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2018.11.28
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【相続法改正】配偶者居住権・配偶者短期居住権

(執筆者:渡邉雅之

〇連載
【相続法改正】施行日政令・預貯金の仮払いの限度額
【相続法改正】相続法改正の経緯と概要
【相続法改正】配偶者居住権・配偶者短期居住権
【相続法改正】長期間婚姻している夫婦間での居住用建物の贈与に関する改正
【相続法改正】遺産分割前の預貯金債権の仮払いを認める改正

今回は、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(平成30年法律第72号)に定める配偶者の居住権を確保するための制度(配偶者居住権・配偶者短期居住権)について説明いたします。
 
Q1 旦那様が亡くなった場合奥様は旦那様と居住されていた建物に、無条件で無償で住み続けられるのでしょうか?
 
A 配偶者(奥様)が被相続人(旦那様)の買った建物に相続開始時点で、無償で居住している必要があります。その条件を満たしていれば6カ月間は、無条件かつ無償で住み続けられます(配偶者短期居住権)。それ以降になると、遺産分割または遺贈あるいは裁判所の審判が必要になります(配偶者居住権)。

1.配偶者居住権が認められた背景
 近年の高齢化社会の進展により相続開始時点で配偶者が既に高齢となっている事案が増加していますが、平均寿命の伸長に伴い、そのような場合でもその配偶者がその後長期間にわたって生活を継続することも少なくありません。その配偶者としては、住み慣れた自宅で住む権利を確保しつつ、その後の生活資金も一定程度相続したいと考える人が多いようです。
現行民法の下では、配偶者が従前居住していた建物に住み続けたいなら、
 
①配偶者がその建物の所有権を取得する
または
②その建物の所有権を取得した他の相続人との間で賃貸借契約等を締結する
 
という二つの方法が考えられます。
しかし,前者の方法(上記①)では、居住建物の評価額が高額となり、配偶者がそれ以外の遺産を取得できず、その後の生活に支障を来すケースがありました。
 
後者の方法(上記②)では、その建物の所有権を取得する者との間で賃貸借契約等が成立することが前提となるため、契約が成立しなければ、配偶者の居住権は確保されません。
 
配偶者居住権の制度は、配偶者に居住建物の使用のみを無償で認め、収益権限や処分権限のない権利を創設(建物の財産的価値を居住権とその残余部分に分けて考える)しました。その結果遺産分割の際に、配偶者が居住建物の所有権を取得する場合よりも低い価額で居住権(終身・無償の居住権)を確保できるようになりました。
 
2 配偶者居住権の制度の施行日
配偶者居住権の制度は、2020年4月1日から施行されます。配偶者居住権の制度は、施行日後に開始した相続について適用され、施行日前に開始した相続については、適用されません。

Q2 配偶者居住権が認められるための要件と存続期間について教えてください。
 
A 配偶者居住権が認められるための要件は、被相続人(旦那様)の配偶者(奥様)被相続人(旦那様)の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、相続人間の遺産分割または遺言による贈与(遺贈)、あるいは、裁判所による審判により認められます。
存続期間は、原則配偶者が亡くなるまで終身の間ですが、遺産分割協議や遺言で一定期間とすることが可能です。
1.配偶者居住権が認められるための要件
(1)遺産分割または遺贈による取得
 被相続人(旦那様)の配偶者(奥様)は、被相続人(旦那様)の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次のいずれかに該当するときは、その居住建物の全部について無償で使用および収益をする権利(「配偶者居住権」)を取得します(改正民法1028条1項)。
①遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
②配偶者居住権が遺贈(遺言により無償で贈与されること)の目的とされたとき。 
 
 ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の第三者と共有していた場合は、配偶者居住権は成立しません(同条1項ただし書)。例えば、居住建物の所有権が旦那様(被相続人)とその兄弟の共有のような場合が当たります。これは、被相続人の遺言や共同相続人間の遺産分割によって当該第三者に配偶者による無償の居住を受忍するという負担を生じさせることはできないからです。旦那様(被相続人)が建物について共有持分のみを有する場合には、奥様(配偶者)とともに共有している場合に限って配偶者居住権が成立します。
また、配偶者が居住建物の共有持分を有することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しません(同条2項)。例えば、旦那様(被相続人)から奥様(配偶者)が配偶者居住権を遺贈される一方で、居住建物の所有権については何ら遺言がなされていなかった場合には、奥様(配偶者)は共同相続人の一人として居住建物についても遺産共有持分を有することになりますが、このような場合であっても、配偶者居住権は成立します。
 
(2)審判による配偶者居住権の取得
 遺産の分割の請求を受けた家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り、配偶者が配偶者居住権を取得する旨を定めることができます。
①共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき。
②配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があると認めるとき(①に掲げる場合を除く。)。
 
2.配偶者居住権の存続期間
 配偶者居住権の存続期間は、原則、配偶者の終身の間(配偶者が亡くなるまでの間)です。
ただし、遺産の分割の協議もしくは遺言に別段の定めがあるとき、または家庭裁判所が遺産の分割の審判において別段の定めをしたときは、配偶者居住権の存続期間を一定期間に制限できます。

Q3 配偶者居住権の登記が必要になるケースを教えてください。
 
A 配偶者居住権を取得した配偶者が居住建物の所有者でない場合、登記する必要があります。登記していれば、仮に所有者が第三者に居住建物を売却した場合でも第三者に対抗できます。また、第三者が建物の使用を妨害する場合には、妨害排除請求権を行使できるようになります。

1 配偶者居住権の設定登記義務
居住建物の所有者は、配偶者(配偶者居住権を取得した配偶者に限る。)に対し、配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います(改正民法1031条1項)。これは、配偶者に居住建物所有者に対する登記請求権を認めたものに過ぎず、配偶者による登記の単独申請を認めたものではありません。
 
2 対抗力、妨害停止請求
配偶者居住権の設定登記には、対抗要件としての効力があります(改正民法1031条2項、605条)。
すなわち、配偶者居住権を登記していれば、建物の所有権が居住建物所有者から第三者に譲渡されても、当該第三者に対しても配偶者居住権を主張できます。また、銀行や信託銀行等の金融機関が、居住建物に抵当権等を設定してこれを実行して第三者に譲渡された場合においても、当該第三者に対しても配偶者居住権を主張することができます。
また、第三者が建物の使用を妨害する場合には、妨害排除請求権等を有します(改正民法1031条2項、605条の4)。

Q4 配偶者は配偶者居住権の対象である居住建物を使用上の注意点はなんですか?
 
A 配偶者は、善管注意義務に基づき居住建物を使用・収益しなければなりません。また、配偶者居住権は第三者に譲渡できず、居住建物の増改築や第三者への使用収益のためには居住建物の所有者の承諾が必要です。

1 善管注意義務(改正民法1032条1項)
配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用および収益をしなければなりません。
2 譲渡の禁止(同条2項)
配偶者居住権は、配偶者に一身専属的なものであり、第三者に譲渡することができません。
3 増改築・第三者の使用収益(同条3項)
配偶者は、居住建物の所有者の承諾を得なければ、居住建物の改築もしくは増築をし、または第三者に居住建物の使用もしくは収益をさせることができません。
 転貸をする場合は、賃貸借の転貸の規定が準用されます(同法1036条、613条)。
4 用法違反による消滅の意思表示(同法1032条4項)
配偶者が上記1または3に違反した場合において、居住建物の所有者が相当の期間を定めてその是正の催告をし、その期間内に是正がされないときは、居住建物の所有者は、当該配偶者に対する意思表示によって配偶者居住権を消滅させることができます。

Q5 配偶者は配偶者居住権の対象の居住建物を勝手に修繕してはいけませんか?
 
A 配偶者は、居住建物の使用・収益に必要な修繕ができます。配偶者がこれをしない場合は、居住建物所有者が修繕できます。必要な修繕以外の修繕は、配偶者は居住建物所有者に遅滞なくその旨を通知しなければなりません。必要な修繕費用は原則配偶者が負担します。それ以外の修繕費用は、その価格の増加が現存する限り、居住建物所有者の選択に従い、配偶者の支出した金額または増価額を償還させることができます。
1 配偶者による必要な修繕(改正民法1033条1項)
配偶者は、居住建物の使用および収益に必要な修繕できます。
「修繕」は、台風で屋根が破損した場合に直したり、水道管が故障した場合に修理したりする場合がこれに該当します。
これに対して、「増改築」の「増築」とは建物に工作を加えて床面積を増加させることで、付属建物を新たに建築することも含まれ、「改築」とは従前の建物に代えて建物を建築することです(床面積が増加すれば、「増築」も併せて行ったことになります)。建物の「修繕」であっても、「建物の存続期間に影響を及ぼす大修繕」は、「増改築」に該当します。
バリアフリー対応にすることは「増改築」、屋根や壁を塗り直すだけであれば「修繕」に該当します。
2 居住建物所有者による修繕(同条2項)
居住建物の修繕が必要である場合において、配偶者が相当の期間内に必要な修繕をしないときは、居住建物の所有者は、その修繕をすることができます。
3 居住建物の修繕を要するときの通知義務(同条3項)
居住建物が修繕を要するとき(上記1の配偶者が自らその修繕をするときを除きます)、または居住建物について権利を主張する者があるときは、配偶者は、居住建物の所有者に対し、遅滞なくその旨を通知しなければなりません。ただし、居住建物の所有者が既にこれを知っているときは、通知は不要です。
ここでいう権利を主張する者とは、例えば、被相続人の生前に、被相続人から居住建物の譲渡を受けたと主張する第三者を指します。
 
4 費用負担(同法1034条)                                 
配偶者は、居住建物の通常の必要費(建物の破損部分の修理等の費用)を負担しなければなりません。
居住建物の有益費(建物の増築費用等)など必要費以外の費用については、その価格の増加が現存する場合に限り、居住建物所有者の選択に従い、配偶者の支出した金額または増価額を償還させることができます。ただし、有益費の償還については,裁判所が相当の期限を与えることができます。
5 損害賠償・費用の請求期間(同法1036条、600条)
配偶者の契約の本旨に反する使用・収益による損害の賠償、および、配偶者が支出した費用の償還は居住建物取得者が返還を受けてから1年以内に請求しなければなりません。

Q6 配偶者居住権はどのような場合に消滅しますか?仮に配偶者が居住建物について共有持分を有する場合にも居住建物を返還する必要がありますか?
 
A 配偶者居住権は、配偶者の死亡や遺贈・遺産分割の審判により期間を定めた場合その期間の満了した場合などに消滅します。配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければなりませんが、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができません。
1 配偶者居住権が消滅する場合
 配偶者居住権が消滅するのは以下の場合です。
l  配偶者の死亡した場合(1036条、597条3項)
l  遺贈・遺産分割の審判により期間を定めた場合その期間の満了した場合(1036条、597条1項)
l  用法違反により居住建物所有者が消滅の意思表示をした場合(1032条4項)
l  居住建物の全部が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合(1036条、616条の2)
 
2 居住建物の返還(1035条1項)
配偶者は、配偶者居住権が消滅したときは、居住建物の返還をしなければなりません。ただし、配偶者が居住建物について共有持分を有する場合は、居住建物の所有者は、配偶者居住権が消滅したことを理由としては、居住建物の返還を求めることができません。
 
3 配偶者が相続の開始後に附属させた物がある居住建物または相続の開始後に生じた損傷がある居住建物の返還をする場合(1035条2項)
 配偶者は、居住建物を受け取った後にこれに附属させた物がある場合において、配偶者居住権が終了したときは、その附属させた物を収去する義務を負います。ただし、居住建物から分離することができない物または分離するのに過分の費用を要する物については、収去義務はありません。附属させた物とは、壁に塗られたペンキや障子紙などのことをいいます。
 
また、配偶者は、居住建物を受け取った後にこれに附属させた物を収去することができます。配偶者は、居住建物を返還する場合、原状回復義務を負いますが、通常損耗や経年劣化に関する原状回復義務はありません。
「通常損耗」とは、どんなに気をつけていても、生活していく上で小さな傷や跡、汚れなどのことです。例えば、カレンダーやポスターなど掲示物を壁に貼るために画鋲を使用した穴や、家具の設置による床やカーペットの凹み・設置跡、下地ボードに影響しない程度の画鋲の跡、テレビや冷蔵庫などの後ろの黒ずみ(電気焼け)などです。
「経年劣化」とは、例えば、ネジや釘が錆びてスムーズに動かなくなったり、普段使っていなかった押し入れの引き戸が歪んで、開閉時に音が鳴るようになったりといった場合や日光によるフローリングや畳の色あせ、壁紙の日焼けなどです。
これに対して、無数の画鋲の跡や下地のボードまで貫通するような釘の使用は故意と見なされるため、「通常損耗」に含まれません。また、子供が壁に絵を描いたり、汚してしまったりしたケースは、子供自身が故意に行っているものではありませんが、親はその行為を制止し、適切に部屋を管理する義務があるので、子供が部屋を汚した場合は、「通常損耗」には含まれません。これらについては原状回復義務を負います。

Q7 配偶者居住権の価値はどのように評価しますか?
 
A 「建物敷地の現在価値」から「配偶者居住権付所有権の価値」を控除した価格が「配偶者居住権の価値」です。法務省作成の資料を基に価値の計算方法を知りましょう。

1.配偶者居住権の価値評価(簡易な評価方法)
遺産分割の実務においては、建物の評価方法として、固定資産税評価額が広く利用されています。また、相続税評価においては、家屋の評価はその家屋の固定資産税評価額と同額とされています。
このような実務の状況をふまえ,配偶者居住権の対象となる居住建物についても、その固定資産税評価額をベースとした評価を行う方法が考えられます。
例えば、配偶者居住権の負担が付いた建物所有権(「配偶者居住権付所有権」)に着目し、配偶者居住権を設定した場合に建物所有者が得ることとなる利益の現在価値を配偶者居住権付所有権の価額とした上で、その価額を(何らの制約がない)建物所有権の価額から差し引いたものを配偶者居住権の価額とすることが考えられます。

【評価の具体例】
(事例)
・同年齢の夫婦が35歳で自宅(木造)を新築。
・妻が75歳の時に夫が死亡。
・その時点での土地建物の価値:4200万円(注)。
(注)東京近郊(私鉄で中心部まで約15分、駅徒歩数分)の実例(敷地面積90平米、木造2階建て、4DK+S、築40年)を参考に作成。
・負担付所有権の価値:2700万円(注)
(注)終身の間(平均余命を前提に計算)の配偶者居住権を設定したものとして計算。この事例では、配偶者居住権消滅時の建物の価値が0円となるため、土地の価格(4200万円)を法定利率年3%で15年分割り戻したもの。
➡配偶者居住権の価値(1500万円)=建物敷地の現在価値(4200万円)-負担付所有権の価値(2700万円)

この事例において、75歳の妻は平均余命から計算すると約90歳までこの土地建物を使うと推定できます。つまり配偶者居住権の負担付の所有権の価値は、約15年間は利用できないため、土地の価格(4200万円)を法定利率年3%で15年分割り戻した場合(配偶者居住権消滅時の建物の価値を0円とする。)、2700万円となります。通常は4,200万円の価値がある物件にも関わらず、配偶者居住権がついているため2,700万になるということは、つまり配偶者居住権は4,200万円-2,700万円の1,500万円価値となります。

Q8 遺贈や遺産分割により、配偶者居住権が認められない場合には、配偶者(妻)は被相続人(死亡した夫)の居住建物に無償で居住することは一切できないのでしょうか?
 
A 配偶者は、相続開始時に被相続人の建物(居住建物)に無償で住んでいた場合には、遺言や遺産分割で配偶者居住権が認められなくても、相続開始後最低6カ月間、居住建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を取得します。

1.現行制度(最判平成8年12月17日の判例法理)
最高裁判例(最判平成8年12月17日)により、相続人である配偶者(妻)が被相続人(死亡した夫)の許諾を得て旦那様所有の建物に同居していた場合には、被相続人と相続人である配偶者との間で、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認されると解されてきました。これにより、この要件に該当する限り、相続人である配偶者は、遺産分割が終了するまでの間の短期的な居住権が確保されることとなりました。
同判例は、現行法の下で、前記の問題を解決するために苦心して考えられた法的構成であるとの評価もされていますが、あくまでも当事者間の合理的意思解釈に基づくものであるため、被相続人(死亡した夫)が明確にこれとは異なる意思を表示していた場合等には、配偶者の居住権が短期的にも保護されない事態が生じ得ます。例えば、被相続人(死亡した夫)が配偶者(妻)の居住建物を第三者に遺贈した場合には、被相続人(死亡した夫)の死亡によって建物の所有権を取得した当該第三者からの退去請求を拒めません。
2.配偶者短期居住権                                      
上記1の問題点を解消するため、相続法改正により、配偶者短期居住権が認められました。
配偶者は、相続開始時に被相続人の建物(居住建物)に無償で住んでいた場合には、遺言や遺産分割で配偶者居住権が認められなくても、① 配偶者が居住建物の遺産分割に関与する場合は居住建物の帰属が確定する日までの間(ただし、最低6カ月間は保障)、② 居住建物が第三者に遺贈された場合や配偶者が相続放棄をした場合には居住建物の所有者から消滅請求を受けてから6カ月以下の期間、居住建物を無償で使用する権利(配偶者短期居住権)を取得します。
3 配偶者居住権の制度の施行日                                      
配偶者短期居住権の制度は、2020年4月1日から施行されます。
配偶者短期居住権の制度は、施行日後に開始した相続について適用され、施行日前に開始した相続については、適用されません。

Q9 配偶者短期居住権が認められるための要件および存続期間について教えてください。
 
A 要件は、配偶者が相続開始時に被相続人の建物に無償で住んでいることです。
  存続期間は、6カ月です。詳しく解説すると
① 配偶者が居住建物の遺産分割に関与するときは,居住建物の帰属が確定する日までの間(ただし、最低6カ月間は保障)
② 居住建物が第三者に遺贈された場合や,配偶者が相続放棄をした場合には居住建物の所有者から消滅請求を受けてから6カ月となります。
1 配偶者短期居住権の成立要件
配偶者が、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に無償で居住していた場合に、以下のいずれかの場合に、それぞれに定める日までの間、その居住建物の所有権を相続または遺贈により取得した者(居住建物の取得者)に対し、居住建物について無償で使用することができる権利(居住建物の一部のみを無償で使用していた場合は、その部分について無償で使用する権利)を取得します。
①居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合
 遺産の分割により居住建物の帰属が確定した日または相続開始の時から6カ月を経過する日のいずれか遅い日までの間
②①に掲げる場合以外の場合※配偶者以外の者が遺言・死因贈与で取得した場合や、配偶者が相続放棄をした場合
 居住建物取得者が配偶者短期居住権の消滅の申入れをした日から6カ月を経過する日までの間

2 配偶者居住権との関係
 配偶者が、相続開始の時において居住建物に係る配偶者居住権を取得したときは、「配偶者短期居住権」は成立しませんが、配偶者が困ることはないため問題になりません。
                                                                                                                       
その他相続人の欠格事由もしくは廃除によってその相続権を失ったときも、「配偶者短期居住権」は成立しません。「相続人の欠格事由」とは、相続人が故意に被相続人や相続について先順位・同順位にある者を死亡するに至らせ、または至らせようとしたために、 刑に処せられた場合などです。「相続人の廃除」とは、相続人から虐待を受けたり、重大な侮辱を受けたりしたとき、またはその他の著しい非行が相続人にあったときに、被相続人が家庭裁判所に請求して虐待などした相続人の地位を奪うことをいいます。 

3 居住建物所有者による妨害の禁止
 居住建物所有者は、第三者に対する居住建物の譲渡その他の方法により配偶者の居住建物の使用を妨げてはなりません。これは、配偶者居住権と異なり、配偶者短期居住権には登記制度や対抗要件は認められないため求められるものです。

4 居住建物所有者による消滅の申入れ                         
 居住建物取得者は、居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合(上記1①の場合)を除いて、いつでも配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができます。

Q10 配偶者短期居住権は配偶者居住権とどのような点が異なりますか?
 
A 配偶者が相続開始時に被相続人の建物に無償で居住している場合に、居住建物に無償で居住できる点は同じです。配偶者短期居住権は、配偶者居住権と異なり、遺産分割や遺贈、家庭裁判所の審判がなくても認められるものです。配偶者居住権の存続期間は最低6カ月間ですが、配偶者居住権は、配偶者の終身の間または遺産分割や遺言で認められた間認められます。配偶者居住権は、登記制度があり対抗要件・妨害排除請求権がありますが、配偶者短期居住権にはこれらの権利はありません。
〇配偶者短期居住権と配偶者居住権の比較
  配偶者短期居住権 配偶者居住権
成立要件 配偶者が相続開始時に被相続人の建物に無償で居住(⇒当然に成立) ①配偶者が相続開始時に被相続人の建物に無償で居住
②遺産分割・遺贈・審判により取得
存続期間 ①遺産分割確定まで(ただし、最低6カ月間は保障)
② 居住建物が第三者に遺贈された場合や配偶者が相続放棄をした場合には居住建物の所有者から消滅請求を受けてから6カ月
配偶者の終身の間。ただし、遺産分割協議、遺言、家庭裁判所の遺産分割の審判で期間を定められる。
登記制度 登記制度なし。 登記制度あり。
対抗要件・妨害排除請求権 なし。 あり。
配偶者の使用上の義務 ①善管注意義務
②譲渡禁止
③第三者の使用収益の承諾
④用法違反による消滅の意思表示
①善管注意義務
②譲渡禁止
増改築・第三者の使用収益の承諾
④用法違反による消滅の意思表示
居住建物の修繕 同右 ①配偶者による必要な修繕
②居住建物所有者による修繕
③居住建物の修繕を要するときの通知義務
④費用負担
⑤損害賠償・費用の請求期間
消滅事由 ①配偶者短期居住権の有効期間が経過した場合
②配偶者居住権について用法違反があり、居住建物取得者が消滅請求をすることができる場合
③配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得した場合
④配偶者の死亡
⑤建物が全部滅失等の場合
①配偶者の死亡
②遺贈・遺産分割の審判により期間を定めた場合その期間の満了
③用法違反により居住建物所有者が消滅の意思表示をした場合
④居住建物の全部が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合
 
Q11  配偶者居住権や配偶者短期居住権の実務上の影響について教えてください
 
A 配偶者居住権は遺贈(遺言による贈与)により設定できるので、遺言執行者はこの制度の内容を理解しておく必要があります。金融機関は、融資の際の建物の価値を算定する際に、配偶者居住権の登記があるかどうか、配偶者居住権がついていることを前提に建物の価値を算定する必要があります。
 配偶者短期居住権は、登記制度や第三者対抗要件がなく、また、短期のものなので、金融機関の実務に与える影響は低いものと考えられます。
1 配偶者居住権の実務上の影響
 配偶者居住権の制度の施行により、被相続人の配偶者が、遺言による贈与(遺贈)により配偶者居住権を取得する場合がでてきます。したがって、遺言執行者となる者(信託銀行や信託会社等を含む。)は、配偶者居住権の内容、効力を十分に理解しておく必要があります。
 また、Q3のとおり、配偶者居住権は、登記をすることにより、対抗要件を具備することになり、居住建物の所有者が、建物の所有権譲渡を受けた第三者や金融機関が設定した抵当権や譲渡担保権のような担保物権にも対抗できます。
したがって、銀行や信用金庫などの金融機関が、融資を行うに際して建物に担保を設定する場合は、配偶者居住権の登記の有無・その存続期間を調査した上で、担保権の評価をする必要があります。
 
2 配偶者短期居住権の実務上の影響
配偶者短期居住権は、被相続人の配偶者の居住建物について、遺産分割や遺言の内容にかかわらず、配偶者が共同相続人や遺言等によりその建物を取得した者に対して当然に主張できる権利す。したがって遺言執行者(信託銀行や信託会社を含む)となる場合においては、配偶者居住権に配慮した遺言執行をする必要あります。
配偶者短期居住権は登記制度や第三者対抗力を有しないので、銀行や信用金庫はその有する抵当権や担保権等を実行した場合、配偶者短期居住権のない建物の処分をすることができます。したがって、配偶者居住権と比べると金融機関の実務上の影響は低いものです。もっとも、相続法改正により、配偶者保護の要請が高くなっていることに鑑みると、配偶者短期居住権の存在を無視した安易な担保権の実行は差し控えるべきでしょう。