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2018.11.26
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【相続法改正】相続法改正の経緯と概要

(執筆者:渡邉雅之

〇連載
【相続法改正】施行日政令・預貯金の仮払いの限度額
【相続法改正】相続法改正の経緯と概要
【相続法改正】配偶者居住権・配偶者短期居住権
【相続法改正】長期間婚姻している夫婦間での居住用建物の贈与に関する改正
【相続法改正】遺産分割前の預貯金債権の仮払いを認める改正

 今回は、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(平成30年法律第72号)の制定の経緯と概要について説明します。

第1 相続法改正の経緯
1 非嫡出子の相続分を意見とする最高裁判決
 平成25年(2013年)9月4日に最高裁判所大法廷により、「嫡出でない子の法定相続分を嫡出子の法定相続分の2分の1」とする民法の規定が憲法に反するといういわゆる違憲判決がでました。法律の規定が憲法に違反していると判断されるのは極めて珍しいことで、この判決がきっかけで「民法の一部を改正する法律」(平成25年法律第94号)が成立し、同部分を削除する改正がされました(民法900条4号ただし書)。
 
2 相続法制検討ワーキングチームにおける検討
上記1の改正法案を国会審議の過程で、各方面から,民法改正が及ぼす社会的影響に対する懸念や配偶者保護の観点からの相続法制の見直しの必要性など、様々な問題提起がされました。
これらの指摘等をふまえ、新たに設置された法務省の相続法制検討ワーキングチームは、平成26年(2014年)1月から平成27年(2015年)1月までの間、合計11回にわたり開催され、相続法制に関する問題点を洗い出しました。
同ワーキングチームでは、主として
①配偶者の一方が死亡した場合に、相続人である他方の配偶者の居住権を法律上保護するための措置
②配偶者の貢献に応じた遺産の分割等を実現するための措置
③寄与分制度の見直し
④遺留分制度の見直し
 
の四点について検討を行い、平成27年1月28日に「相続法制検討ワーキングチーム報告書」を公表いたしました。
 
3 法制審議会 民法(相続関係)部会
(1)2015年から改正のための審議を開始
 上記2の相続法制ワーキングチームの報告書を受けて、平成27年(2015年)2月24日、法制審議会総会(第174回会議)において、以下の諮問がなされました。
〇民法(相続関係)の改正について(諮問第100号)
 高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み、配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から、相続に関する規律を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい。
 
 これを受けて、平成27年4月21日(第1回)より、法制審議会民法(相続関係)部会(部会長:大村敦志東京大学教授)において審議が開始され、合計26回の会議が平成30年1月16日までなされました。
(2)中間試案
 平成28年(2016年)6月21日に開催された法制審議会民法(相続関係)部会第13回会議において、「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」が取りまとめられました。
 中間試案においては、
①配偶者の居住権を保護するための施策(短期居住権・長期居住権の新設)、
②遺産分割に関する見直し(配偶者の相続分の見直し等)、
③遺言制度に関する見直し(自筆証書遺言の方式の緩和、保管制度の創設)
④遺留分制度に関する見直し
⑤相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
に関する試案が示されました。
 
(3)最高裁大法廷決定・追加試案
 平成28年12月19日最高裁大法廷決定において、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権および定期貯金債権は、いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となるとの判断が示されました。
 中間試案のパブリックコメントで寄せられた意見や最高裁大法廷決定を受けて、法制審議会民法(相続関係)部会においても追加の検討がなされ、平成29年(2017年)7月18日に「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」がとりまとめられました。
追加試案においては、「仮払い制度等の創設・要件明確化」(相続された預貯金債権について,生活費や葬儀費用の支払,相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう,遺産分割前にも払戻しが受けられる制度を創設)等の案が示されました。
4 要綱の採択・国会への法案の提出・成立
 平成30年(2018年)2月16日、法制審議会総会において、「民法(相続関係)等の改正に関する要綱」採択され、同年3月13日に閣議決定を経て、「民法および家事事件手続法の一部を改正する法律案」が国会(衆議院先議)に提出されました。
 同法案は、同年7月6日に国会で成立し、同月13日に「民法および家事事件手続法の一部を改正する法律」(平成30年7月13日法律第72号)が公布されました。

 
〇改正の経緯
H25.9.4 最高裁大法廷違憲判決
  民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分は憲法違反
H25.12.5 民法の一部を改正する法律成立
  民法900条4号ただし書前半部分(非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とする部分)を削除
H27.1.28 相続法制検討ワーキングチーム報告書 公表
H27.2.24 法制審議会総会第174回会議 民法(相続関係)の改正について(諮問第100号)
  「高齢化社会の進展や家族の在り方に関する国民意識の変化等の社会情勢に鑑み、配偶者の死亡により残された他方配偶者の生活への配慮等の観点から、相続に関する規律を見直す必要があると思われるので、その要綱を示されたい。」
H27.4.21 法制審議会 民法(相続関係)部会(部会長:大村敦志東京大学教授) 第1回 審議開始
H28.6.21 「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」 取りまとめ
H28.12.19 最高裁大法廷決定 H28.12.19民集70.8.2121
  共同相続された普通預金債権、通常貯金債権および定期貯金債権は、いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることなく、遺産分割の対象となる
H29.7.18 「中間試案後に追加された民法(相続関係)等の改正に関する試案(追加試案)」 取りまとめ
H30.2.16 法制審議会総会 民法(相続関係)等の改正に関する要綱 採択
H30.7.6 民法および家事事件手続法の一部を改正する法律案 国会で成立・公布(平成30年7月13日法律第72号)
施行 原則:2019年7月1日(自筆証書遺言の要件の緩和は2019年1月13日、配偶者居住権・配偶者短期居住権は2020年4月1日、遺言書保管制度は2020年7月10日
 
第2 改正法の概要
 改正法(「民法および家事事件手続法の一部を改正する法律」)の概要を整理しましょう。
1 配偶者の居住権を保護するための方策
(1)配偶者短期居住権
ア 居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合の規律
 配偶者は相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合、遺産分割によりその建物の帰属が確定するまでの間または相続開始の時から6カ月を経過する日のいずれか遅い日までの間、引き続き無償でその建物を使用できます。
 
 つまり、旦那さんが死んでしまった奥様は、遺産分割の手続が終わるまでもしくは6カ月は、今まで住んでいた自宅に住み続けられるようになりました。
 
イ 遺贈などにより配偶者以外の第三者が居住建物の所有権を取得した場合や配偶者が相続放棄をした場合など(ア以外の場合)
 配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合,居住建物の所有権を取得した者は、いつでも配偶者に対し配偶者短期居住権の消滅の申入れができますが、配偶者はその申入れを受けた日から6カ月を経過するまでの間、引き続き無償でその建物を使用できます。
 すなわち、旦那さんが死んでしまった奥様が仮に遺産分割によって自宅を手放すことが決まった場合でも、6カ月間は無償で引き続き自宅に住み続けられます。
 
(2)配偶者居住権
 配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物を対象として、終身または一定期間、配偶者にその使用または収益を認めることを内容とする法定の権利が新設され、遺産分割における選択肢の一つとして、配偶者に配偶者居住権を取得させることができることになるほか、被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができることになります。
 
 つまり、今まで住んでいた自宅に「住み続ける権利」という新しい権利(考え方)が生まれました。これによって不動産を所有しているのは金融機関、住み続ける権利は配偶者が持っているといったことが起こります。「住み続ける権利」は、遺贈等によって配偶者に与えられます。
 
2 遺産分割に関する見直し等
(1)配偶者保護のための方策(持戻し免除の意思表示の推定規定)
 婚姻期間が20年以上である夫婦の一方配偶者が、他方配偶者に対し、その居住用建物またはその敷地(居住用不動産)を遺贈または贈与した場合については、民法903条3項の持戻しの免除の意思表示があったものと推定され、遺産分割においては、原則として当該居住用不動産の持戻し計算を不要とされます(当該居住用不動産の価額を特別受益として扱わずに計算をすることができることになります)。
 意思表示の推定規定ですので、遺言において遺言者が別途の意思表示をしている場合は持戻しの計算が必要となります。
 
(2)仮払い制度等の創設・要件明確化
ア 家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策
 預貯金債権の仮分割の仮処分については、家事事件手続法200条2項の要件(事件の関係人の急迫の危険の防止の必要があること)を緩和することとし,家庭裁判所は,遺産の分割の審判または調停の申立てがあった場合において、相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要があると認めるときは、他の共同相続人の利益を害しない限り、申立てにより、遺産に属する特定の預貯金債権の全部または一部を仮に取得させることができることになります。
イ 家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める方策
 各共同相続人は,遺産に属する預貯金債権のうち、各口座ごとに以下の計算式で求められる額(ただし、同一の金融機関に対する権利行使は150万円を限度とする。)までについては、他の共同相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができることになります。
【計算式】
単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)
 
(3)遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲
ア 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人全員の同意により、当該処分された財産を遺産分割の対象に含めることができることになります。
イ 共同相続人の一人または数人が遺産の分割前に遺産に属する財産の処分をした場合には、当該処分をした共同相続人については,アの同意を得ることを要しません。
 
3 遺言制度に関する見直し
(1)自筆証書遺言の方式緩和
 全文の自書を要求している現行の自筆証書遺言の方式を緩和し,自筆証書遺言に添付する財産目録については自書でなくてもよいことになります。ただし、財産目録の各頁に署名押印することを要します。
(2)自筆証書遺言の保管制度
 現在、変造や隠匿のリスクがある自筆証書遺言について、法務局において保管制度が創設されます。
(3)遺言執行者の権限の明確化等
ア 遺言執行者の一般的な権限として、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は相続人に対し直接にその効力を生ずることが明文化されます。
イ  特定遺贈または特定財産承継遺言(いわゆる相続させる旨の遺言のうち,遺産分割方法の指定として特定の財産の承継が定められたもの)がされた場合における遺言執行者の権限等が明確化されます。
 
4 遺留分制度に関する見直し
(1)遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずるとされている現行法の規律を見直し、遺留分に関する権利の行使によって遺留分侵害額に相当する金銭債権が生ずることになります。
(2)遺留分権利者から金銭請求を受けた受遺者または受贈者が、金銭を直ちには準備できない場合には、受遺者等は、裁判所に対し、金銭債務の全部または一部の支払につき期限の許与を求めることができます。
 
5 相続の効力等に関する見直し
 特定財産承継遺言(いわゆる相続させる旨の遺言のうち,遺産分割方法の指定として特定の財産の承継が定められたもの)等により承継された財産については、登記等の対抗要件なくして第三者に対抗することができるとされている現行法の規律が見直され、法定相続分を超える部分の承継については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないことになります。
 
6 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
 相続人以外の被相続人の親族が、無償で被相続人の療養看護等を行った場合には、一定の要件の下で、相続人に対して金銭請求をすることができることになります。
 
7 施行期日
 改正法の施行期日は、原則として、2019年7月1日こととされていますが、遺言書の方式緩和については、2019年1月13日から施行され、また,配偶者の居住の権利(前記1)については、2020年4月1日に施行されることとされています。なお、遺言書保管法の施行期日は、2020年7月10日に施行されることとされています。