則への対応状況に問題があることを理由として直ちに行政処分を行うことは想定していない。ただし、これまで同様、法令違反と判断される事象があった場合には、法令に則り厳正に対処する必要があると考えられる。』(パブコメ167番、168番)としています。

この点については、本原則により、金融事業者は、指導・助言義務等の法的義務を負ってしまう可能性があるとする見解もあります(梅澤拓弁護士『「顧客本位の業務運営に関する原則」の実践と今後の展開』(金融法務事情2017年7月10日号・2069号)12頁)。この見解は、リスク性商品の販売で「指導・助言義務」があるとの最高裁判例の補足意見(最判平成17年7月14日民集59巻6号1323頁)があるところ、本原則の取組方針を各社が公表することにより、例えば、「顧客の最善の利益を尽くします」と宣言した場合、顧客に対して指導・助言義務的なものを引き受けていると見られる余地があり、結果責任を負うことになりかねないとするものです。

これに対して、前述の神田教授は、直ちに法的義務違反とはならないとの見解を示されています(神田秀樹教授『「顧客本位の業務運営に関する原則」の実践と今後の展開』(金融法務事情2017年7月10日号・2069号)13頁)。すなわち、本原則は「法律」の問題というよりは「経営」の問題であり、違反という概念はなじまないものである、としています。

フィデュ—シャリー・デューティーについての水平レビュー
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筆者が調べた限り、銀行の取組方針や実施状況(アクションプラン)において「フィデュ—シャリー・デューティー」についての言及しているのは、大手行(外国銀行支店含む)では、44行中12行(約27%)、地方銀行では90行中27行(30%)とあまり多くありません。

これは、「フィデュ—シャリー・デューティー」と言及することにより、金融商品の販売・運用等について、指導助言義務や信任義務などの新たな義務を負うことになることを懸念したものではないかと思われます。

「フィデュ—シャリー・デューティー」を「取組方針」や「基本方針」のタイトルにしている金融機関においても、その意義について説明している金融機関は少ないです。これらの金融機関においては、「取組方針」や「基本方針」(およびアクションプラン)を含めて全体が「フィデュ—シャリー・デューティー」と考えているものと推測されます。

また、国際的に業務展開をしている大手行の場合には、国内では法令違反と解されないとしても、国外では信任義務を負うと解される可能性があるため、「フィデュ—シャリー・デューティー」という用語を取組方針や実施状況で用いるのを意図的に避けるインセンティブもあります。

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